第14話

「杏里、よく知ってるね」

「うん、島についた日に、お祖父さんに教わったの。その時は、もう暗くなり始めていたから、今度にしなさいって、いわれたの」

いずみがさゆりを見て、

「うふっ!」

と、笑う。

杏里も、うふっ、と笑う。

「よし、決まりだね。今から行こう」

三人はそろって走り出した。

オンコの樹林の中には、三人の少女たちの楽しそうな笑顔を邪魔する人は誰もいない。杏里は、嬉しくて仕方がない。ここは、なんて素敵な島なの。彼女は、このまま何処までも走って行きたい気分だった。

「ワァ・・・」

杏里は叫び声をあげた。先を走るいすみとさゆりも振り向き、

「ワァ・・・」

と、笑い声を出しながら、走る。

やがて、オンコの樹林を抜けると、一面緑の平原に出た。

「凄い、凄いや」

杏里が叫んだ。昨日は暗くなり始めていたので、その様子が分からなかったのだが、今目にする緑におおわれた世界を目にした杏里は、小さな体が支えきれないほどの興奮に襲われていた。

平原の真ん中を、一直線に道が走っている。小さな島だとは分かっているけど、何処までも続いているような道に感じた。

「こっちよ」

いずみが柵を乗り越え、平原の中に飛び込んだ。続いて、さゆりも柵を乗り越えた。躊躇する杏里に、

「早く、杏里!」

さゆりが優しく声を掛ける。

戸惑う杏里だった。だって、他人の土地に断りなく入ったことがなかったんたから。だけど、杏里は思い切って柵を乗り越えようと思ったが、ちょっと怖かったので、柵の間をくぐって中に入った。

それを見て、いずみとさゆりが顔を見合わせ、ここでも笑っている。

「行こう」

いずみはもう走り始めていた。

「あっ、いる」

杏里が白い何かがたくさんいるのに気付いた。

「ワッ・・・たくさん、いるぅ」

二人に遅れて、杏里も走り始める。

どれだけいるんだろう、みんな木の陰に集まり、座り込んでいる。みんな気持ち良さそうにしていた。

「杏里、触ってみて。ふぁふぁだよ」

いずみが杏里を誘う。

杏里はちょっと手を出そうとしない。

「怖くないから、さあ、触って・・・」

さゆりも杏里を誘う。

杏里は手をそっと出し、羊の背中を触った。

「ふあふあだ。気持ちいい!」

杏里は羊に抱き着いた。いずみもさゆりも、そんな杏里を見て、近くにいる羊に抱き着いた。

ここで、杏里は気付いたことがある。十頭以上の羊が木の下に集まっているのに、一頭だけ離れた処に座っていた。

「どうしたんだろう?」

杏里はゆっくりとその羊に近付いて行った。


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