第11話 杏里、学校に行く
北の里小学校は、島を一巡する道路を隔てて、海側が北の里中学校で内陸部が小学校だった。高校は本土の学校に通うことになる。
「さあ、ここだよ」
「うん」
こう答えた杏里だが、校舎は二階建てで意外と、
「大きい」
と、彼女は感じた。
児童は少ないから、一年と二年、三年と四年、五年と六年の三つの教室しかない。
「詳しいことは、だんだんと分かって来るから。まず、職員室に行って、教頭先生に挨拶をしようか・・・」
弘美は孫の手を引いた。強張っていた。
「ちょっと緊張しているな」
と、弘美は感じた。当たり前かもしれない。
学校の廊下の匂いは木の香りがして、心地よかった。
静かだった。
今は、みんな勉強中なのだろうけど、やはり、
「そんなに多くの子はいないのかもしれない」
と、彼女は思った。彼女はキョロキョロはしながら、職員室に入っていった。
中に入ると、
「あっ、片田先生」
弘美は軽く頭を下げた。
背の高いほっそりとした女性が、こっちに近付いて来た。杏里のお母さんよりも歳を取っていて、みさ江お祖母さんより若い、と杏里には見えた。
「柴山さん、お早うございます」
その女性が近くに来ると、杏里は首を上げ、片田という先生を見上げた。
「この子が・・・そうですか?」
「はい、杏里といいます。よろしくお願いします。杏里・・・」
杏里は首が痛くなった。
「これが、前の学校からの通知です」
と言うと、朝、弘美に渡した茶色い封筒を差し出した。
「この先生は、教頭先生だよ。教室には今から連れて行って、みんなに紹介してもらうからね」
「よろしくね」
と、片田教頭は白い歯を見せて、杏里に笑顔を見せた。
杏里は、ひょこっと頭を下げた。
言葉が出て来ない。声が出ないのではなく、何を言ったらいいのか思い浮かばなかったのである。
「じゃ、行くからね」
弘美か帰って行くと、
「行きましょうか」
片田教頭は杏里の手を握った。
(つめたい)
今日の朝も冷たかったが、それよりも教頭手の方がずっとつめたい。
杏里はずっと教頭先生を見上げていた。正直、このままずっと見上げていなければいけないのかな、と思っていた。そんな杏里に気付き、
「ちゃんと前を待て、歩きなさいね」
ちょっと怖い感じだったが、優しい声を聞いて・・・杏里はほっとした。
この時、真ん中の教室の窓から、男の子が顔を出して、
「あっ、新しい子が来たよ、先生・・・」
大きな声で叫んだ。
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