第8話 おっさん、アズリと知り合う

 水の配給所には沢山の人が詰めかけていた。

 みんな手にコップを持って、雑談しながら行儀よく順番を守っている。

 その列に俺も並んだ。


「聞いたか。交易路にサンドシャークが居ついたらしい」

「おう、聞いた聞いた。討伐隊は出るのかな」


 噂に耳を傾ける。

 交易路に住み着いたモンスターの噂で持ち切りだ。

 荒事になるようだった。

 討伐には参加しても良いかもな。


 段々列は短くなり俺の番になった。


 ひしゃくを差し出されたので手でお椀の形を作り受け止める。

 そして一気に飲んだ。


 蒸留水だな。

 ぷはぁ不味い。

 味も素っ気もないとはこの事だ。


「ひゃひゃひゃ、不味いという顔をしとるの」


 バラムが現れて俺に声を掛けた。


「湖の水に比べたら美味いよ。あれは少し塩気があって臭い。だが、これは素っ気がない」

「そうかのう。美味い水を知っているような口ぶりじゃのう」

「両方の良いとこ取りした水があっても良いと思う。それが美味い水じゃないかな」

「作れそうな口ぶりじゃ」

「いや言ってみただけだ」


 バラムは顎に手をやり去って行った。

 目を付けられたかな。

 不味い物は不味い。

 仕方ない。


 美味い水がなんとか作れないかなぁ。

 樽に砂を敷き詰めて湖の水をろ過すれば出来そうだが。

 汚れはともかく塩分が除去できないだろうな。


 蒸留水を魔力通販で出した砂の層をくぐらせると、ミネラルが溶けだして美味い水にならないかな。

 後で試してみよう。


「あっ」


 少女が俺にぶつかってコップを落とした。

 かなり仕立てのいい服を着て、長い銀髪の少女だ。

 だが、服はかなり着古した感じだ。

 一張羅なんだろうな。


「ぐすん。毎月これが楽しみだったのに。うわーん」

「ちょっと、泣くなよ。これだと俺が悪いみたいだ。仕方ない。今から、とびきり美味い水を飲ませてやる」

「ほんと?」


 少女が太陽みたいな顔でにっこりと笑った。


「ムニだ。よろしくな」

「アルマや。よろしゅう」

「アズリよ」


「ちょっと来い」

「えっ、いかがわしい所には行かないわよ」


 俺達は路地に入った。


「魔石に魔力を入れてくれ」

「なんだ。これから蒸留しようってのね。分かったわ」


 魔石に入った魔力で魔力通販を使い、2リットル天然水を出した。


「驚いた。早いのね。ユニークスキルって奴」

「そうだ。水を飲んでみろ」


 ペットボトルからコップに水を注ぎ少女は一気に飲んだ。


「ぷはぁ、美味い。なんか甘味があるような気がする。気のせいかな」

「満足したか」

「ええ、でもこの水を知ったら、これなしでは生きれないわ。責任取りなさいよ」

「無茶苦茶だな」

「なら、大声で叫ぶわよ。美味い水を生み出す男がいるって」


 それは不味いな。

 丁度いいこの少女を利用しよう。

 魔力が二倍に増えればやれる事も増える。


「お前を俺が雇う。報酬は美味い水だ。もちろん食費と宿泊代ぐらい払える金も渡そう」

「えっ、いいの。そんな好条件。騙してないよね」


「もちろんだ。今の仕事は何してる」

「湖の掃除よ」

「ああ、あれか。給料安いのか」

「ええ、日雇いだし、食っていくのが精一杯。テントで寝泊まりしているわ」


 服は高級そうなのに、貧乏なんだな。


「うちの事を妻って言うといて浮気するんか」

「アルマ、浮気なんてしてないよ。従業員を雇っただけだ」

「奥さんが怖い目をしているからもう行くわ」


「酒屋ヤルクムの向かいで露店を出している」

「分かったわ」


 アズリが去って行き、アズリから貰った魔力でカップ麺を出した。


「アルマ、機嫌直せよ。カップ麺のシーフード味好きだったろう」

「あの女の魔力や思うと少し思う所はあるけど。せやな、カップ麺に罪はあらへんわ」


 宿で湖の水を沸かして沸き立つ頃には、アルマの機嫌も直っていた。

 塩味に魚介の旨味が溶け込んで麺に絡みつく。

 相変わらず美味いな。

 久しぶりカップ麺を食った気がする。

 前に食べたのは何時だったか。

 三年ぐらい前かな。


 ふうふう、しながら幸せそうに食べているアルマが可愛い。

 たまには、こういうのも良いな。

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