第33話 おっさん、モンスタートレインする

 敵は流砂地帯を渡る為に、対岸の味方の本隊をどうにかしようと考えたらしい。

 敵魔法使い達が魔法を対岸まで撃ち込む。

 いいように蹴散らされ味方本隊が後退。

 不味いな。

 流砂を渡られてしまう。


 流砂を渡られたら障害が何もない。

 大軍に蹂躙されてしまう。


 俺達10人はボウガンを持ち敵後方から火矢を撃った。

 物資は幾分か焼き払えたが、敵魔法使いをなんとかしないと。


 そうだ、ヴァンパイヤモスキートだ。

 こいつら、水を撒けば幾らでも発生する。

 水道水でも発生するのは確認してある。


 よし、水を撒こう。

 孵化して成虫になるまでの時間を稼がないと。


「時間を稼ぎたい。何か案はないか」

「モレクに肉を結び付けて走らせるんだ。そうしてモンスターを誘導してぶつける」

「よし、それでいこう」


 モンスタートレイン作戦だ。

 砂丘の上に立ちモンスターを探す。

 居たことには居たが、よりによってサンドシャークかよ。

 はぐれだったので、一匹で悠々と砂の海を泳いでいる。

 モレクの足じゃ追いつかれるのは必至だな。


 バギーみたいな砂の上を走る乗り物が欲しい所だが、無い物は仕方ない。

 作戦変更だ。


 ドローンに血袋をぶら下げて誘導する事にした。

 上手くいってくれよ。


「どない」


 アルマが心配そうにドローンの映像を覗き見た。


「今のところ順調だ。血の匂いで誘導されている」

「私達に魔法が使えたら、あのぐらいの敵軍は蹴散らせるのに」

「余裕」


 エリナとモニカがそう言った。


「100レベル超えは伊達じゃないから、1000人ぐらいは蹴散らせるのは分かるけど。確実に負傷するだろう」


 俺が単騎で突撃しない理由だ。


「そろそろだぞ」


 サンドシャークが敵軍に接敵する。

 慌てた様子の敵軍。

 魔法使い部隊がサンドシャークに攻撃を始めた。

 いいぞ、もっと削れ。


 敵軍はバリスタを出して来て、応戦を始める。

 バリスタの矢は中々、当たらない。

 兵士が次々に食われて行く。

 200人ぐらいの損害が出た時にサンドシャークは死んだ。


 もうちょっと粘って欲しかった。

 でも大損害を与えた。


 敵軍の対岸への攻撃が止まり一週間。

 遂にヴァンパイヤモスキートが成虫になった。

 敵軍に襲い掛かる黒い霧。


 敵はパニックになっている。

 チャンスだ。


 俺達は虫除けスプレーを体に吹き付け、携帯用蚊取りを腰にぶら下げ、敵軍に近づいた。

 そして敵の物資を焼き払ってやった。


「うひゃひゃ、どんなもんよ」

「これで当分敵の攻撃が止まるな」


 ラバルが感心した様子で言った。


「美しい攻撃です。犠牲を出さずに、こんなにも戦果を挙げるなんて、非常に美しい」


 と髪をかき上げながら話すリアス。


「食料が燃えるのは悲しい」


 悲し気な目つきのアダド。


「次の時は補給物資を分捕ってみるか」


 今回物資を焼き払ったのは戦意を喪失させる為だ。

 盗まれたのと焼き払われたのでは気分が違う。

 盗まれた場合は取り返そうとやる気になる可能性がある。


 双眼鏡で敵軍を観察する。

 敵軍はヴァンパイヤモスキートの防護服を、ほとんど持って来なかったらしい。

 駆除するのに苦労している。

 俺はヴァンパイヤモスキートを増やすべくせっせと水を撒いた。


 敵軍はヴァンパイヤモスキートに対処できず、じわじわと数を減らし。

 そして、撤退した。

 やった、勝利だ。


 俺達は意気揚々とオアシスに戻った。


「良くやったと言いたいけど、ヴァンパイヤモスキートが居なくなるまで大変よ」


 アズリに文句を言われた。


「ヴァンパイヤモスキートの盾はこれからも続ける。相手が諦めるまではな」

「皆に不満が溜まりそう」

「虫除けスプレーと蚊取りグッズがあるから、なんとかなるだろ。慣れれば、きっと平気だよ」

「だと良いけど」


 今回、敵軍は退いたが、また来るに違いない。

 今度は防護服を着こんで来るだろう。

 防護服を暑い砂漠で着ているのはストレスになる。

 戦闘になれば更にストレスのはずだ。

 地味な嫌がらせになると思う。

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