第21話
杏里はみさ江に紅花紬の着物を着せられた。
「あの子の十歳の頃の着物だけど・・・ぴったりだわね」
いつも起こったような顔をしているみさ江だったが、初めて見る優しい眼をしていた。そんなみさ江を見て、杏里のおばあちゃんなのだが、うふっと笑ってしまった。
「この子、笑っているよ。何が可笑しいんだね」
杏里は初めて着る着物に喜んだ。
「ねえ、ねえ、みさ江おばさん、こんなきれいな着物を着せてくれて有難う」
杏里は家に中を飛び回っている。
「これ、これ、着物を着たらお淑やかにするもんだよ」
みさ江は孫を睨み付けた。
弘美は笑っている。喜んでいる杏里を見るのが嬉しいらしい。
「あの子は、この子に一度も着物を着せたことはなかったのかもしれないね」
「そうかも知れないね」
みさ江は頷いた。
「一人では入れないから、お前さん一緒に行ってやってよ」
「そうだな。杏里、行くかい?」
「はい、行く」
杏里の気持ちは高ぶっていた。きっとみんなも来るに違いない、と思っているからである。それに、ひょっとして、あの亜矢お姉さんも・・・という期待もあったのである。
外はもうすっかり暗くなっていたけど、それ程肌寒くはなかった。
多くの人が歩いている。その先には、厳島神社があるのに違いない。
後ろから誰かが読んでいる。振り返ると、
「いずみちゃん、さゆりちゃん」
杏里に向かって走って来た。いすみもさゆりも、やっぱり着物を着ていた。いずみもさゆりも、お母さんと一緒だった。こうなると、大人は大人同士がかたまり、子供は子供で騒ぎ始めた。やがて、明かりが見えて来た。神社の辺りは明るくなっている。小さな島だけど、夜店が何件が出ていた。
「行こう」
いずみがさゆりと杏里の手を引っ張った。
「私、こんなお祭り、初めてなの」
杏里はうきうきしていた。でも、ちょっと気になっていたことがあった。それは、亜矢お姉さんのことである。
「来る」という約束もしていなかった。でも、杏里は・・・来てくれるような気がしていた。
杏里がきょろきょろとしていると、
「おい、杏里・・・」
という声と共に、前田ゆうきが彼女の前に現れたのだった。
「何をきょろきょろとしているんだ」
「あんたなの。あんたに関係ないから、話しかけないでよ」
「お前、急に何を怒っているんだよ。あっちに行ってよ」
(チィ)
ゆうきは舌を鳴らし、離れて行った。いつもなら気にする杏里だったが、あの人はきっと来ていると信じているから、何が何でも亜矢おねえさんを探す気でいた。
その時、杏里は自分が誰かに見られているような気がした。だから、その方に眼をやった。
「あっ!」
その人はやはりこの祭りに来ていた。杏里を見て、にっこりとほほ笑んでいる。杏里も微笑み返した。
「ねえ、私・・・ちょっとお姉さんに会って来るね」
というと、いすみとさゆりの返事を聞かずに離れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます