第91話 おっさん、真夜中に捕り物をする

 バルバラの様子がおかしい。

 スパイだというのを隠さなくなってきた。

 俺は防犯グッズで罠を張る事にした。


 1200円ぐらいで手に入るドアや窓が開くとブザーが鳴る機械をドアに取りつけた。

 後はドアに関係者以外立ち入り禁止の紙を貼って待つだけだ。

 深夜、ブザーの音が鳴り響いた。


 あんな見え見えの罠に掛かるなんてな。

 バールを持ったバルバラがスコットに取り押さえられていた。


「まったく、安眠妨害もいいところですぞ」


 眠っていた所を起こされて不機嫌なディーン。

 俺はICレコーダーのスイッチを入れた。


「そう言うなよ。スパイが一人減ったんだからさ。さてバルバラ、申し開きはあるか」

「ちきしょう。罠に掛けやがって」

「反省の色がないな。処刑してやっても良いんだぞ」


「それは……お願いします。命だけは助けて」

「じゃあ全部ぶちまけろ」

「言っていいの? あんたにとってショックな事があるんだけど」


「いいぞ。言ってみろ」

「そもそも私はあんたが嫌い。異母兄弟のブレッドが好きなのよ」

「それが何か」


「何でショックを受けないの。私の為に決闘騒ぎまで起こしたじゃない。私の事を好きだったんじゃないの」

「何にも感じないな。決闘騒ぎの事を話せ」

「あれはブレッドが男にわざと絡まれろと言ったから、一芝居打ったのよ」


「決闘相手の男もグルだったんだな。それでここには何の目的で来た?」

「領地を上手く治めていたら妨害しろってブレッドが。上手くいってなかったら更に悪化させろって」


「そんな事だと思ったよ。お前には証言台に立ってもらう」

「ええ、良いわよ」

「おい、ブレッドを簡単に裏切るんだな」

「彼は失敗を許してくれそうにないから。たぶん失敗したって報告がいったら私なんてお払い箱よ」


「信用はしないが生かしておいてやる」

「ありがと」


「とんだ捕り物でしたな。バルバラさんには私の雑務をやってもらいましょう。心配しなくても重要書類には触らせません」


 とディーン。


「そうだな。ブレッドにはスパイ活動する為に、文官になったって手紙を送っておけ。まだ重要な書類には触らせて貰えないと言って時間を稼ぐんだ」

「ええ」


 これで懸案が一つ片付いた。

 さあ、寝直すか。


 夜が明けて朝になると先触れが来た。

 父親であるディランディ伯爵が視察に来るらしい。

 何でまた。


 一週間ほど経ちディランディ伯爵はロビト地方に到着した。


「ようこそ」

「うむ、元気にやっているようだ」


 伯爵の側近の顔が青い。


「おや、長旅で側近の方の気分が優れないようですが」

「そんな事はないだろう。さっきまでピンピンしてたぞ」


「伯爵様に申し上げます。前代官の罪を追求して下さい」


 ディーンが直訴した。


「無礼者!」


 側近が慌てて止める。


「この者は非常に働き者で配下の中でとくによくやってくれたます。話を聞いてやってくれませんか」

「放蕩息子の言う事に耳を傾けてはなりませんぞ」


「来る道中見ていたが、この領地は良く治まっている。息子の話を聞こう」

「俺がここに来た時はそりゃあ酷かった。反乱を起こす元気もない有り様で、餓死者が沢山でる寸前だったよ」


「なにっ、そんな報告は受けていないが」

「そ、それは。嘘です。この者の言う事は全てでたらめです。この領地は元からこうだったのです。それをいかにも危機から救ったように言って得点稼ぎをしているのです」


「伯爵様、長く日照りが続いたのは隣の領地の者にでも聞いてもらえば分かります」

「ジャックの配下はこう言っているが、私の目にはどっちが正しいか一目瞭然なのだがな。兵士、この者を捕らえよ」

「くそう、お前さえ成功しなければ。罪を全てかぶせられたものを」


「早く連れて行け。ジャック、お前に迷惑を掛けたな。だが、見直したぞ。やれば出来るんじゃないか」

「配下が優秀なもので」

「何か要望はあるか? 叶えてやるぞ」

「では、スパイを一人捕らえたので、ディランディの領都に帰ったら、俺が裁判長で裁判をする事を許して下さい」

「何だそんな事か。許可しよう」


 ふふふっ、ブレッドよ、尻に火が点いたぞ。

 さて、奴はどう動くかな。

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