第20話

杏里はまだ起きていた。

 (あの人・・・何て言ったのかな、そうだ、木内亜矢お姉さん・・・また会いたいな。この島の反対側の家と言っていたけど・・・会いたいな、会って、友だちになりたい)

 杏里は強くそう思うのであった。その世界は、彼女にとって未知の彼方にある世界だった。

 杏里の夢は限りなく広がって行く。その世界はまだ見ぬ世界ではなく、まさにこの島・・・ヤンゲシリ島であった。島の北東を覆うオンコの林は、杏里にはこの上もない夢想を描きたてるものであり、今となっては心の支えになってしまっていた。

 「会いたい・・・」

 と、彼女は夢を見る。

 この時、

 「杏里、起きているかい?」

 弘美おじいさんの声が聞こえた。もうお休みの挨拶はしたはずなのに、何か用なのかな、と杏里はベッドから出た。弘美おじいさんはニコニコしている。笑顔の少ない人だったので、杏里も微笑んでしまった。

 「実はな・・・」

弘美は今度の日曜日にやる祭りのことを話した。そして、

 「行くかい?」

 「祭りって・・・」

 「厳島神社があってね、この夏の暴風雨で壊れてしまったんだよ。もう今年は何もしないつもりだったらしいんだが、それではいけないというので、神社を立て直したんだ。それが出来て、祭りをやるんだ。杏里は・・・行くかい?」

 杏里は返事に躊躇したが、

 「行く。行きたい・・・行って・・・もしある人が来ているのなら、会いたいの」

 杏里には迷いはなかった。亜矢お姉さんが来るのか、杏里には分からなかったが、何だが来てくれるような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る