第1話 意味不明な場所から始まって理不尽なのは鉄板 後編
なんか騒がしい。
ゴツゴツした岩の上ではロクに眠れず、眠りが浅くて直ぐに目が覚めた。まだ六時じゃないか。視界内に見える残り時間のところが、現在時刻っぽくなってるのは昨日の夜に気がついた。
そして自動翻訳機能で言葉が通じると、勝手に思い込む事にした。
「お、はじまったか」
何か騒がしくなり、オッサンがそんな事を言いだした。
「何が始まったんですか?」
「脱走計画だ。ここじゃ人間扱いされねぇからな、全員で日時を決めて抜け出す手はずになってた」
「なってた?」
「お前は今まで見たことなかったからな。気絶した後に俺と一緒に病人用の牢屋に入れて貰った。普通だったら数十人いっぺんにここに連れて来られるんだけどよ、一人だけ知らない顔が兵士にボコボコにされててみろ。帝都が送り込んだスパイかと疑うだろ? だから俺が貧乏クジを引く事になったんだよ」
「そうでしたか……」
「まぁその様子だと、なんか違う気がするがな」
「えぇ、違うと思いたいですね」
「「……」」
お互い気まずい沈黙が流れる。
「出たいですか?」
俺が先に口を開いた。
「お前、この鉄格子を素手で壊すのか?」
「流石に素手では無理ですがね。でも少し試したい事が」
俺はタブレットを操作して、いつも使う装備欄を開き、支援型装備ではなく、多少攻撃できる盾持ち装備を選択する。
体は強化ボディーアーマーに包まれ。左手に透明な盾、右手には昨日寝る前に確認したサプレッサー付き
そして腰には閃光手榴弾と、
時代的には物凄く旧式だが、熱狂的なファンがスタッフにいるらしく、世界各国でコピー品が出回ってるって事で、このゲームでもいまだに現役だ。それに先っぽの飛んでいく部分が比較的細くて持ち運びやすいのも、このシリーズで採用され続けてる原因かもしれない。
ちなみにサプレッサーを銃に付けると、勝手にソニックブームが出ない
強化アーマーのヘルメットのバイザーには、ホラータッチのドクロ。目の部分にハートマークのシールを貼り、頬をピンクに染めてる意外にラブリーな奴。
盾にはSTOPと書いてある看板シールに、人を殴ったような血まみれシールを貼り、弾痕やひび割れシールをゴテゴテ貼ってある。ちなみに内側からはシールは一切見えない。視界に優しい仕様だ。
「お、お前……魔法使いだったのか!?」
「魔法? タダの兵士ですよ」
鉄格子のつなぎ目部分のごっつい上下の蝶番に、扉を壊す用の導爆線を引っかけ、出来るだけ裏に下がり、おっさんの前に立って盾を構える。
「耳を塞いで、口を開けて下さい」
おっさんは俺の言う通りにしたので、遠隔操作で爆破できる黄色っぽいリモコンを二回握り、鉄格子の扉を破壊する。
爆破した時に大きな音がしたけど、今さらだろう。俺は扉を蹴って開けて盾を構える。
「なんだアレは!?」
「変な奴がいるぞ!」
騒ぎを聞きつけた兵隊っぽいのが数名、棒を持って現れたが、タダでさえ大きな体に強化ボディーアーマーを着込み、見た目が硝子っぽい盾を持った男が立っていたらそりゃ驚くよな。
「貴様! そこを動くな!」
「あんたらに恨みはないが、お前等の仲間に鞭で打たれ、棒で思い切り殴られた恨みがある。悪いが寝ててもらうぞ。オッサン、耳をふさげ」
俺は言い終わった瞬間に思い切り走り、中央にいた兵士を盾で殴って吹き飛ばした。
吹き飛ばされた兵士は気絶しているのか動かなくなった。
だが周りにいた兵士は、臆する事なく棒で殴りかかってきたが、殴った棒が折れ、盾や強化アーマーに一切傷つく事はなかった。
俺は腰の専用のポーチから筒状の物を慣れた手付きで抜き取り、安全ピンを抜くとレバーがキンッと乾いた音共に飛び、あと数秒で爆発するソレを足下に落とした。
俺が怪しげな物を落したので、注意深く見つめていた兵士はもの凄い光と轟音で目を抑えたままフラフラし始めたので、盾で殴りつけて転倒させ、顔を踏んで確実に気絶させておく。
落としたのは
「あ、あんたはいったい……」
「ただの野良の盾使いですよ」
ヘルメットの防音付き集音機能とバイザーで、強力な音と光は防げるし、聴力や視力は奪われる事はない。よく俺が使っている戦法だった。
この状況が小説とかと同じなら大抵は戻れない。腹をくくった方がいいか? まぁ出てから考えるか。
それと視界のすみに映ってる強化アーマーの耐久値があの攻撃で99%にしかなってない。銃弾を防ぐんだから当たり前か。ってか今100%まで回復した。
「おいオッサン。武器だ。自分の身はある程度自分で守ってくれ」
俺は盾で吹き飛ばした奴の棒を拾い、放り投げて渡した。
「俺が先行する。出口まで案内してくれ」
「おいおい、いきなり口調が変わったな」
「似合ってるだろ?」
ゲーム口調でニヤついて見せたが、ヘルメットをかぶってバイザーを下ろしているのを忘れてた。
「お前におっさん呼ばわりされたくねぇ」
そんな事を言われた。確かに俺もおっさんだったわ。
□
しばらく歩くと、また同じ様な集団がぞろぞろと出てきたので閃光手榴弾を投げ、倒れて動かなくなってる奴は放っておき、目を押さえて転がってる奴は、盾の縁をもって思い切り腹に突き立てて気絶させる。
「馬鹿野郎! さっきの投げるなら投げるって言えよ! くそ、耳が痛てぇ」
「悪かった、けど敵が背中向けてたら、気が付かれるから言わねぇからな」
「今倒した奴らが出てきたところに入れ」
「あいよ」
やっぱり殺せないんだよな。
「この先に、石炭を積み込む広場みたいなのがあるが、そこの先が厄介なんだ」
「どんな感じなんだ?」
「見張り台が四塔、その隙間を完全封鎖するように石材で出来た壁。そこの壁の上には兵士がズラーって並べるようになってる、つまり広間に出た瞬間に弓で狙い打ちだ」
「何か勝算が合っての暴動なんだろ?」
「いや、死ぬ気でどうにかするだけだ。最悪全員死んで、この炭坑の生産力に打撃を与えるのが目的だ。まぁ帝都に対する最後の嫌がらせだな」
「どうしてそんなに笑ってられる……」
「死刑にされる様な奴らが、無理矢理生かされて働かされてるんだぞ? 死ぬ覚悟はできてる」
発想が狂ってるな。
さらに歩くと、大きく開けた場所があり、ツルハシやスコップ、石を持った囚人達が三百人を超えて集まっていた。
「ここから先は大半が死ぬだろう。いや全滅かもしれねぇ! けど、ここで死ぬまで働かせられるより、潔く死のうじゃねぇか! 野郎ども、手はずはわかってんだろうな!」
「「「「応!」」」」
止めた方がいいんだろうか? いいや、止めるか。
「おい! ちょっといいか?」
「誰だ貴様!」
リーダー格の男が、速攻で言い返してきた。まぁ、こんな見た目じゃ仕方ないよな。
「昨日入った新顔だ、俺にいい考えがある」
自分で言って、なんか駄目な気がしてきた。司令官的な意味で。
「言ってみろ」
「ここから出たら、逃げられないように壁があるんだろう? 弓兵が沢山並んでるかもしれないんだろう? 俺がその壁に、大穴を開けられるとしたらどうする?」
そんな事を言いながら装備変更をする。閃光手榴弾をC4プラスチック爆弾に変えるだけだけどね。
このC4プラスチック爆弾は、TNT爆弾より威力が強く、三キロで二百ミリのH型鉄鋼を切断できる威力がある。小包程度の大きさでも、ゲームでも近距離なら一撃死させられる威力だ。
「不気味な格好した新入りが何を言いやがる」
「こいつは魔法が使える! もしかしたらやれるかもしれねぇぞ!」
「本当かダズ!」
このオッサンはダズって言うらしい。
「あぁ、俺は見た! 光の魔法で一度に兵士を倒すところを!」
どうでもいいか。もう言われちゃったし。
「どうせ死ぬなら、少ない方がいいに決まってらぁ! 新入りの言う通り任せてやろうじゃねぇか!」
脱走しようとして、いろんな意味でハイになってるなこいつら。
「了解!」
俺は出入り口に向かって歩き出すが、一歩進むごとに囚人達が避け、モーセになった気分になる。
「まぁまかせろ。似たような状況は何回も経験してる」
ゲームで!
視界の左上のMAPを見ると、確かにコの字型に光点がずらりと並んでおり、人が待機してるのがわかる。
丁度一分経ったので、俺はC4を扉に引っかけ、数歩だけ離れて盾を構えて起爆させ、爆炎と土埃と一緒に一気に外に出る。
外に出て数歩、矢がほぼ全面から飛んでくるが大半は盾で弾き、強化アーマー部分にも飛んでくるが、貫通はしなかった。
アーマー耐久値はまだ88%も残っている。少しだけ後ろに下がる距離が足りなかったのか、爆発でダメージを受けたようだ。
左手に持ってる盾を地面に突き立て、持ち手の親指部分の根元の方にあるボタンを押すとアンカーが飛び出し、勝手に深くまで刺さり、盾を手離しても自立してくれるようになる。その盾の陰に隠れ、背中のRPG-7を盾の右上の欠けた部分に乗っけて正面に射出し、大きな木製のドアを破壊した。
そして、また盾の陰に隠れ、手元に残った筒に背中から突き出てる先端を取り出して差し込み、先ほど壊した場所の右の見張り塔辺りにもぶち込み大穴を開ける。
こうなったら関係ないな……。
俺はみぞおち辺りから斜めに刺さってる、サプレッサー付き
右から左、左から右、薬室に一発だけ弾を残した状態でリロードし、弾切れ状態を知らせるホールドオープン状態にさせない様に気を付け、どんどん処理をしていく。
しかも使い切ったマガジンは、地面に落として十秒ぐらいで消えた。
「案外平気な物だな……。殺してるっていうのに」
そう呟き、中途半端に弾が残ってるマガジンを地面に落して新しい物に交換し、盾を持ち上げ前進する。が、右下の数字は、残り五発ほど残ってたマガジンを交換したのに、全体では七発分しか減っていなかったし、弾がなくなる前にリロードすると、視界内の弾の表示が十三発になっている。
マガジンに十二発、薬室内に一発って事で十三発って事だ。
「ゲームに忠実だな……」
そんな言葉が自然に漏れた。
「射殺せ! なんとしてでも射殺すのだ! それと魔法使いを連れて来い! 矢ではどうにもならん!」
そんな声が聞こえるが、気にせず盾を構えたまま前進し、右の真ん中の窪みから銃口を出し、ゲームでは出来なかった、盾を少しずらして、盾を構えたままアイアンサイトを覗いて敵を処理していく。システム的に、銃を構えると盾が斜めになって足元が見えて狙われやすくなる。そうしないと盾を持ってない人からクレームが来るからな。
ちなみにだが盾を正面に構え、銃だけを右上の窪みから出して撃っても当てられた。
長年の経験が生きてるな。銃口を盾の縁に乗せて、首と手首をとある場所と角度で固定し、盾の持ち手の部分から少し上の辺りの、大体あの辺に飛ぶという事は五シリーズ通して体に染みついてる。
なので盾を正面に構えたままでも、ある程度は狙いを付けられる。
「なぜだ! あんなひび割れガラスの盾なのになぜ射貫けん……。しかもあの変な形の短杖で何かをすればこちらが倒れる……化け物か! えぇい、鎧の隙間を狙え!」
当たり前だ、矢よりすごい物を防御できる盾と鎧だからな。まぁ、せいぜい頑張ってくれ。
ってか、爆風で吹き飛んだり、落ちても平気なように、関節の可動部位が制限されいるから、隙間とかすごく少ないぞ? 首なんかアーマーとヘルメットがぶつかって真上が向けないからな。
背中だってそんなに反れないようになってるし。
それとどう見てもシールです、本当にありがとうございました。
そして爆発物のRPG-7の弾が回復したので筒に入れ、左側の見張り塔にも大穴を開ける。
銃を正面に構え二発づつ撃ち、当たったら次へというのを繰り返していく。
弾が残り一発になったら、銃からマガジンを抜いて百八十度回転させて左手の盾を持っている手に持ち、胸のマガジンポーチからマガジンを取り出し、慣れた手つきでマガジンを銃に入れ、また右手に銃を持って盾の縁から銃を出して撃つ。
「野郎共! 新入りがやってくれた! 今突っ込まねぇでいつ突っ込むんだ! いくぞぉ!」
「「「応!」」」
おー後ろで何か聞こえるねぇ。まぁ援護でもしますかね。
「煙を焚く! みんな煙の中に逃げ込め!」
俺は腰についてるスモークグレネードを、正面に開けた大穴とC4で開けた炭鉱の出入口に投げ、煙を充満させて脱走の手助けをする。
これで立派な犯罪者だな。
まぁ、多分戻れないから、せいぜい楽しませてもらおうかね。この世界を……。
――銃器関係に詳しくない人の為の緩い武器説明――
気になったら自分で調べて下さい。
mk23:軍用自動拳銃。某単独潜入するゲームの蛇さんが使って話題になる。日本ではソーコムと言った方が知名度が高い。特殊部隊用に作られたハンドガンなのに、特殊部隊が使わない不遇なハンドガン。
閃光手榴弾:爆音と閃光を出す非致死性兵器。一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状が出る。
LDEの懐中電灯を一瞬だけ目に当てて、目を開けても閉じても中央に白い点が残ったりする感じで、一時的に視力が低下する感じだと思ってください。
透明な盾:不思議な材質で出来ていて、ゲーム中では航空機の銃撃も防げる凄い盾。戦車の弾でも防げちゃう謎性能。持ってる人間が吹き飛ばない不思議。
謎の薬 ワカラナイ、コムギコカナニカダ……
多分天然由来の痛み止めが沢山入ってたり、再生能力が異常なほど高まる奴かもしれない。
強化ボディーアーマー:謎構造と謎物質でできている。銃弾や炎や閃光や轟音を防ぐ、毒ガスも防げちゃう。耐久値が時間で回復するゲーム通りの不思議使用。
関節の可動域が狭く、中の人間を守ってるという設定。だから、腕や足や頭が変な方向に曲がらないらしい。
C〇Dとか給料日のアレを想像してください。
サプレッサー:減音器、銃の先から出る光や射撃音が小さくなる
C4プラスチック爆弾:TNTの1.3倍くらいの威力。3.5kgくらいで、200mmのH鋼を切断できるらしい。
導爆線:柔らかく紐みたいな爆弾。結構威力があるっぽい。
RPG-7:色々有名なヤツ。映画で戦車を狙ったり、車を狙ったり、壁を狙ったりと使い方が豊富。
何秒か飛ぶと自爆するタイプもあるけど、粗悪品が多い。
。
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