第90話 おっさん、キノコ狩りをする

「大変だ」


 スコットが駆け込んで来た。


「トラブルか? 早く話せ」

「領内に凶悪なダンジョンが出来た」


「凶悪って事は被害者が出たのか?」

「ああ、大勢な」

「それは上手くないな。死者の数は?」

「幸いにして治癒の呪符があったから死者は出てない」


「それなら当分は放置だな。だが、悩ましい所だ。知ってるか? ダンジョンは大地の余剰魔力を放出するための装置だ」

「物知りだな。じゃあ放置すると影響が出るのか?」

「この地域のモンスターが強化される」


「なんてこった。日照りが解消されたっていうのに」

「どんなモンスターのダンジョンなんだ?」

「キノコに手足が生えた奴だ。知能がなくて、痛覚もない。柔らかいので簡単に潰せる。だが、恐ろしいのは毒の胞子の攻撃だ」


 RPGでそんなモンスターが居たっけな。


「毒の胞子だけだったら防げるぞ」

「そうか。なら討伐隊を結成して定期的に討伐しよう」


「モンスターに何か名前を付けないとな」

「俺達はキノコンという名前を付けた」

「とりあえずそれでいいか」


 さて、キノコン討伐の準備だ。

 防毒マスクはあるが、値段が高い。

 せっかく呪符の知識があるんだから、呪符で解決したい。

 マスクを魔力通販で買い呪符を上から張る。


 治癒の呪符で生きて帰れたんだから、毒はそんなに強くないと思う。

 マスクと呪符の合わせ技でいけるはず。

 呪符の効果は洗浄で、マスクに付いた胞子を洗い流すだけだ。


 解毒の呪符も作っておこう。

 これで低階層は問題ないはずだ。


 防毒マスクは隊長にだけ支給すればいいか。


「装備を用意した。調子に乗って下の階層に踏み込むなよ」


 スコットを前に俺はそう言った。


「分かってるよ」

「俺はアルマ達とラスボスを目指す。作戦が成功すればウハウハになるはずだ」


 俺とアルマ達はダンジョンの前に来た。

 防毒マスクを被る。

 アルマ達は生身の体ではないのでマスクの類は着けない。


 さて敵さんはどんなかな。

 中に入ると50センチほどの手足が付いたキノコがこちらに向かって走って来る。

 俺は間合いを計りメイスを振り下ろした。

 飛び散る破片と胞子。


 少し叩いたぐらいでは死なないらしい。

 菌の集合体といったところか。

 脳みそももちろんない。

 だが傘の真ん中に魔石を見つけた。


 魔石を抜き取ると、キノコンと呼ぶ事にしたモンスターは動かなくなり、消えていった。

 アンデッド並みのしぶとさだな。

 柔らかいので防御力は低いが、その代わりに毒がある。


 アシスタントのアルマ達には毒が効かないので攻略はサクサクと進んだ。

 下の階層に降りると、炎を吐くやつとか、電撃をまとった奴とかも出て来た。

 耐火装備も耐電装備も魔力通販で手に入れて事なきを得た。


 現在、階層は3階層。

 ここのボスがラスボスらしい。

 入るとボスが召喚され腐臭が満ちた。


 腐ったキノコという訳だ。

 俺達は胞子を気にせずボスキノコンを叩きまくった。

 腐汁が飛び散り俺の皮膚に付着した。


「くそう、こいつ皮膚に影響する毒か酸を持ってやがる。ヒリヒリするぜ」

「任せといて。うちらには影響ないから」

「仕方ない任せた」


 ゴム手袋やウェットスーツを身に着ける間、アルマ達に頑張ってもらった。


「よし、装備完了。食らいやがれ」


 腐汁が盛大に飛び散り、核の魔石がむき出しになる。

 俺は魔石を掴むと力の限り引き千切った。


 ボスキノコンが消えて行きボス討伐は終わった。

 ダンジョンコアの部屋に入り、ダンジョンコアから魔力を吸いだし買い物をした。

 買ったのは1千万円ぐらいだな。

 出来立てのダンジョンだから、溜まってる魔力が少ない。


 ダンジョンが停止したので俺達はモンスターの居ないダンジョンの中を悠々と歩いた。


「作戦は成功だな」


 途中スコット達と合流した。


「何日かするとダンジョンは復活する。その時は弱体化しているはずだ。片手間でも間引きが出来るようになると思う」

「ダンジョンが出来たと聞いた時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな。あんたは名代官だ」

「警備兵の装備品もしこたま買い込んだから、今から支給するぞ。みんな並べ」


 俺は靴や手袋や懐中電灯などの装備品を並べた。


「これを下さるので」

「ああ、人数分あるので急がなくていいぞ」


「ジャック様万歳。名代官万歳」


 いつしか俺を讃える声が上がった。

 いやー、臨時ボーナスが出て良かったよ。

 反乱なんか起こったら目も当てられない。

 適度な施しは必要だよな。

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