第三章 躍進編
第1話 圧倒的スーパーお嬢様
学生寮、
一階、ロビーフロア。
寮に入ってすぐに広がるこの区画からは、それぞれの階層に移動する為の階段とエレベーターに繋がっている。
四階建ての学生寮にエレベーターが置かれている理由、それは最高位の生徒―――いわゆるレベル5のお嬢様が四階フロアに住んでいることにある。
レベル1からレベル5。数値が高くなるにつれて家柄や資金力、学業における成績などのランクが高くなっている。
2から4が平均的に多く、その内側ではランクの上下もあり得るが、1と5に関してはほぼ別物扱いである。
僕こと
お嬢様学校に一般枠とはなんぞや、と思うかもしれないが当然ほとんど機能していないレベルだ。僕が知っている限りその人数は二人だけである。
そしてレベル5とはいわゆる超
圧倒的スーパーお嬢様、それがレベル5なのである。
レベル5のお嬢様はこの学院に九人いる。
僕もさすがに全員の名前は知らないが、一部の人間はわかる。
一人目。
この
―――その名を
学院長代理、兼、生徒会長。
文武両道、完璧超人、神出鬼没。噂やあだ名は数え切れない。まさしく頂点に君臨するお嬢様だ。
二人目。
僕の親友であり、学院のアイドルとも呼ばれる存在。生徒一人残らず分け隔てなく接点を持ち、そのコミュニケーション能力だけで知らぬ生徒は誰もいない。
―――その名を
家柄もトップクラス。だがそれを振りかざすこともなく斜に構えない裏表のない性格、二年の中でも上位の成績を誇る実力から人気の耐えないお嬢様だ。
僕は、本来なら接点なんて持てないはずの二人のお嬢様達と、過去に深い接点を持っている。
しかし、それはあくまで一年以上前の話。今の僕は過去の事実を知らぬまま現状を享受している。
そう、
僕はずっと喪ったものに対して見て見ぬ振りを続けてきた。
だがそれも今日で終わりだ。
僕はこの燻る決意を胸に行動を起こすことにしたのだから。
背中には様々な生活用品の入ったリュック。
右手には着替えの服、左手にはマイ枕。
準備は万端だ。
兵は拙速を尊ぶという。先制攻撃を仕掛けるなら今しかない―――!
エレベーターに乗り、迷わず四階のボタンを押す。今までずっと避けてきた場所。自分には似つかわしくないと遠慮していた。
けれど、逃げるのはこれで終わりだ。
◆◆◆
四階のフロアに到着する。
そこに広がっていたのは、今まで見てきた物の価値観すべてを覆してしまうほどに容赦なく豪奢な内装だった。
「はは……」
渇いた声がひとりでに漏れ出す。
怯む脚を無理やり前に突き出して、僕は一歩ずつその空間を進んでいく。
エレベーターホールからまっすぐ伸びた通路を抜けるとロビーと思わしき空間に出た。
真っ先に目についたのは大きな円卓と、それを囲むように設置された九つの椅子。それらは一寸のズレもなく綺麗に並べられていて、とても異様な光景だった。
(なんだこれ。ここで会議でもするんですかねえ……?)
僕はロビーの周囲を見回す。
それぞれの椅子から後ろに伸びた先、九つの通路がある。なるほどわかりやすい、と僕は感心していた。
通路の先にはそれぞれのお嬢様の部屋があるのだろう。
そして僕はすぐに渋谷香菜と書かれたプレートの付いた椅子を見つけ出す。
(この先に香菜の部屋があるのか)
通路の先を見つめ、深呼吸をする。
友人の部屋に行くだけでこれだけ緊張してしまうとは、本当に情けない。
気分転換がてら少し気になったので、僕は隣の席にある椅子に貼られたプレートを確認してみた。
すると、そこには―――
「……は? え、マジ?」
同級生でありクラスメイトのヤンキー少女。
まさか、彼女がレベル5だったなんて。
(ほんとに、知ろうとしなければ解らないことばっかりだ)
彼女が香菜と仲良くしていることはなんとなく察していた。忠告と称して口を出されたこともあったっけ。
ようやく納得のできる答えをひとつ得た。
少なくとも、なんの特権もなく取り巻きを連れ回して偉そうにしていたわけではない、ということか。
点と点が線になって繋がっていく。
濠野摩咲についてもまだまだ知らなければならないことがありそうだ。
(……さて。そろそろ行きますか、穂邑くん)
自分で己を鼓舞しつつ、ようやく本来の目的地である香菜の部屋へと向かう。
足取りは未だに重い。
この一年間、ずっと来なかった場所。
誘われたことは幾度となくあった。興味がなかった時期もあった。けれど、今は違う。
僕は、自分自身の意思で足を踏み入れる。
通路を少し進むと、そこには確かに『渋谷香菜』と書かれたネームプレート。402と言う数字。間違いない、ここだ。
僕はインターホンに指を掛ける。指先が震えているが、勇気を持って力を込め、そのボタンを押した。
「香菜ー! 僕だよ、穂邑だよ!」
予めメッセージで連絡を入れてはいるが、念の為にちゃんと声を掛けておく。
すると扉の向こう側からドタバタという足音が微かに聴こえてきて、
「はーい、お待たせ―――ってなにそれ!?」
開かれた扉の先。
パジャマ姿の渋谷香菜が現れ、僕の姿を見て驚愕の表情を浮かべていた。
そんな彼女の反応に、僕は少し口元を歪めながら言い放つ。
「
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