第9話 みさ江との対面
(ここの家は、この子の家ではない)
でも、今は・・・これから先、ずっと住まなければならない場所だった。
(きっと気に入ってくれる筈だ)
また、そうでなければいけない。
弘美は、杏里がいった言葉を思い出していた。
(夢のような島・・・か)
「起きて。さあ、着いたよ」
(そうであって欲しい)
弘美は優しく声をかけた。
「中にいるのが、君のお祖母さんが・・・」
杏里は一瞬不安そうな目をしたが、すぐにその不安の表情を消した。
「はっ、大丈夫だよ、怖い人ではないから。君のお母さんのお母さんだからね。ただ・・・ちょっと気難しい所があるんだ」
家の中から明かりはもれていた。
弘美には少しだけ心配なことがあった。みさ江がこの子の顔を見て、どんな言葉をかけるのか、気になっていた。
「さあ、少し寒くなって来たね。早く、中に入ろう」
弘美が木で出来た戸をゆっくりと開けた。彼の手作りだった。
「ただいま、今帰ったから」
弘美は家の奥の方に声を掛けた。
返事はない、いつものことだ。
この人は・・・
と、弘美は言う。朝、顔を合わしても、何も言わない。朝も夕飯の時も、いただきます、の言葉もない。静かな家の雰囲気があるのだが、それでいて、この人・・・みさ江はしゃべりだしたら、次から次へと話題に尽きることなくしゃべり出す。
「この子だよ。あの子に、そつくりだ。さあ・・・こっちに、おいで」
弘美は手招きをして、杏里をみさ江の前に立たせた。
「こんにちは、おばさん」
杏里の目はじっとみさ江を睨んでいる。どうやら・・・想像だが、この子は母のお母さん、祖母のことは何も聞いていないように思えた。
「おばさん・・・ではないからね。好きな呼び名ではないけど、お祖母さんだよ」
この人は怒っているのではない。感情をほとんど顔に出さない。それに、
「その髪・・・あの子も、そうだったね。小さい頃は・・・今でもはっきりと覚えているけど、ずっときれいな黒い髪だったけどね。なんで、一部分だけ、そんな金色になったんだろうね」
みさ江は目を逸らし、それまでやっていた毛糸の編み物を続けた。見た処、マフラーのようだった。もうすぐ、そこまで冬がやって来ていた。
杏里は左手で髪をかき上げた。
「私、この髪・・・好きなんです」
「そうかい、そうかい」
(これでも、機嫌がいい方か・・・)
杏里は、クスッと笑った。そんな杏里が弘美を見上げると、ちょっぴり笑みを見せている。
(ねっ!)
杏里は頷いた。
「この子を部屋に連れて行ってくれる。明日からは、学校だからね。よく、寝ることだね」
「ああ、そうだね。私が連れて行くよ」
「部屋は、掃除はしておいたから・・・」
「そうか、ありがとう。杏里、こっちだよ」
弘美は杏里の背中を押した。
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