第15話

「こんにちは、羊さん。大きな木ですね。何という木ですか?変な形をしていますね。ねえねえ、羊さん。どうして、みんなから離れた処にいるの?みんなと一緒に遊びましょ」

杏里は羊に話しかけた。へんてこな木はオンコで、この島の冬は厳しいので、ほとんどが真っすぐ伸びないのです。

その羊はひょいと顔を上げ、杏里を見たが、すぐに顔を逸らしてしまう。

「ねえ、あっちに行きましょ」

杏里は羊の首をかかえ、あっちに連れて行こうとする。だけど、全然動こうともしない。

「ねえ、どうしたの?」

いずみが声を掛けて来た。

「この子が、ここから動こうとしないの」

いずみが羊の顔を覗き込んだ。頭の黒い羊は首を振り、歯を杏里に見せた。

「この子・・・笑ってる」

それに気付いた杏里は笑ってしまった。

「ほんとうだ・・・」

杏里は羊の首を抱えた。いずみとさゆりは羊のお尻をおしている。すると、やっと動いてくれた。

やっとみんなの所まで来て、羊は全部集まった。

「疲れちゃった。さあ、遅くなったから、今日はもう帰ろう!」

いずみがいうと、

「うん」

さゆりは笑っている。

「明日は休みだけど、杏里は、どうするの?」

「お祖父さんと本土に買い物に行くのよ」

杏里は嬉しいのか、ワクワク顔である。

「杏里、知っている?」

いずみがいう。

「何が・・・?」

「あそこには、高校があるんだよ」

「えっ、高校・・・本当!」

「ねえ、さゆり」

さゆりはうなずく。

「私たちはまだだけど、ここの中学を卒業すると、そっち・・・つまり、羽幌高校にいくんだからね」

「そうなの。いずみっ家の雑貨屋さんだけでは足りないものかあるから、一二週間くらいに一度は本土に買い物に行くの。その度に、運動場のわきの道から、高校のお兄さんやお姉さんたちを見学するんだから、ね」

その夜、杏里はベッドに入り、横を向きながら、高校のお兄さんやお姉さんが運動場で運動している姿や教室で勉強している真剣な顔をそうそうすると、眼がぱっちりと開き、寝られなかった。窓には星がいくつも輝き、杏里に話しかけて来る。

「杏里、明日は弘美お祖父さんと一緒に本土に行くのよ。すっごく楽しみ・・・」

へへっ・・・

と、杏里はにこにこ笑ってしまう。というのは、今まで年上のお兄さんやお姉さんを道を歩いている時見かけたことはあるけど、みんなただすれ違うだけ。今度は違った。もう少し先だけど、私も、

「わたしもお姉さんになるんだ・・・」

と思うと、また興奮してきた。

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