第198話 おっさん、選挙運動する

 水晶魔導士の反旗が翻るどころか、うやむやになりそうになっている。

 許せんという水晶魔導士はいるものの、選挙で勝って発言力を増してから、運動した方が良いと考える人間が多い。

 やられたという感想しか出て来ない。


「選挙では一票をお願いします」


 街頭では候補者による民衆への呼びかけが始まっていた。


「お前達は選挙に出るのか?」


 リオンとモーガスを前に俺は尋ねた。


「はい、出ます」

「俺も出ます」

「そうか、頑張れよ。二人のどちらかにしか票は入れる事はできないが応援している」


 選挙の管理は4大魔導士会が合同で仕切る事になった。

 選挙は1級市民と2級市民に選挙権が与えられる事になっている。

 俺はやる事がない。

 酒場で情報を集めるか。


「大物商人も何人か候補に立ったらしい。それよりもダイヤモンド魔導士の大半が候補に立ったようだ」


 俺がだいぶ数を減らしたからな。

 過半数を取るには大半が立候補しないといけない訳か。


「宝石魔導士会の会長は良いな。応援したくなる」

「駄目だ。色気が足りない。副会長の方が良い」


 レベッカとジャスミンの話をしている。

 二人とも候補者になったのだな。

 綺麗な女だと票が集まるのはどこも同じか。


「みなさん、お仕事お疲れ様です。今日の酒はダイヤモンド魔導士会のフレッド様のおごりです。今後ともよろしく」


 酒場に男が入って来てマスターに金が入っているであろう袋を渡し言った。

 おいおい、買収は卑怯だろう。

 日本なら選挙違反で捕まるところだ。


 宝石魔導士会は選挙の準備で忙しいようだった。

 人が慌ただしく出入りしている。


「レベッカ、ダイヤモンド魔導士会の奴ら買収しているぞ」

「それは報告が入っている。抗議したけど、お前らもやれと突っぱねられた」

「民衆はどう思っているんだ」

「気にしてないみたいだ。発言力や政治力は金の力だと思っているから」

「おお、ここは俺の故郷とは違うのを忘れていた。初めての選挙じゃ、やむを得ないか」


 俺の利点を活かすべきだな。

 現代製品で候補者の名前入りのグッズを作ろう。

 安い物が良いな。

 ボールペンはどうだろうか。

 一般の民衆は字を書かない人間も多い。

 駄目だな。


 男女共に使えるのはライターだな。

 マグカップも候補に入れよう。

 スポンジたわしは100円で数が入っているからお得だな。

 でも候補者の名前を書くのには適さない。


 ところで、誰が候補者の名前をグッズに書き込むんだろう。

 俺は嫌だぜ。


「レベッカ、グッズの候補を持って来た」


 用意したのはライター、マグカップ、皿、ガラス容器、プラスチック容器、ピーラーだ。


「良いな。とても良い。どれも便利そうだ」

「気に入ってくれて嬉しいよ。サインペンも出すから候補者の名前はそちらで書き込んでくれ」


 これで上手くいったと思ったが、数日後。


「全てダイヤモンド魔導士会に真似された」

「なぬ。ライターもか」

「ああ、魔道具で再現された」


 くそう、何かないか。

 文房具の類はだめだな。

 簡単に真似されないのは電卓みたいな製品だが。

 一般の民衆は電卓の良さは分からないだろうな。


 宝石を配るか。

 ジルコニアなら安く手に入る。

 だが、あんな小さいのに名前を書いてもな。

 でかいのは値段が高い。

 うーん、何なら真似されないだろうか。


 水晶は駄目だな。

 この世界でも産出する。

 相手は都市の予算がある。

 当然、真似してくるだろう。


 良い考えが出ないまま開票日を迎えた。


「どうだ。選挙結果は」

「私達は当選したわ」

「やったのだ」


 ジャスミンとレベッカは当選したようだ。


「俺達は駄目でした」


 リオンとモーガスは残念な結果に終わった。


「ダイヤモンド魔導士会の過半数はどうだ」

「残念ながら、取られてしまったわ。子飼いの商人の数を入れれば更に増えるかも」


 結果はダイヤモンド魔導士会の一人勝ちだった。


「それとですね。後で話があります」


 リオンが秘密結社の会合を示すサインを送ってきた。


「何だ。今ここで話せ」

「良いのですか」

「このメンバーは信用できる」


「選挙期間中に秘密結社が色々と動いたのですが、それを選挙妨害として訴えられてしまって」

「それはやり難くなるな」

「ええ、テロ組織認定されました。表向きでは金属魔導士会、万物魔導士会、宝石魔導士会も秘密結社を取り締まらないといけません」

「目こぼしすると、その3つの魔導士が逮捕されてしまうという訳だな」

「ええ」


 これからは動くのが難しくなりそうだ。

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