第13話 小さな池

ヤンゲシリの島は、本当に静かだった。その静寂の中、オンコの林の中には舗装された道がくねくねと、何処までも続いていた。昨日の夕暮れ、この途中までは来たのだか、暗くなって来ていたから、この先には行っていない。

「こつちよ、杏里!」

水谷さゆりが先に走って行き、杏里を手招きしている。

「何処へ・・・行くの?」

「とっても素敵なところ・・・よ」

さゆりはニコニコしている。

オンコの樹林は寒さに耐えていて、高さはそれ程伸びない。厳しい冬の寒さのためである。だから、寒さに耐えるその姿が余計に健気に見えてしまう。

「可哀そう・・・」

杏里は、こんなことを呟いてしまう。

「早く、いらっしゃいよ」

「うん」

「いずみちゃん、行こう」

勝田いずみも知っているに違いない。


「あっ」

杏里は昨日、ここを通った・・・ような気がした。しかし、周りが暗くなりかけていたので、はっきりとした記憶がなかった。

小さな水たまりのような池だった。周りには雑草が生え、その為か、水もそれ程きれいには見えなかった。だけど、水面には真っ青な空が鮮明に映っていた。

「ここよ、私・・・私たちは、ねぇ・・・」

いずみは頷く。

「私といずみは、二人して、星に輝く池にしょうと思っているのよ」

さゆりはいずみに、

「ねっ!」

と、笑顔を浮かべる。

「杏里ちゃんも、仲間に入らない?」

杏里は空を見上げ、目を細めた。

「わぁ・・・素敵!一日中、ここに座り、眺めていても飽きないわね」

杏里は叫び声を上げた。

さゆりといずみは顔を見合わせ、笑っている。

「絶対に、素敵な場所でしょ」

と、いずみ。

「うん、こんなにきれいな空って見たことないんだもの」

いずみもさゆりも、空を見上げる。

また、二人して笑った。

「で・・・どうするの?杏里も仲間に入りたい。ねえねえ、どうすればいいの?」

杏里が改めて訊いて来た。

「うん、いいよ・・・というより、みんなで、この池をかえちゃいましょ」

と、さゆり。

「よし、いいね。明日から、そうね、周りの草から刈って行こうか」

と、いずみ。

「でも、今日は、これまでね。何も持ってないからね」

いずみとさゆりが眼を合わせ、頷く。

「ねえ、この小さな池に、名前をつけない」

「いいわね。何が、いいかな?」

杏里が、

「私につけさせて・・・そうだわ、魔法に鏡っていうのは、どう・・・!」

「魔法の鏡か・・・」

いずみは腕を組んで、ちょっと考える。

「いいわね。さゆり」

「いい。決まりね」

三人は互いに顔を見合わせ、声を出して、笑う。

帰ろうとするいずみとさゆりに、杏里は、

「待って、あたい、羊さんが見たいの」

と、言い出した。

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