第18話
運動場には、何人かの生徒が・・・いた。運動場を走っている男子もいれば、バレーのコート上で互いに向かい合い、トスをし合っている女生徒もいた。
「あっ!」
杏里は運動場にいる生徒を確認すると、勢い良く走り出した。残念ながら学校の周りには敷地内に入れないように金網が張って在り、運動場の中には入れなかった。杏里は仕方がないので金網の所に立ち、元気に走り回っている生徒をしばらく眺めていた。
「どうしたんだい?」
後からやって来た弘美が訊いた。
「うん・・・あっ!」
バレーのコート上でトスをし合っていた女子の一人がこっちに向かって走って来るのに気付いた。どうやらトスをし合っていた相手が取りそこなったようだった。ポールは杏里のいる方に転げて来た。
杏里の胸はドキドキと波打っていた。
その生徒の髪は黒くて長い髪でした。後ろでひとつに束ねていた。杏里が憧れる本当に黒い髪です。
「あの、お姉さん・・・素敵なのよ、お祖父さん」
どうやら、杏里はその子に引かれてしまったようだった
弘美は、
「そうだね、とってもかわいいお嬢さんだね」
と、いい、杏里の反応をじっと観察している。
すると、その女子はじっと見ている杏里に気付いたのか、バレーボールを拾い、走ってやって来た。弘美にはその子がいくつなのか分からなかったが、ここは中学校の運動場だから、十五六才なのかもしれない。まだ、幼さが、彼女の表情に残っていた。
「島の子・・・?」
話しかけられて、杏里はびっくりして眼を大きく開いた。
杏里は少し頷いた。
「いくつ・・・なの?」
「八歳」
杏里は短く答えた。
「そうなの。じゃ、あなたが高校になるころには、私は、もうここにはいないのね」
この時、
「亜矢!何をしているの?」
という声。
「はぁぁい。じゃ、行くね。私の名前は、木内亜矢。船着き場とは反対側の町にいるのよ。遊びにおいでよ」
と、いうと、その子・・・木内亜矢は走って、バレーのコートに向かって走って行った。
杏里は手を上げたが、亜矢を呆然と見送っていた。もちろん、杏里はこの世の中には大きなお姉さんがいるのは知っていた。だけど、今、なんだか別世界の人間を見たような気分だった。
「杏里・・・どうしたんだ?」
杏里の返事はなかった。弘美は返事がないので、何度も声を掛け、杏里の肩を揺すった。
「あっ、お祖父さん・・・」
「大丈夫かい」
「う・・・うん」
「杏里も、いずれはここの高校に通うんだよ。どうだい?」
今感想を聞かれても、これといって何もなかった。ただ、この先、自分は見知らぬ世界に踏み込んで行かなければならないんだ、少し不安になった。
怖いような気がした。三年先の自分の姿なんて、今の杏里には形作れなかった。
「そろそろ、帰ろうか」
家に着くまで、杏里は一言もしゃべらなかった。普段の杏里とは明らかに違っていた。弘美も、それは気付いていた。だが、妻のみさ江には話さなかった。
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