第1話 意味不明な場所から始まって理不尽なのは鉄板 前編
俺は今、VRの
名前からわかる通りシリーズ物で、今回で五作目だ、しかも六作目が出ると発表されたので、ゲームが出始めてから結構月日が経っている。
世の中には『戦争は未経験者にとっては魅力的だ』って言葉を残した奴がいるけど、確かにそうだ。このゲームは、そんな奴等が集まるゲームで、仮想空間内で戦争を楽しむゲームだ。
ちなみにタイトルだけど『第三次世界大戦でどのような兵器が用いられるかはわからないが、第四次世界大戦では石と棒で争われるだろう』って言葉を皮肉ってるんじゃないかと俺は思ってる。
そのゲームを特に本腰を入れる訳でもなく、仕事が終わって、家に帰って夕食と風呂を済ませてから、寝るまでにビールを飲みつつ数ゲームだけプレイしてから寝る。そんな生活をしていた。
昔みたいに寝る間を惜しんで遊ぶ事はなく、気軽に楽しむ歳になってしまった。
年齢と共に気軽に楽しみたいって気持ちが強くなっているので、決まった仲間達でチームを組む小隊も入らず、野良という、いきなり知らない人同士でチームを組むプレイをして、即座にどういうスタイルで行くかを決めるのも楽しみの一つだ。
まぁ、圧倒的に少ないプレイスタイルをしていたので、知らない小隊に誘われる事は多かったが、リアル優先で、一日のプレイ回数も少ないという理由で断っていたし、とある映画やマンガを見て、フリーの傭兵的な物に憧れてたりしたので一人で気楽にやれる方が良い。
しかも決まった奴等と小隊を組んでプレイをすると、全員の役割や、お互いの弱点も分かるので個人的につまらなく感じるし、勝利にこだわりすぎる奴もいたから、ピリピリもしていた。だから年齢と共に少し距離を置かせてもらった。
楽しむのが目的のゲームに、熱くなる必要はないと俺は思っているからね。
アバターも、可愛いかったり綺麗な女性も作れたが、俺は熟練のアメリカ系傭兵風の見た目にした。
三十代後半で筋肉モリモリ、あちこちに傷跡や弾を食らったようなアクセサリーも追加し、ヘルメットで大半は隠れる髪型も少し伸びた丸刈りで、黒髪碧眼で目つきもクソ悪い。
リアルで会ったら、即逃げ出す系のおっさんだ。
血塗れで泥臭い戦場に、かわいい系はあまり必要ないってのが俺の持論だからこのアバターにした。
プレイヤーネームは、当時何を思って付けたかは覚えてないが、
まぁ、知り合いからは『ホウレンソウさん』とか『スピナさん』とか『ナッ○゜』と言われていた。まぁ、大抵は「ナッ○゜避けろ!」だったけど。アカウントでプレイたーネームが固定だから、公式ホームページに行って変えない限りそのままだ。面倒だから変えてないけど。
ゲームのマップだけど、銃を持って広い工場のような屋内や荒野、砂漠や戦場を駆け回て敵を見つけたら撃つのが一般的なプレイスタイルだが、俺は銃弾や爆発物を防ぐ特殊な素材でできた、体がほとんど隠れる左右の上と中央が欠けている透明なタワーシールドみたいな盾を装備していた。
盾を構えるとゲームの仕様上、
しかも盾が邪魔で真正面に構えられないので、サイトを覗かず、左右上のくぼみから銃だけを出して、スプレー撃ちと呼ばれる大体のところを狙って撃つ事しか出来ない。もちろん装備しない事も出来る。
盾を背負えば、
だけど俺は、チームの支援に徹するために、航空支援機を打ち落とす小型のミサイルランチャーとかを装備して、上空に現れたらそれを使って撃ち落とす事を率先してやっていた。
更にあらゆるダメージを軽減する全身を覆う強化アーマー、通称ジャガノを装備して、左右や後方からの銃撃にも耐えられるようにしたが、盾や重い武器を装備すると移動にペナルティが発生し、数種類ある強化アーマーの類にもそのペナルティーが発生するが、一番防御力がある物を選んで装備している。
だから移動速度が、一般的な装備とされている人の三割まで減ってしまう。
だが遅れて最前線に到着し、殺傷能力のない物凄く大きな音と光が出る
そして昏倒している敵を盾で殴りつけ、注目を浴びるように振る舞い、なるべく生き残って仲間に敵を撃たせる。
これで仲間は死ににくくなるし、俺も死ににくいのでかなり役に立っているらしく、ノリノリの知らないプレイヤーは俺の後ろについて、俺をどうにかして殺そうとしている敵を撃つという、即興の連携も始まったりする。
しかも、自動翻訳機能がついてるので、ボイスチャットで意志疎通は簡単だ。
まぁ、コレが俺のプレイスタイル、完璧な囮支援型だ。
装備覧を変えたい時は、ゲーム中ではなく、ロビーで待機してる時にじっくりと選ぶことができるようになっているので、ありとあらゆる状況に対応できるようにしてる奴が多いが、俺は装備覧の半分に盾が入っている。
そしてあらゆる状況に対応できる様にしておき、死んでから生き返るまでに装備変更を選んで、装備を変更するのが一般的だ。
ゲームの仕様だが、弾薬や爆発物は倒した敵から拾うか、何故か自然回復する。多分戦場が広かったりするからだと俺は思っている。
武器の種類や強さで色々違うが、一秒で一発回復したり、十秒で一発だったり色々だが、爆発物系は三分で一個だったりする。
それに銃だってかなり古い物から近未来的な物までそろってて、マスケット銃に銃剣を付けて突っ込んで来るチームも存在する。
何回かそのチームと出会った事があるが、チーム全員で固まって動き、全員で走ってくるから本当に怖い。服装も南北戦争風の物を着てるから、未来にタイムスリップしてきた軍隊っぽくて笑ってしまった事があるし、第一次、第二次世界大戦風な人達もいるし、酒を飲みながらやってると一人でニヤニヤしてしまう。
けどマガジン一本を三十発だとして一本分増えるのに三十秒、戦争ゲームで三十秒といったら結構長く感じる時間だ。
待ってる間に回り込まれ、蜂の巣にされる事もある。
殺されれば復活までにペナルティとして二十秒かかるが、復活後は銃に一マガジン、予備に三マガジン。それからまた一定数まで回復って感じだ。
たまにだけど、普通に銃を持って適当にぶっ放したりしたい事もあるので、その時は左手前腕についているタブレット風な端末で、十個ほど保存できる装備覧を選択すると、死んでいなくても十数秒で望んでいる装備に変わるが、ペナルティーで一分間は攻撃が出来ない。前線まで移動する時間とか考えれば妥当だと思う。
アクセサリーのマガジンポーチで、弾の最大値を上げて多く持つことも出来るが、銃をあまり撃たない盾使いには意味のないアクセサリーだ。
装備品はプレイ時間やキル数、アシスト数で解禁になっていくので、全く敵を倒せなくても戦場にいるだけで、全ての装備品が解禁できるようになっている。
もちろん持っている武器で敵を倒した方が、解禁は早い。
シリーズ一作目で、撃つだけ撃って、爆発物を一個だけ残して使い切ったら自爆するというスタイルが一時期流行った。死んでから復活する時間が短いので、そういうプレイが目立ち、運営が大至急で修正パッチを当ててからはソレができなくなった。というよりは、ペナルティーが大きすぎて、やるとかなり制限がかかる。
この辺りは内部の設定か何かで、判断しているんだと思う。
武器を持たずに、体中に手榴弾や爆発物を付けて、豆撒きの時の子供の様に投げて自爆されると、結構場が荒れて迷惑だった思い出があるのを覚えている。
まぁ、爆発物耐性もジャガノ装備には付けていたので、一気に五個くらいまでなら、足元で手榴弾が爆発しても平気だったから俺は問題無かったけど、味方が全員殺され俺一人だけになる事があった。
あの時は十人くらいに囲まれ、ダメージを軽減する強化アーマーを付けていても、一瞬で殺された。
ダメージだが、数発までだったら耐えられるが、心臓のある胸の部分や、頭に弾が当たると、ダメージが二倍だったりするので一概には言えないが、一発から数発食らうと瀕死状態になり、その時は多少攻撃できるが照準が定まらず、その場から動こうにも芋虫みたいに這って、物陰に隠れるのが限界だ。
瀕死状態も一分ほど続くと死亡する。なので、謎成分満載の注射を胸や首筋の辺りに刺して、快復させる。
オフラインのチュートリアルで、陽気な奴がノリノリで横たわってる奴に注射器を刺して、一瞬で立ち上がる光景は毎回恒例となっているが、公式もネタにしているので、毎回手の込んだ物を見ることができる。
「おいおい、生き返らねぇぞ?」
「馬鹿、死にそうなのは隣だ」
「HAHAHA! 両方ミンチでコンガリだからわからなかったぜ。俺の手持ちがなくなった、お前やれよ」
とか言われ自分が注射器を刺す事になる。どう考えても即死で生き返らない見た目……というか仲間の死体にモザイクがかかってるのに、速攻で復活するぶっ飛んでるチュートリアルだった。
ノリノリで皿に乗ったハンバーグに注射器を刺す。公式の動画にはかなり笑った。
一時期動画投稿サイトで、それを真似した動画があふれてたし、料理番組風にアレンジされたものまであった。
まぁ、俺はこんなゲームを本腰を入れずに、長年ダラダラと楽しんでいる。
風呂上がりに、一日の終わりのスイッチとして軽くビールを飲みつつイスに座り、大型のヘッドマウントディスプレイを装着し、コントローラーを持って電源を入れる。
飲酒プレイは、なんだかんだで楽しくできるから最高だな!
そして目の前に現れた文字には『マルチプレイ緊急メンテナンス中』と出ており、仕方がないのでストーリーモードをイージーで進めて、ストレス発散プレイで暇を潰そうと思ったら、炭鉱の最下層に作られた巨大施設の破壊ミッション中にいきなり画面が暗転し、停電かと思い急いでヘッドディスプレイを外して外を見るがおかしいくらい真っ暗だ。
月明かりも見えず、近所の大きなホテルや病院の非常用電源も作動していない。
置いたヘッドディスプレイを手に取ろうと思っても、何故か見当たらない。
おかしいと思ったら、ストーリーモードで敵に捕まり、地下の炭鉱っぽい施設で強制労働させられてるシーンにそっくりな場所が目に入ってきた。
違うと言えば、明かりは松明と古いランプだけで薄暗く、掘削道具もツルハシとスコップ。
ゲーム内では
そして、汚れまくってボロボロになった、荒い麻を織ったような布で作った服を着ていた。
しかも視線がいつもより高いし、筋肉隆々だ。
「なんだよこれ……」
自分の手を見ながらそんな事を呟いていたら、声まで違う。
「そこの貴様! 何をサボっている!」
そんな言葉と共に鞭が飛んできて、背中を打たれた。
「痛って!」
物凄く痛い……。ゲーム中はどういう理屈かはわからないが、低周波治療器っぽい弱い痛みを感じ、どの辺に被弾したかがわかるようになっているが、この痛みは尋常じゃない……。
「なんだその反抗的な目は!」
そんな言葉と共に何回も鞭が飛んできて、騒ぎを聞きつけ、鞭を振るっている奴と同じ様な鎧を着た奴が数名が、棒を持って俺の事を滅多打ちにして、気が付いたらゴツゴツした地面に直接寝かされた状態で目が覚めた。
□
「おう、目覚めたか。あんた見ねぇ面だが、新入りか?」
同じ様な服装で、泥と垢にまみれた、かなり髪と髭の長いおっさんが喋りかけてきた。
多分ここに入れられてから、一回も体をふいたり、身だしなみ系を整える事はできなかったんだろう。
「すみません、ここはどこでしょうか?」
起き上がり、辺りを見回すとくり抜いた岩に鉄の棒をはめ込んだ、牢屋の様な場所で目が覚めた。
「あんた、見かけによらず丁寧な言葉使いだな。まぁいい、俺が気にする事じゃないな。ここは帝国アラバスターの所有してる炭坑だ。主に囚人用の……な」
聞いたことがない、WW45でも聞かない単語だ。帝国? 日本じゃないのか?
「おいおい、そんな難しい顔すんなよ」
「あぁ、すみません。記憶にないもので……。気が付いたらここにいまして」
「頭でも打ったか? それとも飯不足か? 髪の毛も短けぇし、ぶつけたら痛ぇだろ。それにそんな体じゃ、あれっぽっちの飯じゃどこにもたらねぇわな」
髪の毛が短い? 俺は短髪ではない。そんな体? 俺は中肉中背……まぁ、最近腹が出始めて来たけど……。それに見かけによらず丁寧な言葉使い……。
「鏡とかあります?」
「んな高ぇもんここにはねぇよ」
鏡が高い? 俺は少し首を傾げる。
「そこの水瓶でも覗け」
そう言われたので、鉄格子の近くにあった水瓶を覗いてみる。
そこにはWW45で作ったアバターそっくりの顔があった。ってかそのままだった。
「おいおいおい……」
「どうした、自分の顔に絶句してるのか? 残念だったな、整った顔してなくて」
「えぇ、ショックですね」
「まぁ気を落とすなよ、戦場じゃ頼りにされる顔だぜ?」
「ありがとうございます」
現実でもない、ゲームでもない、日本でもない。ここはどこだ? 帝国アラバスターの炭坑? 外国の炭坑だとしても、今時松明はあり得ない、しかも時代錯誤な鎧、囚人を執拗に殴る蹴る……。あり得ないな……。しかも傷が消えてるし、痛みも痣もない、言葉も通じる、なんだこれは……。
あ、左手前腕……。
そう思い俺は腕を確認する。
「あった」
「何があったんだよ」
「これが見えませんか?」
俺は左手前腕にある、画面が青白く光る端末を見せつける。
「そこに何があるんだよ。本当に頭大丈夫かよ?」
「えぇ、大丈夫です……」
そう言うと、垢だらけで薄汚れた男は寝転がってしまった。
目の前のおっさんには見えてない。とりあえず左腕のタブレットをいじり、装備一覧を出して、銃だけ選択してから決定ボタンを押す。
そうすると、俺の右手にはずっしりとした重みの、全体的に黒い
視界の右下に、持ってる銃の名前と真横から見たアイコンに残り弾数が表示され、一秒毎に一発づつ残り弾数が増えている。
ある一定の数で弾の上限が止まる筈だが、12/136と表示され、ポケットが少し重いので調べるとマガジンが一個入っていた。
しかも視界の左上にはMAPと人である光点が数個ほど見える。ゲームっぽいけど痛みは本物……。
んー、なんだこれ……。マガジンのストックは、マガジンポーチを装備した数である程度変動はあるが最大で十個までで、この銃だと13/120で上限なんだが……しかもまだ増え続けてる……。
あれか? 小説とかアニメとかでよくある奴か。あり得ないと思ってたが、実際体験っぽい事してるし、左手の端末にログアウトの文字が灰色で映っている。
タッチしても反応がない。ゲームプレイ中でもログアウト出来るんだけどな……。
とりあえず銃は消して寝よう。
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