第37話 おっさん、人質を助けに行く

「ムニ、あなた達の小隊の仕事はアタンのキャラバンの護衛よ」


 アズリからそう言い渡された。


「交易を再開するのか」

「ええ、細々とした物は仕入れないと」


「そうか。敵はこれを手ぐすねを引いて待ってるんだろうな」

「気をつけてね。財産を奪われてもなんとかなるけど、人の命はどうにもならないから」

「そうだな」


 キャラバンが待機している広場へ行く。

 キャラバンはモレク100頭に元からいたアタンの護衛が10人だった。

 今回はそれに俺達の小隊が加わる事になる。


「荷物を積んどるモレクは走らせる事ができん。爆竹も禁止じゃぞ」


 着く早々アタンにそう釘を刺された。

 爆竹が使えないとなれば、厳しいな。


「ドローンと爆竹のセットは許可してくれ」

「絶対に味方のモレクのそばで爆発させるんじゃないぞ」


「ああ、分かっているさ」


 更になんか作るか。

 よし、石に両面テープをぐるぐる巻き。

 これに爆竹を付けて敵のモレクにぶつければ、くっ付いて爆発するに違いない。

 投てきの距離より弓の方が射程が長い。

 これは使えないな。

 アイテムボックスにストックしておくが出番はないだろう。


 弓の射程を上回って命中率の良い物。

 何があるだろうか。

 そうだ、あれがある。

 ぶっつけ本番になるが、用意しておこう。


 俺達のキャラバンは列になって進んでいく。

 先頭は俺達の隊だ。

 モレクに二人乗りして、手綱を握っていない人間が、双眼鏡片手に哨戒任務にあたる。


「隊長、右手前方に敵が見えます」


 俺は双眼鏡で敵を見た。

 駆け足で敵の小隊が向かってくる。

 秘密兵器の出番だ。


「作戦通りにやるぞ」


 秘密兵器のアクリル鏡を俺達は構えた。

 角度を調整して、敵のモレクの目に太陽が入るようにする。

 なかなか難しい。


 おっ、1人落馬した。

 ドローンの射程に入るまで3人が落馬。

 俺達の小隊はドローン爆竹に攻撃を切り替えた。

 爆竹ドローンで2人落馬。


 後続の元からいたアタンの護衛はアクリル鏡で奮闘している。

 矢が降ってくる。

 モレクはよほど勢いのある矢でない限り刺さらない。

 結局、損害はアクリル鏡1枚だった。


 アクリル鏡反射は至近距離でも威力を発揮する事が分かった。

 盾にもなるし、良い攻撃だ。


「解放しろ」


 捕虜が喚く。


「もう諦めようよ」


 別の捕虜が悟りきったような顔で話した。


「諦めたら人質がどうなるか分からない」


 人質をとられているのか。

 許せんな。


「話によっては、助けてやらんこともない」

「始まりは戦いに負けて兵士がたくさん死んだからだ。兵士が居ないので徴兵制を取ったんだが、誰も従わない」

「なるほど、それで人質ってわけか」

「グエルオアシスに捕らわれているので、助け出してほしい。お願いだ」


「分かった。交易が終わったら、お前らの代表者をグエルに連れて行く。救出できるかは、現地に行ってからだな」

「ありがとう」


 捕虜は泣き出した。


「涙は再会の時にとっておけ」


 交易は問題なく終わった。

 途中、敵兵の襲撃はあったが、アクリル鏡の扱いにも慣れたので、楽勝だった。


 さて、人質救出作戦だ。

 旅人を装い、グエルオアシスに侵入した。


「人質はどこだ」

「戦争に行く前に最後に会った場所は、もうちょっと行った先だったはず」


 その建物に近づくが警備の人間などいない。


「本当にここか」

「間違いない」


 ドアが開いていたので中に入る。

 中に誰も人が居ない。

 人質の場所を移されたか。


 仕方ないので、いったんサラクオアシスに戻る事にする。

 グエルオアシスの大通りを歩いていたら、案内役が突然、対面から歩いて来た男を殴った。

 くそっ、目立つなと言っておいたのに。

 仕方ない。


「よくも借金を踏み倒してくれたな」


 俺はそう言ってから対面の男の意識を刈り取った。


「取り立てするから、拉致するぞ」


 そう言って意識のない男を砂漠に連れ出した。


「まったく。ところでこいつは誰だ?」

「俺も知らない」

「知らない他人をいきなり殴ったのか。返答によっては殺すぞ」

「待ってくれ。こいつが母の首飾りをしてたんだ。さっき近くで見たが、間違いない」

「そうか、情報を何か知っているかもな。しかし、短気にもほどがあるぞ」


「すまん。母を脅して首飾りを奪ったかもと考えたら手が出てた」


 俺は水を出すと男に掛けた。


「おい、起きろ」

「はっ。あんたらは、何なんだよ」


「その首飾りはどうやって手に入れた?」

「さぁな」


「痛めつけてやれ」

「待った。話すよ。死体からはぎ取ったんだ」

「なんだと」


 案内役が男の胸倉を掴む。


「落ち着けよ。死体の特徴は」


 特徴を話し出す男。


「間違いない。母だ」

「死体は沢山あったんだな」

「ああ、そうだ。死体の処理なんて嫌な仕事だったぜ」


 案内役は短剣を抜くとぶすりと男を刺した。


「なんで? 素直に話したろ……」


 この男の生死はどうでも良い。

 問題は今戦っている兵士の人質が既に殺されている事だ。


「お前、復讐したいだろ。何食わぬ顔で本隊に復帰して、人質がとられている兵士を離反させろ」

「ああ、やってやるさ。今度は短気を起こさない。やり遂げてみせる」


 グエルオアシスのバラムも下手を打ったな。

 だが考えは分かる。

 戦いから帰ってきた兵士は不満分子になるだろう。

 それが嫌だったのだな。

 どうせ殺すのなら、早いうちが良いと、人質を殺したのだと思う。

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