第40話 おっさん、陰謀に嵌る

 砂嵐が去って一週間。

 今日も空は快晴で風も穏やか。


「ほら、小父さんの番だよ」

「ほい来た」


 脱走兵と子供が石を投げて当てる遊びを遊んでいる。

 脱走兵の仕事を割り振ってやらないと。

 復讐のために全員が兵士を希望しそうだが、そうもいかないんだよな。

 作物の生産もおろそかにできない。

 壊れた家や外壁も修理しないといけないし。


 足が流砂地帯に向く。

 流砂地帯には見張りと子供が何人かいた。

 子供って危ない遊びが大好きだから、ここにいるんだろう。


「危ないから、気を付けて遊べ」

「うん」


 何をしているのかと思ったら石に糸を付けて流砂に投げ込んでいる。

 流砂が石を飲み込むのが面白いらしい。


 砂に何か埋めている子供もいる。

 宝物でも埋めているのだろうか。

 砂嵐がくると砂が降り積もる事もある。


 隠し場所が分からなくなりそうだ。

 無駄のようだが、なんかロマンがあるのだろう。


 何百年も経って誰かが偶然見つけるとか、そういうのだろうな。

 流砂地帯を抜けて見回すとヴァンパイヤモスキートがほとんどいない。

 砂嵐でやられたのだな。

 水を撒いてまた数を増やさないと。


 帰ると家でアズリが険しい顔をして待ち構えていた。


「報告なら朝にしたはずだ。急用か」

「あなた、見損なったわ。私が数字に弱いのを知っていて横領したのね」

「えっ、何の事?」


「ここも、ここも計算が合ってない」


 指し示された書類を見る。

 俺は数字ぐらいはこの世界のものが読めるようになっていた。

 計算すると確かに合わない。

 そんな馬鹿な。

 今はパソコンで前は電卓で計算したはずだ。


「何かの陰謀だと言いたいが、聞く耳を持ってなさそうだ。俺はどうしたら良い?」

「これまでの功績を考えて追放の刑にするわ。アイテムボックスの中の物は全て置いてってね」


「えげつない。今までどれだけつくしたか分からへんの」

「アルマ、もう良いよ。ああ、分かった」


「誤魔化そうにも無駄よ。アイテムボックスの中が分かるドロップ品の道具があるから」

「用意周到だな」


 陰謀の臭いがぷんぷんする。

 何か予兆があったはずだ。

 たぶん、見逃したんだろう。

 迂闊だった。

 書類は脱走兵の誰かが細工したに違いない。

 だが、それだけじゃないはずだ。


 俺はアイテムボックスの中身を全て出した。

 着替えを除いて全て没収された。

 その事自体は痛くない。


 痛いのはもう手出しができない事だ。

 地球に帰ってしまおうか。

 ふとそんな考えが浮かぶ。

 いや、殴られたらそのままなんて、俺の性に合わない。


 オアシスの外にいても出来る事はあるはずだ。

 丁度、ダンジョンに遠征したかったところだし、いい機会だと思っておこう。


 俺はアルマ達3人を引き連れてオアシスを出て行った。


「これからどないするん?」


「今は雌伏の時だ」

「そうよね。やられっぱなしは癪よね」

「復讐実行」


「とりあえず、どこかのオアシスに潜伏するぞ。そして、ダンジョン攻略だ」

「そうせえへんと」

「私達も頑張るわ」

「運命共同体」


「ありがとう」


 前のダンジョン攻略は子供にお世話になったな。

 今は4人か。


 しまった。

 俺はなんて事を。

 子供だ。

 予兆は子供だ。


 脱走兵と遊ぶ子供がいた。

 情報収集をしてたに違いない。

 そして、手先になりそうな子供を勧誘してたはずだ。

 そう考えると、流砂に石を投げ込む遊びはマップ作り。

 何かを埋めてたのは戦略物資か。


 近々攻めて来るぞ。

 俺が忠告に行けないのがもどかしい。

 アタンだ。

 アタンを待ち伏せして、この事を伝えるしかない。


 何日か経ち流砂を抜けた辺りで、交易に出かけるアタンの隊商を捕まえる事が出来た。


「追放になった奴が何のようだ」


 隊商の護衛が俺を問いただす。


「わしに用だろう。下がっていろ」


 アタンが護衛を止める。


「子供達が買収されている節がある。オアシスに戻って警告してほしい」

「お前さんの言う事は、耳に入れてはいかん事になっておる」


 アタンがウインクする。

 分かったという印だとみた。

 スパイがどこに隠れているか分からんという事なんだろう。


「そんな」


 俺は落胆したふりをした。


「用事がそれだけなら、早くオアシスから離れるんじゃな」


「ここからは商売の話だ。売り買いするなら、敵味方なんか関係ないだろ」

「そうじゃな。商人にとって他の商会は敵であり味方じゃ。高く売れる見込みの品物があれば買う」

「それじゃ、近々大量に仕入れて来るから、よろしく」

「まあ良いじゃろ。各店に通達しておこう」


 伝手は出来た後は仕入れるだけだ。

 子供とスパイはアタンが何とかするだろう。

 そう信じるしかない。

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