第9話 おっさん、討伐隊に参加する

 俺達が売る美味い水は評判になった。

 アズリの魔力を含めると一日18本の水が出せる。

 空のペットボトルを持って来た人には、銅貨1枚で水道水を入れてやった。

 水道水はカルキの匂いを嫌がる人もいるが、湖の水でお腹を壊す人には好評だ。

 好評の人によると湖の水も沸騰させれば平気らしいが。


 骨董も掘り出し物をちょくちょく買って転売したので、とにかく商売は上手くいった。

 今日も露店で水売りだ。

 相変わらずアルマとアズリの仲は良くない。


「私、サンドシャークの討伐隊に参加しようと思う」


 そうアズリが言った。


「サンドシャークは強いんだろ」

「ええ、とってもね」

「この生活に不満があるのか」

「違うわ。サンドシャークは仇なの。許せないのよ」


 何か思惑というか因縁があるらしい。


「俺もついて行くよ」

「うちは反対や」


「アルマはそういうけど、戦いに長けた奴を探してる。ダンジョン攻略する為だ。俺の眼鏡に叶う奴がいるかもな」

「利害が一致したわね」

「アルマもいいだろ」

「決意が固いようやな。ならしゃあない」


 空のペットボトルに水道水を沢山詰めて準備した。

 食料もアイテムボックスに入れたし、出発を待つばかりだ。


 出発の日がやってきた。


「ひゃひゃひゃ、勇士の諸君。これから君達はサンドシャーク討伐に向かう事になる。まずは料理と水を用意した。遠慮なく味わってほしい。ささやかな出陣の宴じゃ」


 街の広場でバラムがそう演説した。


 広場にはテーブルが設置され料理が所狭しと並んでいる。


「流石、バラムの旦那だ。物事が分かっている」

「ちげぇねぇ。道中も食い放題だってよ。討伐の前の晩には酒もでるそうだ」

「太っ腹だねぇ」


 集まった男達がそう言っているのを耳にした。

 食料の準備は要らなかったか。

 どんな事態が起こるか予想はできないから、用心にこした事はないだろう。


「ひゃひゃひゃ、聞く所によると君はアイテムボックスが使えるのだろう。一つ頼まれてくれんかのう」


 バラムがそう言ってきた。


「何だ」

「特別な餞別を用意したのじゃ。持って行ってくれんかのう」

「いいぜ」


「おい、あれを持ってこい」


 バラムが指図すると男達が木箱を持って来た。


「中身は何だ」

「祝いの品じゃ。討伐が終わったら開けて配ってくれんかのう」

「それくらいなら」


 俺が木箱をアイテムボックスに収納すると、アズリが槍を手に立っていた。


「ムニ、食べてる」

「アズリか。食べてるよ」

「いよいよね。これで仇が討てるのね」

「戦闘は得意なのか」

「否応なしに覚えさせられたわ」

「でも前に出過ぎるなよ」

「分かっているわ。敵討ちもだけど、やらないといけない事もあるし」

「そうか。死ねない理由があるのなら良い」


 宴は盛況のうちに終わり、次の日、200人余りが出発した。

 約1割が女性で残りは男性だ。


「サンドスコーピオンがやってくるぞ」


 道中、俺達はサンドスコーピオンの群れに出くわした


「前哨戦だ」


 思い思いの武器を持った男達が1メートルを超えるサソリに戦いを挑んでいく。

 毒を食らって死んだ奴もいたが、死者は数名で群れは退治された。


「楽勝だな。こんだけ人数がいればサンドシャークも容易いぞ」

「今夜はサンドスコーピオンの焼肉だな」


 野営の準備を終え、サンドスコーピオンを女達が焼いていく。

 カニみたいで美味い肉だ。

 蒸留水が皆に振舞われる。


 本当に飲み食いが、し放題なんだな。

 アルマにサンドシャークについて聞いてみる事にした。


「サンドシャークってのはどういうモンスターだ」

「分からへん。見てみない事には」


 鑑定だから見ないと駄目って事か。


「砂を泳ぐ奴よ。建物二つ分ぐらいの大きさがあるわ」


 アズリが寄って来てそう言った。


「強いんだよな」

「皮膚は堅いし、パワーもあるから」

「それは厄介だな」

「餌をたらふく食うと、一年間眠るけど」


 それはまた爬虫類みたいな奴だな。

 モレクを連れてって食わせて、静かにさせるって手が使えそうな相手だな。


「家畜を食わせてみたらどうかな」

「駄目よ。味を占めて居つくから逆効果よ。居つくうちに増えるから手に負えなくなるわ」


 餌があれば餌場だと思うか。

 餌があれば繁殖する。

 道理だな。

 おまけに餌が足りなければ眠らずに暴れるのだろう。

 爬虫類というより熊か。


 今回の場所は交易路だから、無視できない。

 討伐するしかないのだろうな。


「今回の討伐は成功すると思う?」

「分からないわ」

「強敵なんだな」

「討伐した者はシャークキラーの称号が贈られる。将軍待遇で迎え入れられると聞いたわ」

「今回は大丈夫なのか」

「何人生き残るかしらね」


 俺はとんでもない事に首を突っ込んだのかも


「心配する事はないわ。魔石爆弾が1000個用意されているそうだから」

「魔石爆弾かぁ。名前からどんな物か想像はつくけど、勝てるかな」

「勝てると思うわよ。魔石爆弾が1個あれば建物が一つ吹き飛ぶわ」


 切り札があるのなら、一応、安心していいのか。

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