第8話

 それは、たしかにあの人形でした。その表情だけは、みまちがえようがありません。でも、傷跡はきれいに消えていて、よごれて色あせた体も、最初はこうだったんだろうと想像していたような、美しい栗色でした。

 僕が、なおもボーッとみていると、また声がしました。

「いったいいつまでみているつもりだい。もうおろしてよ。」

「ああ、ごめん。」

僕は人形と話していることの不思議さにも気付かず、そっと下におろしてやりました。

「君はいったい誰なんだ。どうして新品みたいになれたんだい。」

僕は人形の前に座りこむと、そうたずねました。

「僕は、ただの持ち主に忘れられた人形さ。君が僕の心をなおしてくれたから、もう一度生きかえることができたんだ。」

僕がなおも問いかけようとすると、

「さあ、くわしい話は後にして、急がないとまた遅刻するよ。」

僕は時計をみると、あわてて家をとびだしました。

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