怨10 )・゜・。既読

穂花 ・゜・(ノД`)・゜・。 21:55


残業を終えて帰宅したアキラのスマートフォンに、恋人の穂花からの履歴が残っていた。

アキラは笑った。


「なんだよこれ」


穂花は強がりな反面とても寂しがり屋で、感情表現が苦手なところがある。

こうして顔文字だけで表現するのは、何かしらの不安を抱えている時だ。

頻繁にはないが、それはアキラにとっては嬉しい事だった。

頼りにされているわけだから。

時刻は23:00。

今から1時間は捕まるな・・・。

アキラは覚悟を決めて缶ビールをあけた。


アキラ 23:00どうした?


送信すると、直ぐに既読がついた。


穂花 。・゜・(ノД`)・゜・。 21:52


アキラ 23:05 既読 ((((;゚Д゚)))))))


穂花 さっき電話したのに(T_T) 21:50


アキラ 23:08 既読 え? ごめんごめん


アキラは履歴を確認したが、穂花の名前は見当たらなかった。

着信は取引先からの電話のみで、そこへは既に連絡をいれてあった。

文字でその事実を伝えるには多少の面倒くさがあったので、アキラは謝っておくだけで次の言葉を入力した。


アキラ 23:13 既読 今日は泊まりに来れる?


数分後、穂花からメッセージが入った。


穂花 行きたいんだけど(T_T) 21:45


アキラ 23:15 既読 都合悪いの?


穂花 。・°°・(>_<)・°°・。21:43


アキラ 23:18 既読 泣かない泣かない^_^


アキラは缶ビールを飲み干して、冷蔵庫から2本目を取り出した。


穂花 迷っちゃった 21:40


アキラ 23:21 既読 ん?


穂花 道に迷っちゃった 21:38


アキラ 23:24 既読 ええ~((((;゚Д゚)))))))


穂花 病院の帰りだけど、ここどこ? 21:35


アキラ 23:25 既読フランシスアリアだよね?


穂花 うん 21:30


アキラ 23:30 既読 迎えに行こうか?


穂花 あ、ちょっと待って 21:27


アキラは後悔した。

車を出そうにもビールを飲んでしまってはどうしようもない。

とりあえず、最寄り駅まで出向いて待ち合わせようかと考えた。


アキラ 23:35 既読 駅まで行くよ


穂花 今ね、公園の近くなんだけど 21:18


アキラ 23:37 既読 公園? あったっけ?


穂花 うん。子供たちに聞いてみる 21:10


アキラ 23:40 既読 子供いるの?


穂花 うん、なんかかわいいよ 21:05


アキラ 23:43 既読 かわいい?


穂花 うん、猫に餌あげてる^_^ 21:02


アキラ 23:48 既読 こんな時間に?


穂花 ♪( ´θ`)ノ 20:59


アキラはスマホの時間を確認した。

もうすぐ日付けが変わる時刻に子供が外にいる。

不自然だ。


穂花 子供たちに道聞いてみる 20:55


アキラ 23:52 既読 わかった♪( ´θ`)ノ


アキラは妙な感覚に囚われていた。

真夜中の子供。

行き慣れたはずの町で彷徨う彼女。

それにずっと続く違和感。

何かは分からなかった。

ただ、それはとても重大な事象に思えて気持ちが悪かった。

アキラは上着を羽織って立ち上がった。

迎えに行かなくては。そう直感した。


アキラ 23:55 既読 今から行くよ


穂花 大丈夫、子供たちが連れてってくれるって♪( ´θ`)ノ わぁーい^_^ 20:30


アキラ 23:57 ちょっと待って!


穂花 ♪( ´θ`)ノ なんかね、太鼓の音聞こえる。公民館でちいさなお祭りみたい 20:25


アキラ 23:59 ちょっとおかしいよ!待って!


アキラは壁掛け時計に目をやった。

0:00

そして抱えていた違和感にやっと気が付いた。

穂花のメッセージは時間が逆戻りしているのだ。

それ以来既読も付かなくなった。

何度も電話をかけてみても、穂花の声は聞けなかった。


アキラ 0:00 行くな! 絶対ついて行くな!



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