第10話 おっさん、罠に掛かる
「食料なら腐るほどあるぞ。遠慮なく食え」
気持ち悪いほど待遇は良い。
命を賭けているのだから、当たり前か。
「バラムの旦那には感謝しかない。ろくな武器を持ってないのに同行を許してもらえた」
「そうだよな。試験なしだものな」
「心意気が大事なんだよ。オアシスの交易路を守るんだという心がな」
男達がそんな事を言っていた。
行軍に無理はない。
モンスターの襲撃による以外での脱落者はいない。
交易路の確保が急務ではないのか。
それとも討伐が失敗しないという自信の表れか。
討伐隊はサンドシャークが居る交易路の重要地点にやってきた。
そこは丘ぐらいの大岩が見える。
あの大岩が目印でそばに大井戸があるのだな。
俺達はサンドシャークを刺激しないように少し離れた所に野営した。
戦い前の宴を開く。
サンドシャークがいるために火を使った料理は無いが干し肉と白パンと今日の昼作った冷めたスープが出された。
そして、酒が振舞われる。
サンドシャークが近いので、馬鹿騒ぎする人間はいない。
お通夜での食事会を思い起こさせた。
お通夜でももっと賑やかだったように思う。
みんな早々に食事を切り上げテントに入った。
朝になり作戦が伝えられた。
忌避剤を体に塗りたくって全員で大岩に登る。
魔石爆弾を持って上がるので、その後は大岩を砦代わりにして、サンドシャークを攻める。
そういう作戦だ。
みな念入りに忌避剤を塗った。
準備完了だ。
「よし、駆け足で大岩に登るぞ」
リーダー役の男が指示を出した。
「おう」
「分かっている」
「駆け足だ。行け! 行け! 行け!」
大岩に必死で駆け寄る。
しかし、サンドシャークは背びれを砂から出して近寄り、大きな口を開けて襲い掛かってきた。
「うわー」
「助けてくれ」
忌避剤効いてないじゃん。
二百人のうち二十人程が食われた。
「魔石爆弾は無事か!?」
「おい。ムニと言う奴は居るか」
「俺だが」
「木箱を預かっているだろう」
「おお、そんな事もあったな。今、出すよ」
俺は木箱を出し、男達が開封する。
「よし、野郎ども反撃だ。魔石爆弾を手に取って投げろ」
「大変だ。魔石爆弾がただの石ころになってる」
「何だって。ムニ、おまえ盗んだのか」
「それならここまで一緒に来ない」
「そうだな」
俺が大岩の一番高い所に立って野営地を見ると、ここまで荷物を運んできたモレクが引き上げて行くところだった。
くそう、嵌められた。
「どうすりゃ良いんだ!?」
「戦うしかないだろ」
「全滅は必死だぞ」
俺が持っている食材とみんなの魔力で魔力通販すれば食料は賄える。
だが、持久戦でも勝てるとは思えない。
「騙されたんだ。不思議に思ったんだ。帰りの分の食料が無かったんだよ」
一人の男がそう言った。
「なぜ言わない」
男が言い合いを始めた。
「聞いたら。後続の補給部隊が届けてくれるって」
「だが、サンドシャークが俺達を食えば居ついてしまうんじゃないか」
「たぶん俺達が必死になって討伐すると踏んでいるんだろ」
「駄目だった時は、今年は大丈夫という事か」
「そうだ。これを繰り返せば、いつか討伐は出来ると踏んでいるんじゃないか」
「くそう、馬鹿にしやがって」
「戦いなんかやってられるか。俺は逃げるぞ」
男が大岩を駆け下りて、砂漠を何歩か歩いた時に食われた。
「くそう。待ってやがる」
「今まで被害にあった隊商で学習してるんだ。いつかは岩から降りるって」
「おい、手はないのか」
「襲い掛かってきた時に鼻づらを攻撃するんだ」
「無理だ。そんな事をいうなら、お前やってみろ」
「みんなで一斉に違う方向に逃げたら、誰か助かるんじゃないのか」
「おお、そうだ。みんな聞いたか。せーので走るぞ。せーの!!」
誰も走らない。
こいつら誰かが犠牲になっている隙に逃げようと思ったな。
かくゆう俺もそう思った。
大岩の上は安全地帯だ。
魔力通販を使えば、しばらく生きていける。
「みんながやらないなら。私がやる」
アズリがそう言って槍を構えた。
「待て、アルマは鑑定スキルみたいな物が使える。それを聞いてからでも遅くない」
「アルマ、サンドシャークの弱点は?」
「カプサイシンや」
えっと、どっかで聞いた事のある単語だな。
なんだっけ。
「お前ら、知ってるか」
リーダーの言葉に討伐隊の面々はみな首をひねった。
うわ、一歩進んで二歩下がるみたいな気分だ。
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