第27話 おっさん、弟子を取る

「ほい、大事に使ってくれよな」


 サンドシャークとサンドアリゲーターの防具をオアシスの男達に配備している最中だ

 列に子供の姿が見える。

 子供用の鎧は無いぞ。


「弟子にして下さい。俺はレアルです」

「話は分かった。少し待ってろ」

「はい」


 鎧の配備を終え、レアルの話を聞くことになった。


「待たせたな。ちなみに何の為に弟子入りしたい」

「それはもう金しかないです」


 金の為か。

 別に悪い事じゃない。

 仕事ができるようになれば稼げる。

 それを目指すのは良い。


「弟子って帳簿つけの事じゃないよな」

「はい、討伐です」

「よし、ついて来い」


 レアルを連れてメルスの所に行った。

 メルスはサンドシャークの討伐隊の元リーダーで腕が立つ。


「この子供を鍛えて欲しい」

「良いぜ。最初は素振りからだ」


 レアルは素振りを教わり木剣を振る。

 しばらくして、疲れたのだろう。

 荒い息を吐いて座り込んだ。


「あの、必殺技とかないんですか?」


 レアルがそう言った。


「ないな、基礎の上に技がある。その技も一度見られてしまえば、同じ力量なら対処される。力量の差が勝負を分ける」


 メルスそう言ってさとす。


「スキルなら一つ教えてやれるぞ」


 俺はそう言った。


「ほんと」


 レアルの目が輝いたように思う。


「溢れる魔力を使って、防御力を高めるスキルだ」

「早く教えて」


「メルス、木剣で俺を殴ってみてくれ」

「やるぞ、とおりゃー」


 メルスが振りかぶり、木剣を振り下ろした。

 バシっと音がして木剣は肩で受け止められた。


「ざっとこんなもんだ」

「すげえ、痛くないの」


「ああ、痛くない」

「どうやるの」


「魔石に魔力を送る時に魔力の流れを感じるだろ。その逆で魔力を塞き止めて固めるんだ。やってみろ」

「こうかな」


「駄目だ。力を入れても成功はしないぞ。息を止めるイメージだ」

「難しい」

「毎日鍛錬するんだな」

「さあ、レアル、素振りの再開だ」

「はい」


 しばらく鍛錬を見ていたが、段々とレアルの休む時間が増えてきた。

 合間に魔力壁の訓練をするかと思ったら、ただ休むだけだ。

 そして。


「やってらんねー」


 レアルはそう言って、木剣を放り出して逃げ出した。


「済まんな」


 俺はメルスに詫びた。


「子供にはありがちな事だ。気にしてない」

「もし、戻ってくるようだったら、謝らせてから訓練を再開してほしい」

「ああ、分かってるさ」


 しばらく待ってみたがレアルは帰ってこない。

 探しに行く事にした。


 レアルの行先を訪ねたらオアシスから砂漠に出て行ったそうだ。


「モニカ、レアルがいる方角を示してくれ」

「闇の道標を発動」


 矢印がある方向を示した。

 俺達はその方向に向かって走り始めた。

 嫌な予感がする。

 無事でいてほしい。


 前方にサンドウルフに囲まれたレアルの姿が見える。

 レアルはナイフを持って応戦していた。

 俺は100均の鉄アレイを投げながら走り寄る。


「モニカ、ボウガンを撃て」


 俺はモニカにボウガンを走りながら手渡した。


「了解。暗黒の凍てつく冷気よ。黒き矢となり飛べ」


 矢はサンドウルフの一頭に当たった。

 サンドウルフの半分が俺達に注意を向ける。


「防戦だ。防ぐ事を意識しろ」


 レアルの構えが変わった。

 俺は囲みのうちの一頭の首を掴みへし折った。

 そして、その死骸を投げつけた。


 レアルは噛みつきにきたサンドウルフをかわし、すれ違いざまにナイフで切りつけた。

 そしてレアルはサンドウルフから距離を取った。


 俺達はなんとか、レアルと無事に合流できた。


「俺……俺……」

「言い訳は後で聞く。やられるなよ」


 メイスを出してサンドウルフを叩いて回る。

 モニカはボウガンを取り換えながら矢を放つ。

 危なげなく全頭を始末できた。


「さあ、言い訳を聞こう」

「もう、誰の世話にもならないで生きていこうと思ったんだ。俺、捨てられたから。でも、何にもできなくて。弟子入りして、教わったけど。あれだと何時まで経っても一人で生きていけない」

「そんなに一人で生きていきたいのか」

「別れが嫌なんだ。別れの辛さを、もう味わいたくないんだ」


「どうしても一人で暮らしたいってなら、働いてモレクを買い砂漠を彷徨うんだな」

「そんなの出来ない」

「何が出来ないんだ?」


「働き口が見つけられない」

「甘ったれるな。土下座してでも頼むんだよ。それが嫌なら、素直に人の世話になれ」

「子供なのは悪なのか?」

「いや、子供は色んな大人の世話になって、やがて独り立ちするんだ。そして家族を作り子供が産まれる。そうやって続いていく」

「分からないけど、何となく分かった。そういう生き物なんだ」


「そうだな。子供は色々と大人に迷惑を掛けて大人になっていく。そういう生き物だ」

「俺、訓練頑張るよ。子供を捨てない大人になる。悲しい別れじゃなくて笑顔の別れが出来るようにする」


 レアルはもう大丈夫だろう。

 世話が焼けたが、俺は大人だからな。

 骨折りも仕方ない。

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