第9話

 一生懸命に走ったかいがあって、僕はなんとか遅刻ぎりぎりで間に合いました。ほとんど寝てないせいか、少し頭がクラクラしています。と、目の前に熱いお茶が差し出されました。目をあげると、そこに彼女がいました。

「ありがとう。」

彼女は僕の顔をのぞきこむと、ちょっと心配そうに言いました。

「おはようございます。顔色がよくないですよ。今日の仕事は私一人でもできますから、休んでいた方がいいんじゃないんですか。」

僕は、本当は、

「君と一緒にいられたら、すぐよくなるよ。」

と言いたかったのですが、例によって思うように言葉が出てこなくて、やっと出てきた言葉は、

「大丈夫だよ。」

の一言だけでした。

「でも・・・」

「大丈夫だったら、大丈夫なんだ。」

思わずそう言ってしまってから、僕はつんとして歩いていく彼女の後ろ姿をみて、「ああ、また怒らせてしまった。」

と、ため息をつきました。

 結局、その日は一日中、ほとんどまともに口を聞いてはもらえませんでした。なんとかあやまろうと思っても、結局いつものとおりで、まともに話すこともできません。僕は暗い気持ちで家路につきました。

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