第7話
杏里は首をひねり、
「ここは、私がいつも夢に見ていた・・・あれね」
(あれねって何なのか?)
にこりと、ほほ笑む。彼女にはっきりとした記憶はなかった。どうも普通の人には考えも及ばない領域にいるようだ。
でも、もっと、この島が知りたい、と彼女の発想は進む。頭の中が、何か・・・ぼやけている。それでも、彼女の気持ちは元気そのものだ。
誰かがわたしを見ている、振り返ると、
(私のお祖父さん)
が、こっちに近づいて来る。
「ああ・・・どうしよう、私に何かようなの?」
杏里は少し戸惑っていた。
この子は、娘にそっくりだった。
(あの子は生きていた、今も、私の目の前に・・・いる)
「あっ?」
弘美は娘の名前を呼びかけそうになったが、かろうじて飲み込んだ。
「おーい、危ないから走ってはいけないよ」
オンコの中の道はきれいに舗装がされていた。
(だから、余計に危ないのだ)
つまづいたら、怪我をしてしまう。道幅は二メートルほどだった。
(おぉぉい、そっちじゃないよ)
道は二股に分かれている。さらに、その先はいくつもの道に別れている。迷路といってよかった。
(戻って、戻っておいで。そうそう、そこを左だよ)
弘美は言葉を掛けたい気分だが、見ているだけ。彼女が、今どのような気持ちなのか想像がついたからである。そう、とっても嬉しいのが、彼には自分のことのように感じていた。
(でも・・・)
そろそろ空が暗くなり始めている。
「おーい、そっちじゃないよ。こっちにおいで」
弘美は手招きをし、杏里を呼び寄せた。
杏里は振り向き、このオンコの樹林の中をもつと走って行きたいと弘美に訴えていた。あの子が、
(まだまだ、そうしていたい)
のは、杏里の様子を見て、彼にもよくわかったのだが、これからは毎日遊ぶことが出来るのだ。
「これから先、いつでも来れるから」
そう声を掛けたかったが、彼は彼で、違う喜びを感じていたのである。
(ああ・・・そうだ。ずっと前・・・いつだったか、こんな情景を見た記憶がある)
一瞬、目をつぶると、一気に何かが押し寄せて来たが、すぐに消えた。
(何だ・・・)
何だろう?
老人は首をひねる。
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