第3話 手を取り合って
茨薔薇女学院の二年生にしてレベル2のお嬢様。
一昨日に僕と香菜が出会った船橋さんと同じクラスに通っていて、その友人でもあるという。
今、僕はそんな女の子の部屋に連れ込まれていた。
お嬢様を代表としたような立ち振る舞い、見た目、性格。
そんな彼女の部屋というのだから、とても
「……ええと、これなに?」
部屋に入った瞬間、僕がある物を目にして口にした言葉がそれだった。
「なにって……ビーカーですけど……?」
「いやいや何でビーカーがここに!? っていうかこれ―――」
可愛らしい女の子の部屋とは裏腹に。
そこには、科学室もビックリなくらいの器具が大量に置かれていた。
「ごめんなさい、散らかってしまっていて。お恥ずかしいですわ。さあ、こちらにお座りになって下さい」
蜜峰さんはそう言って部屋の隅にあるソファーを指し示した。
「あ、うん……」
予想の斜め上をいく光景に戸惑いながらも、僕は言われるがままにソファーへと腰を下ろした。
ソファーはひとつしかないので、彼女はどうするんだろう、なんて思っていると、
「すみません。お隣、よろしいですか?」
「へ? あ、え……はい……」
僕はソファーの隅に寄ると、そのまま蜜峰さんが隣に座ってくる。しかもかなり良い匂いをさせながら、である。
「いやいや見境なしか僕」
「……? 何かおっしゃいまして?」
「なんでもないです!」
認めよう。僕は自分が女である事に嫌悪し、男という存在を汚らわしいとまで感じているが、まるでそれらの反発のように女の子のことが好きなのである!
普通に恋愛対象として見れるしなんなら常に性的な目で見れてしまうぐらいに!
「いやいやそんな場合じゃないだろ僕」
「あの……紅条さん……?」
「なんでもありませんからー!!」
落ち着け、冷静になれ。
確かに蜜峰さんはとても綺麗な女性できっと内面も魅力的なことだろう。
けれど今はそれどころではない。やるべきことをやれ、紅条穂邑―――!
「……いや、うん。ごめん、落ち着いた」
「はあ……。それでは、詳しくお話をしても?」
「頼むよ」
そうして蜜峰さんは語った。
彼女が僕と似たような状況であること。
「船橋さんと連絡がとれなくなったのは、一昨日の夜からなんです。その日の昼くらいにメッセージが送られてきていました。その内容は『渋谷さんがお話をしたいと言っているから予定を空けて貰えないか』というものでした」
あの日、僕と香菜が船橋さんと会った時の話のことだろう。
確かに香菜は蜜峰さんに興味を示すような発言をしていたし、船橋さんがお人好しを発揮してアポを取ろうとした、ということのようだ。
「私はその日、研究会の皆さんとあるニュースの内容について討論をしたりして、とても盛り上がってしまっていたので、そのメッセージに気付けたのは夜になってからのことだったんですが……」
香菜が興味を持っていたという話のことだろうか。僕にとってはまったくもってどうでもよかったことなので覚えてはいないが―――
「メッセージを送っても返事もないまま既読も付かない。その日は諦めて眠ったのですが、次の日、つまり昨日ですけれど、学校で船橋さんの姿がなくて。登校すらしていなかったんです」
蜜峰さんと船橋さんは同じクラスだからすぐに気付けた、ということか。
僕はその日、朝から生徒会長に直談判しに行ってそのまま倒れてしまったので、授業自体受けられていなかったのだけど。
「流石におかしいと思って、先生に聞いても何の連絡もないと言われました。船橋さんは実家通いですので、そちらに連絡しておくと言われてその日も終わりました。私は、この時から何かおかしなことが起きているという予感が湧き上がっていました……」
船橋さんは寮住みではなかったのか。
運良く蜜峰さんに出会えていなければ危なかった。
「そして今日。学校はお休みなので先生もいませんし、どうにかして進捗を聞けないかと思って。それで寮監様に会いに行ってみましたが留守でした。どうすればいいか途方に暮れていた時、紅条さんがお声を掛けて下さったのです」
まさか香菜だけではなく船橋さんまでもが行方不明になっていたなんて。これは偶然ではないだろう。
「なるほど。ほんとにたまたまだったけど、こうして僕達が引き合わされたのは運命だったのかもね」
「まあ……」
少し嬉しそうな反応をする彼女を見て、またしても狼狽えてしまう。
「と、とにかく。僕も香菜を探している。二人がいなくなった時期もほぼ同じだ。これは間違いなく何かしらの関連性があると思っていい」
「……ですわね。けれど、どうしてあの二人が……?」
「わからない。でもこのまま放っておくわけにはいかない。だから僕達で二人を探し出す。もしかしたら他にも同じような状況に陥ってる人達もいるかもだし、まずは情報収集を―――」
僕がそこまで言うと、蜜峰さんの左手が僕の右手を握った。
ソファーの上でくっつくようにして座る二人。その手は冷たくて、震えていた。
「蜜峰……さん……?」
「私、本当にどうしようって……。きっと、一人では何もできませんでした。だから……紅条さんがいて下さって、こうして……本当に、まるで運命のよう―――」
こちらを見つめる瞳が潤んでいる。
顔は紅潮し、今にも泣き出してしまいそうで。
「だ、大丈夫だよ、蜜峰さん。きっと二人は無事だから。僕達で助け出そう。ね?」
震える彼女の手を、今度は僕が両手で握りしめる。
「はい……頑張りましょう、紅条さん……!」
こうして、僕達はお互いに大切なものを助け出すために手を取り合ったのだった。
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