第89話 おっさん、回復の呪符を作る

 俺は小型のICレコーダーをバルバラの部屋に仕掛けた。

 一日が経って回収。

 再生にする事にした。


 無音の場所を飛ばして会話を拾う。

 ノックの音が聞こえた。

 バルバラに誰か会いに来たな。


「俺達は明日、ディランディ領に帰る。ブレッド様に伝える事はあるか」

「この領地は異常だわ。ただその絡繰からくりが分からないの。多数の職人集団がいるはずなんだけど。私は引き続き探ってみるわ」

「分かった。俺達は交易のふりをして定期的に往復するつもりだ。次の連絡はその時だな」

「さあ、行って。あまり長く話していると怪しまれるわ」


 おお、ばっちり録音されている。

 バルバラがブレッドの手先だと判ったが、すぐに捕まえるのが得策じゃないな。

 それにどんな罪で捕まえる?


 領地を歩いて話を聞いただけだ。

 スパイというだけで罪にはできるだろう。

 だが、ブレッドがしゃしゃり出て来る可能性が大だ。

 無実の人を処罰したとか言ってな。


 ICレコーダーは証拠にはならない。

 日本でも証拠として役に立つか怪しいのに。

 異世界では妙な道具を出してきやがってと言われて終わりだ。


 今しばらくバルバラは泳がせておこう。

 俺は領地の視察に出た。


 若い者が帰ってきたので、老人は家の中で作業をしている。


「邪魔するよ」

「痛っ、これは代官様」


「針仕事をしてて針を刺したのか。このくらいなら一番安いポーションで十分だな」


 俺は傷口にポーションを塗ってやった。


「見苦しいところをお見せしました」

「気にするな。急に訪ねてきた俺が悪い」

「歳を取ると、不注意から生傷が絶えなくて、難儀しますわい」


 生傷ねぇ、治癒の呪符は作れるな。

 だが、かすり傷しか治せない。

 需要はあるのか、あるのだろうな。


 一枚の紙に100個の呪符が印刷できる。

 治癒の呪符を作ったとして、一個ずつ使えば100回使えるし、治りが悪いようだったら何個も使えば良い。

 やってみる価値はあるか。


「よし、印刷完了。呪符作成アミュレットメイク


 さて、試運転だ。

 自分でわざと怪我するのも馬鹿らしい。

 警備兵に支給する事にした。


「今日から治療の呪符が支給される。だが、これを頼るなよ。かすり傷程度しか治らないって話だからな」


 スコットがそう言ってから、老人に呪符を配る。


「装備よし」

「じゃ出発だ」


 今日はウルフ討伐だ。

 俺はそれに同行する事にした。

 警備兵の列は枯れ木が立ち並ぶ森を進む。

 雨が降って下草はだいぶ伸びている。


 気を付けないと毒蛇に噛まれるかも知れない。


「痛い!」


 考えた先から噛まれたか。


「どれ、見せてみろ」


 足に尖った石が刺さっていた。

 靴がボロボロだからこんな事もある。

 後で靴を支給しないとな。


「痛い! 痛い!」


 痛がっているのに悪いが早速、治癒の呪符の出番だ。


起動スタートアップ。どうだ」


 呪符を1個使う。

 血が完全には止まらない。


「痛くて堪らない」

起動スタートアップ×10」


 呪符を10個使う。

 血が止まったが、まだ痛そうだ。


「まだ痛そうだな」

「はい、まだ痛みますじゃ」


 結局、呪符を35個使って、痛みが治まったようだ。

 100個使えば最下級のポーションよりは効果があるな。


 利点は品質の劣化が遅い事か。

 自作のポーションは草の煮汁などを使っているので、どうしても劣化する。

 ダンジョンのドロップ品のポーションは劣化しない。

 値段はもちろん、ドロップ品の方が高い。


 この治癒の呪符は劣化が遅いが、効果は薄い。

 自作の下級ポーションぐらいの値段にはなりそうだ。


 呪符が一枚で銅貨30枚といったところか。


「アルマ、治癒の呪符が出来たぞ」

「はいな。これは売れまっせ」

「そうね。ポーションみたいな物は需要があるから」

「回復大事」


「よし、水の呪符は少なくしていって、これに置き換えよう」


 次の商品のあても出来た。

 靴を支給したりしないとだし、まだまだ不足している物は沢山ある。

 頑張って稼がないと。

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