第22話

杏里は恐る恐る亜矢に近付いて行った。そして、

 「こんにちは・・・」

 と、あいさつをした。こんなあいさつをする自分に、杏里は驚いていた。

 「あなたも来ていたのね」

 杏里は亜矢を見上げた。亜矢も着物を着ていたが、柄が菊で、黄色が眩しかった。杏里には亜矢がずっとお姉さんに見えた。バレーをやっているだけあって、背が高かった。

 杏里は顔を赤らめた。その様子を見て、親はにこりとほほ笑んだ。

 「友達と・・・」

 亜矢は杏里の周りを見たが、誰もいなかった。

 「うん・・・ええ!」

 杏里は後ろを振り返ったが、いずみもさゆりもいなかった。

 「ふふっ、一緒に行かない?」

 「はい」

 杏里はまた顔を赤らめた。そして、亜矢の後を歩いた。

 「何処へ行くの?」

 「ふふっ、怖がらなくてもいいわよ。私の家なのだから・・・。こんなに多くの人がいるのもいいけど、家に行って、私と二人だけでお話をしましょ・・・」

 杏里はどきりと胸を時めかせた。木内亜矢の家はこの島の反対側だとは聞いていたから、こんな時間からだと家に帰るのが遅くなってしまう・・・」

 そういう心配が杏里の脳裏を過った。

 「うふっ、大丈夫よ。私が家まで送って行って上げるから・・・心配しないで」

 杏里は亜矢を見上げた。

 「へへっ」

 杏里は頭を掻いた。すると、亜矢は杏里の髪の毛を撫で始めた。

 「柔らかい髪ね。それに、金髪が混じっているのね。きれいね」

 杏里はこの髪を褒められたのは初めてだったので、照れてしまった。

 「ありがとう。私・・・この髪の毛、余り好きじゃないけど、すごく嬉しい」

 島を周遊する道は暗かった。でも、杏里の心は弾んでいた。亜矢の家はもっと先のようだった。少しの不安もなかった。むしろ、これからの数時間がとても楽しくなりそうで、杏里はこれから夢の国に行くような気分になっていた。

それからの杏里の記憶はなかった。もちろん、亜矢とのデートのような時間は楽しく・・・嬉しかった。だけど、後で振り返ってみても、もつとお話が出来なかったのかな、と、悔しくて仕方がなかった。でも、最後に一つだけ杏里が言ったことを、はっきりと覚えていた。

 「また、会いたいな・・・」

 その時、亜矢お姉さんが、なんて返事をしたのか・・・覚えていなかった。

 家に帰って来て、ベッドにはいり、あれこれ考えていたのだけれど、

 「・・・」

 その内、杏里は眠ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る