第12話 友達が三人出来る。一人は、生意気な男の子

教室に入ると、杏里は前に立たされた。彼女は、一、二・・・と、教室に何人いるのか、数え始めた。みんなで、十六人いた。

「みなさん、この女の子が新しい友だちの・・・ええっと・・・何だっけ?」

三年、四年担当の牧田英子先生が杏里の顔を覗き込んだ。

「杏里・・・柴山杏里です」

杏里は、ひょいと頭を下げた。

「やぃぃぃぃい、その金髪、どうしたんだ?」

杏里は、今は大きな黒ぶちのメガネを掛けていない。掛けなくても、十分見えるが、一人になったときとか、本を読んでいる時とか、その後夢の中に入り込み、いろんなことを考えたいときにメガネを掛けることにしている。したがって、今は、そういう時ではない。

杏里はちょっとその男の子を睨んだ。

牧田先生は、一人一人紹介をし始めた。最初に学年を言った。

生意気な口をきいたのは、前田ゆうきという名前だそうな。杏里と同じ、八歳だ。そのゆうきが、杏里を睨み返して来た。

「ゆうきくん、ちょっと黙っていなさい。廊下に立たせますよ。今、杏里さんをみんなに紹介しているんですから」

十六人全部紹介し終わると、

「ええと・・・席は、そこね。ゆうきくんの隣り、ね」

と、指をさした。

何か不安なものを感じたのか、牧田先生はじっとゆうきを睨んだままである。

だけど、この日は、先生が予感した不安なことは、何も起こらなかった。

ゆうきは、休み時間や昼に、杏里に話しかけてきたが、杏里は相手にしなかった。一言言ってやろう、と思ったけど、今日は転向して来て最初の日だから、杏里は我慢していた。

いつもそうするらしいんだけど、牧田先生は下校時間になると、校門まで来て、見送ってくれた。

「杏里さん、明日、会いましょう」

と、声を掛けてくれた。

無事に最初の日を追え、杏里は何だかほっとした気分だった。

「おい、杏里。また、明日な。休むなよ」

と言い、杏里の背中をトンと叩き、走って逃げて行った。

「こらっ!」

と、怒鳴った時には、十二メートルほど遠くにいた。

「気にしない、気にしない。あの子、あんな子なのよ」

声を掛けて来たのは、一つ年上の水谷さゆり。杏里より背が高く、髪の毛を肩まで伸ばしていた。顔に形が卵型で、

「きれいな人・・・」

見た瞬間、杏里は思った。その横で杏里と同じ八歳の勝田いずみがニコニコ笑っている。

この二人は、休み時間ごとに、杏里に話しかけて来てくれた。

さゆりの家は、二階の杏里の部屋の窓から見えた。いずみの家は港の近くで、島で唯一の雑貨屋さんだった。

「今日・・・どうする?」

さゆりが訊いて来た。

杏里が、

「へへっ!」

と笑った。

「この島の探検・・・」

さゆりといずみは、互いに顔を見合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る