第4話

 僕は何年か前に失恋したことがありました。結局僕が悪かったのですが、僕にとってはとてもひどい打撃でした。そして、それ以来、僕の心はどこかがこわれてしまったようなのです。もう、そのひとに未練があるわけではありません。ただ、それ以来、僕は女性と、それも好意を持ったひとであればあるほど、うまく話をすることができなくなってしまったのです。

 不思議なことに、もう結婚しているひとや、明らかに恋人がいるひととは、ごく普通に話もできます。それが、僕が少しでも好意を持ったひとだと、もうダメです。それは、仕事の話くらいはできますし、ごく普通の会話ならなんとかなります。でも相手を意識して、ちょっとでも気のきいたことを言おうとすると、たちまち心が麻痺したようになって、なにもできなくなってしまうのです。あせればあせるほど、言葉はおろか身動きすらままならなくなってゆく自分を、戸惑いながら眺めているしかなくなってしまうのです。まして、面と向かって好きだなどと言えるはずもありません。

 最初のうちこそなんとかしようとしましたが、最後には、もう、どうでもよくなってしまいました。

「もう、二度と誰かを好きになることもないから、いっそのことちょうどいいのかもしれない。」

そんなふうに思うようになってしまったのです。

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