第11話

 僕はすっかりうれしくなって、馬君に話しかけました。

「ねえ、君はなにものなの。いったいどこから来たの。」

すると、馬君は不意にはねまわるのをやめて、ポツリと言いました。

「僕は、ただの持ち主に忘れられた人形さ。」

その放り出されたような一言の陰には、深い悲しみと、もう手の届かなくなってしまったものへのどうしようもない憧れのいりまじったような、とても口では言い表せない思いが込められているような気がしました。僕は、聞いてはいけないことを聞いて、馬君を怒らせてしまったのかなと心配になりましたが、馬君はまたすぐに飛びあがると言いました。

「ねえ、僕は行くところがないんだ。当分ここにおいてくれない?」

僕はもうすっかり彼が好きになっていたので、喜んで言いました。

「うん、もちろんさ。」

 それから、彼との奇妙な生活が始まりました。たとえ人間ではないといっても、帰ったときに誰かが待っていてくれるのは、いいものですし、話し相手がいるというのもありがたいものです。僕は、以前のように家へ帰るのがいやではなくなり、むしろ、家へ帰って馬君とおしゃべりするのが楽しみになりました。

 そんなふうに過ごしていると、性格も少しは変わるのでしょうか、以前より明るくなったと言われるようになってきました。そんなことを言われると自分でもその気になって、少しは自信もついてきたようでしたが、彼女の前では、僕はやはり何もできない以前の自分のままでした。

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