第2話 話せるのに字が読めない 前編

 全員が逃げた後に、おまけで一発だけ回復したRPG-7を使って、炭坑の出入り口を崩してきたけど。牢屋の前で気絶させた奴がいたことを思い出して、多少罪悪感を感じたが今さらだし、本音を言えばゲームをやっている感覚に近い。


 ちなみにこの帝国の首都は、背中側が山で扇状地みたいな感じで出来てるみたいだ。そして中央に大きな城。そしてコの字型の防壁……半分天然要塞だな。


 タブレットを操作して、重い鎧からジーパンに黒のロングTシャツ、キャップとストールという身軽な民間軍事会社PMC風の装備に切り替え、何食わぬ顔で歩くが服装が皆と違い過ぎてもの凄く浮いている。金が手に入ったら現地装備を買うべきだろうか?


 そして麻布で織ったボロい服を着ている奴が、兵士に捕まってるのをあちこちで見かけ、徘徊してる兵士もなんか多くね? ってな感じでいるが、服装でしか見分けてないみたいだ。時間は午前八時か。捕まえている奴の数を見れば、初動としては早いな。


 見た感じ中世の近世風な鎧だけど、帝国や帝都って名乗ってるだけあって、北欧風から中東風まで様々な兵士がいる。国が滅ぼされる前に降ったのか?


「そこの怪しい奴、止まれ!」


 とりあえず無視して歩く。全力で俺じゃない誰かに言ってるんだろうなーアピール。


 そしてふくらはぎに強烈な痛みが走った。どうやら槍で殴られたらしい。


「痛えぇ! 俺かよ。怪しい奴じゃわからねぇから、特徴言って止めろよな!」


「この辺で見かけない服だし、なんて言っていいか分からないから、怪しい奴って言ったんだよ!」


「あぁそうかい! じゃあなんだよ!」


「怪しいから捕まえるに決まってるだろ!」


 疑わしきは罰するかよ。


「大体何があったんだよ! それくらい言えよ!」


「炭坑で暴動が起きて大半の囚人が逃げた。だからだよ!」


「クソみてぇな理由だな! この税金泥棒がぁ!」


「どの道抵抗したから結果は同じだよクソが! 左肩のナイフを預けろクソが!」


「クソクソうるせぇよクソが! ほらよ!」


 少し調子に乗ってみたが、詳しい情報はまだ出回ってないみたいだな、それに兵士に暴言を吐いても、むやみに切り捨てられないから、それなりに良識があるんだろう。まぁ、それっぽく付いて行くか。



 俺を殴ってきた兵士について行くと、すでに処刑が着々と進められており、民衆のガス抜きの場となっていた。


 こいつ等は短い夢だったな。


「じゃあ、その今まで見た事のない変な鎧と、ガラスの盾を持った奴がやったって言うんだな」


「何回も言ってるだろう。長々と練った計画だったのに、そいつが来て扉を一瞬でぶっ壊していきやがった」


 いや、どう考えても計画性なんか皆無だったよね? だってあの扉抜けたら。全滅覚悟の物量作戦だったし。


「しかも変な黒い物を握ってて、次々と兵士を離れたところから倒して行きやがった。あいつは手練れの魔法使いに違いねぇ。しかも筒を担いだら、扉と石レンガ作りの壁が吹き飛んだ」


「もういい、殺せ」


「全部喋ったんだ、何で殺すんだよ!」


「逃げたからに決まってるだろ! 連れてけ。しかもその情報は何回も聞いてる。次はお前だ」


 兵士は俺の方を見て、顎で指示してきた。


「おう。で、なんで俺も連れてこられたんだ?」


「ガッチリした背の高い短髪、いきなり鎧に身を包み、髑髏どくろの模様の入った兜で、ガラスでできた血まみれのボロボロ盾を持っていた奴が、炭鉱の犯罪者と一緒に逃げ出した。鎧なしの外見だけなら一致する」


 んー……。情報が漏れてるって事は、俺が一気に変わった場所を見ていたダズさんが言ったって事だよな?


 多分あそこの、血溜りの中で死んでるな。


「どう見ても鎧とか着てねぇが? それに鎧ってクソたけぇんだろ? 普通の服を着てる俺に買えるんか?」


「……それもそうだな。連れて来て悪かった。帰っていいぞ」


 ザルだな。まぁ、これからどうやって日銭を稼ごう。こういうのって、ギルドとかで登録して魔物狩るって言うのがベターだよね。なんか前に読んだ小説で良く書かれてた。



 俺はその辺の人に色々聞き、ギルドの場所までやって来た。


「デケェな。さすが帝都ってなだけはあるな」


 俺は何故かドアのない建物に入り、受付っぽいところに行く。受付だから綺麗所の女性が揃ってるな。


「金と貴重品が盗まれた、どうにかして宿代くらいは今日中に稼ぎたいから手っ取り早そうなギルドに来た。どうにかならないだろうか? しかも昨日から何も食べてないし、このままだと野宿が決定してる。ギルドに登録するのに金が必要なら、稼ぎから分割で払えるような制度とかないか?」


 空いているイスに座り、受付の女性にそれっぽく話しかける。


「えぇっと。今は昼近くなので、日雇いの仕事は無理ですね。今からですと外に行って、魔物を倒して討伐部位を取ってもらうことになります。討伐部位を出して頂ければこちらで買い取ります。登録料は、買い取った討伐部位から一割ほど引いた物をお渡ししますが? どうしますか?」


「……飯が食えて宿に泊まれれば構わない。どれくらい殺せば可能か?」


「本当に最低限でしたら、大銅貨一枚と銅貨五枚で、ギルドの向かいにある宿に駆け出し専用の宿がありますので、そこで泊まれます。ですのでゴブリンを二匹から三匹ほど倒してくれば、食事付きで泊まれます」


「決まりだ。それで頼む」


 なりふり構ってられない。ってかゴブリンの鼻が二から三個で大銅貨一枚と銅貨五枚くらいの価値になるのか。害獣駆除で市役所に持ち込む感じだな。


「では、こちらの紙にご記入をお願いします」


 淡々と説明をしてくれる受付嬢から紙を受け取るが、何が書いてあるかわからない。


「……すまない。字が読めないんだ」


「では、代筆代も含めておきますね」


「頼む」


「まずはお名前を」


「スピナシア・オレラセア」


 咄嗟にプレイヤーネーム出したけどいいか。異世界っぽいし。


「失礼ですが、貴族の方でしょうか?」


「いや?」


「失礼しました。次は年齢をお願いします」


「三十五だ」


 適当でいいよな、見た目がそれくらいだし。


「……前衛ですよね?」


「基本はな」


 それからあまり関係のない事を聞かれ、終わるかと思ったが……。


「犯罪歴は?」


 気が付いたら炭鉱にいて、勝手に出て来ただけだからな。何十人か殺したけど、邪魔するから仕方ないという事にするか。


「ねぇよ、暴力沙汰くらいはあるがな」


 即興で作った設定で誤魔化す。ってか顔見て判断してください。あ、傷だらけだから。


「では、こちらがギルドカードになります。なくさない様にお願いしますね。もしなくしたら、再発行料がかかります。それとある程度の身分証明書になりますので、提示を求められたら従って下さい」


「わかった。で、門から出ればどの程度でゴブリンと遭遇できるんだ?」


「その辺にいますので、うろついていれば遭遇できます。害獣と同じような扱いで、駆け出し冒険者や、村人数人でも畑を守るのに倒せますので問題ありません」


「で、討伐部位は鼻の他にあるか?」


「鼻だけですね。ランクアップの話はどうしましょうか?」


「後でいい、今は時間がない」


「わかりました。ではお気を付けください」


 あっさり登録できたな。しかもランク1ってなんだよ、GとかA、Sとかじゃないの? まぁ、読んだ事ある小説でも数字だったな。


 そんな事を思いなら、取りあえず門の外に出る。街道が続き、のどかな感じなんだけどな。どこにいるんだよ……。まぁ、街道を反れた場所の視覚内の光点を追えば問題ないな。



 門を出て、少し歩いてから右に曲がり、人がいない場所を進み、背の低い芝みたいな場所を淡々と歩き、人がいない事を確認し、取りあえず盾装備は避けて、一般的なプレイスタイル装備に切り替える。


 緑と茶色のマルチカム迷彩服を選び、バリスティックヘルメットに四ツ目のナイトビジョンゴーグル。顔にはスカルマスク。プレートキャリアに手榴弾や閃光手榴弾を二個ずつ付けた、装備としてはゲーム内では極々一般的な物だ。


 早い話が映画とかでよく見る兵士っぽい奴だ。


 そして主装備メインウエポンは広い草原なので自動小銃のG36kに、サプレッサーとホロサイト。マガジン近くに着けるマグウェルグリップと、銃の先の方にフォアグリップ付けた銃を選択し、太腿の補助武器サイドウエポンも手になじんでる、サプレッサー付き自動拳銃mk23を選択してその辺を歩く。


 そしてしばらく歩くと、小さな影が一つ遠くに見える。


 俺は自動小銃G36kに標準装備されている低倍率スコープを覗くと、緑色の肌で鉤鼻の、いかにもゲームに良く出て来るゴブリンですよー的な奴を見つけた。


 ゴブリンは辺りをきょろきょろしているだけで、あまり動こうとはしない。何やっているんだろうか?


「試しに撃ってみるか」


 そう呟き片膝を地面に付け、いわゆるニーリングポジションという方法で銃を構え、安全装置をセミオートに合わせスコープの中心で標的を狙い弾を撃つ。

 減音された音が当たりに響き、遠くのゴブリンは立ったままだ。


 ゲームと同じで距離による弾頭の変化あり……。百メートルの距離で、G36kに標準でついている低倍率スコープの中央に当たる様に調整してあるから……。少し上を狙ってと……。


 スコープの中心から一メモリ分上にゴブリンを合せ、もう一度撃つと、今度はゴブリンがその場所で倒れた。


「いい感じだな。このまま日が沈むまでアサルトライフルの感覚を染み込ませるか」



 一匹目を倒してから、早く銃に慣れる為に出来る限り帝都近くのゴブリンを撃ち、もらった革袋に討伐部位の鼻を削ぎ取って入れる。


「あんまり触りたくないなー。グローブあるからいいけどさー」


 そんな事を呟き十数匹を倒し、外見をPMC装備に変更しギルドに戻る。


「査定を頼みたい」


「お疲れ様です、討伐部位の査定はあちらになっております」


 受付嬢は左側を手の平を上に向けて場所を教えてくれた。


「不慣れなんでな。すまなかった」


 夕方には混み始めており、色々な奴から笑われたが無視して査定に行く。こちらで買い取りって言ったから、受付に出すのかと思ったわー。


 査定を待っていると、お決まりと言わんばかりに、多少ランクが高そうな青年が茶々をいれてきた。


「おいおい、そんなナリでゴブリンかよ。仕事でも首になったか? オッサン」


 俺は挑発して来た奴に近付き、睨みながら顔を近付ける。


「とある理由で一切金がない。しかも昨日から何も食ってない。手早く稼ぐためにギルド登録を分割払いで登録し、初心者用の宿に泊まるのにどうにかしたくて今日の昼からゴブリンを狩ってきた。討伐料から一割引かれた報酬でもありがたいくらいだ。飯食ってベッドの上で寝れれば当面は問題ない。むしろ無一文で清々しいくらいなんだが、他に聞きたい事はあるか?」


 俺は突っかかって来た奴を少し脅しながら言う。こんな見た目だ、多少効果はあるだろう。


「お、おう」


 別にこれ以上挑発に乗るつもりはないが、ある意味無職なので本当に何も言えない。


「すまないが腹が空き過ぎてて倒れそうなんだ。失礼する」


 俺はゴブリン十匹分の報酬から、一割引かれた金を受け取り、目の前の宿に入りギルドカードを提示して、格安で宿を利用する。


「なんだいあんた。その年で初心者なのかい?」


「まぁな。深くは聞かないでくれ」


 夕食を食べながら、即席で作った設定を話すと、パンを一個おまけしてくれた。無一文で異世界に来た俺にとってはありがたい。

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