第34話 おっさん、出撃する

「今度こそ、戦いに連れてってくれよぅ」


 そう言ったのは弟子にしたレアル。

 剣術の基本をマスターして気が大きくなっているらしい。

 敵なしだとでも思っているんだろうか。


「駄目だ」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ」


 ごねられてもな。


「今度、ダンジョンに連れてってやる」

「ほんと? 約束だよ。破ったら承知しないよ」

「戦いが終わってからだぞ。それまで剣術を頑張れよ」

「うん」


 さあ、流砂地帯の向こう側に水を撒く作業だ。

 地味な作業だが、これが生命線になる。


 ヴァンパイヤモスキートの黒い霧がオアシスの方へ流れて行く。

 痛し痒しなんだよな。

 ヴァンパイヤモスキートの発生を止めれば敵軍が押し寄せる。

 発生したら、したらで、うっとうしい。


 むっ、防護服を着てモレクにまたがった一団が近づいてくるのが見えた。

 敵か?

 いや分からん。


 俺はその場で待機した。


「お前どこの者だ?」


 モレクの男が誰何してきた。


「サラクオアシスの人間だ」

「敵だ。やっちまえ」


 俺はメイスを出すとモレクの頭を殴った。

 一人脱落だな。


 俺の背後の男が剣で切りつけたようだ。

 魔力壁で受け止めた。


「こいつ、硬いぞ。それに連れの女たちはいくら刺しても死なない」

「魔法使いなのか? いや、もっとおぞましい何かかも知れん」


 ほいほいっと。

 二人追加で脱落だ。


「退くぞ。撤退だ」


 俺達はモレクから落ちて呻いている三人をサラクオアシスに連れて行った。


「敵の偵察と思われる奴を捕まえてきた」

「大手柄ね」


 そう言ってアズリが俺をねぎらった。


「俺の役割は宰相だったんだけどな。これじゃ将軍だな」

「悪いと思っているけど、水を大量に作れるのはあなたしかいない。とっても感謝しているわよ」

「よし、尋問しよう」


 俺の言葉を聞いて、連れて来られた男達に動揺が見えた。


「手荒な事はしないさ。素直に喋ってくれないと。上半身裸でヴァンパイヤモスキートにさらすというだけだ」


 男達の顔が青くなった。


「喋るなら今のうちよ。とっとと本陣の場所を喋りなさい」


 アズリがそう言った。


「喋るから、ヴァンパイヤモスキートは勘弁してくれ。サラクオアシスからモレクで一日ほど移動した場所だ」

「地図は描けるか」

「ああ、描ける」


「本体は何人ぐらいだ」

「100人とモレクが300頭」


 騎兵隊という訳だ。

 機動力で勝負という訳らしい。


「聞きたい事は聞いた」

「殺すのか」

「いいや、閉じ込めるだけだ」


 男達を監禁しておくように手配して、作戦会議を始める事にした。

 出席者は俺と三人の妻、アズリ、交易の頭のアタン、戦士をまとめているメルスの七人。


「ちょっと面倒な事になった。敵はモレク騎兵だ。機動力を持っている」

「狙いは交易の隊商じゃな」


 アタンがそう言った。


「そうかも知れない。100騎だから、大規模な侵攻はないだろう」

「相手より早く攻撃できる武器が欲しいな」


 とメルスが言った。


「それについては考えがある。ボウガンとボーラだ」


 ボウガンは言わずと知れた引き金を引くと矢が飛んで行く弓だ。

 ボーラはロープの端と端に重りをつけた物で、当たるとロープが絡まる。


 ポリカーボネートの盾もつけるか。


「武器があるなら戦うだけだ」

「それに双眼鏡を支給する。敵より早く見つける事が出来る。数の優位が保てない時は逃げられる」

「これで決まりね。とるべき戦略はゲリラ戦よ。偵察に出た小隊を小まめに潰しましょ」


 戦いに出る前にボーラの練習をする事になった。

 木の杭にロープと100均の鉄アレイで作ったボーラが炸裂する。


「みんな上手いな」

「投石は戦士の嗜みだ」


 そうメルスが言う。

 砂に潜って隠れている奴がいる。


「あれは何をしているんだ」

「待ち伏せして砂の中から襲い掛かる訓練だ。双眼鏡があって助かった。あれがあれば待ち伏せが容易だ」


 戦士の準備は良いようだ。

 俺は率いている小隊の所に行った。


「俺達の隊も出る事になった」

「俺は絶対にモレクには乗らないぞ」


 とライムが言う。

 そう言えばこいつはモレクが嫌いだったんだな。


「おでの乗るモレクが可哀そう」


 アダドは太っているから、確かにモレクを走らせるのはきつそうだ。


「しょうがない。俺達の小隊は徒歩で行くぞ」

「美しくないよ」

「リアス、歩くのは美容に良いんだぞ」

「ふっ、私の美しさに磨きが掛かるのなら、やりましょう」


 こういう訳で俺達の小隊は徒歩で出撃となった。

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