第38話 おっさん、脱走を手助けする

 俺は砂の丘の上で双眼鏡を覗いた。


「おっ、来たな。懐中電灯の合図」


 点滅が1回だから、侵入成功だな。

 あの案内人には懐中電灯と腕時計を持たせてある。

 こうやって夜の九時に連絡を取る事になっていた。


 俺達は本陣からかなり距離が離れている場所に潜伏してた。

 砂をまぶしたシートを被っているから夜なら物凄く分かりづらいはずだ。


 夜が明けたので井戸のある場所に移動を開始する。

 砂漠をあてもなくうろうろしていると目立つのでそうした。

 旅人を装うためだ。


「こないな事せんでも、トランシーバーとやらをつこうたらどないです」


 井戸に着いて早々アルマがそう言ってきた。


「あれは声が聞こえる。それに距離が届かない。高性能の無線は高いんでな」


「ほな、しゃあない」

「待ってるというのは暇よね」

「時間無駄」


「よし、トランプしよう。隊のみんなもどうか」

「ゲームですか。やりましょう」


 井戸端でトランプをして遊ぶ。

 むっ、敵兵が来るな。


「みんな、殺気を漏らすなよ」


 敵兵は俺達の所に来て穴が開くほど観察した。

 武器は全部が俺のアイテムボックスの中だ。


「よう、今日も暑いねぇ」

「違いない。お前らはどういう集まりだ」

「オアシスを移ろうという旅の途中でな」


「それにしても荷物が少ないな」

「夜逃げ同然で逃げて来たから家財道具は持ってない」

「蒸留器を持ってないのに井戸で時間潰しか。どうしてだ」


「モレクにたらふく塩水を飲ませないと、潰した時に水を採れないだろう」

「モレクが塩水を体内でろ過するにも時間が掛かるか」

「その通りだ」

「邪魔したな。ゲームを楽しんでくれ」


 行ったな。

 ばれたら、ぶっ殺すだけだが。

 こいつも人質をとられて騙されたクチかも知れない。

 そう考えると殺すのは少し可哀そうだ。


「遠くでさっき兵士が観察しているかも知れないから。砂ガニを探しに行こう」

「いいわね。砂ガニ、大好き」

「蟹至高」

「うちはカップ麺にトッピングするわ」

「お好きなように」


 砂ガニを料理したが、兵士の一団は来なかった。

 あの兵士はなんとか誤魔化せたという事か。


 夕方になり合図を待つ砂の丘に移動する。

 待つ事五時間ほど。

 問題なしの合図があった。


 そして、次の日の夜。

 決行は明日の夜との合図があった。


 次の日の夜。

 本陣から火の手が上がる。

 そして、モレクが一斉に駆け出す。

 俺達は、赤外線ゴーグルを使い、モレクに乗った兵士を見つけては、集団に吸収していった。

 ここからが正念場だ。

 追っ手は確実に来るだろう。


「武器は持ち出せたか?」

「いや駄目だ。夜間、武器はメンテナンスする事になっている。理由をなんとかしようと思ったが無理だった」


 武器なしの兵士が100人余りか。

 使える金額は約20万円。


 アクリル鏡は出すとしても、ドローンの操縦は無理だな。

 あれは慣れるのに時間が掛かる。

 コンピューターゲームなんかをやっていれば、理解が早いが。

 機械になれていない人間にはいきなりは無理だろう。


 とにかく夜のうちに距離を稼ごう。

 夜通しモレクを歩かせサラクオアシスを目指したが、昼になり途中で見つかってしまった。

 小隊だったので鏡の集中砲火で撃退したが、何人か逃がしてしまった。


 大軍が来るぞ。

 よし、罠を張ろう。

 砂に100均のゴミ箱を沢山、埋める。

 上部を砂をまぶしたシートで覆い落とし穴の完成だ。

 モレクが足を取られれば転がるに違いない。


 接着剤をまぶしたシートの下に伏兵を伏せる。

 武器は爆竹だ。

 投げたら逃げろと言ってある。

 運が良ければ逃げられるはずだ。


 しばらく待つと大軍が現れた。

 俺達の方へモレクを走らせる。


 いいぞ。

 もう少しで落とし穴ゾーンだ。

 モレクがいきなり転がり、兵士が投げ出された。

 モレクの突進が止まる。

 よし、今だ。


 伏せていた伏兵が爆竹を投げつけた。

 パニックになるモレク。

 大軍は統制がとれてない。

 アクリル鏡の反射した太陽光がモレクの目を焼く。

 モレクは大暴れして兵を振り落とした。


 俺は駆け足で近づき乱戦の中で手あたり次第メイスで叩きまくった。

 落馬した兵士を100均の包丁を持った兵士が止めを刺す。


「撤退! 撤退!」


 逃がすかよ。

 俺は石に両面テープを巻き爆竹を付けた物を投げまくった。

 逃げて行く最中に爆発が起き、周りのモレクもパニックになる。


 敵軍で撤退できたのはほんの僅かだ。


「完全勝利だ」

「わー」

「勝ったぞ」


 なんとかなって良かった。

 少ない資源で勝つことが出来たぞ。

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