第190話 おっさん、暗殺者の卵を捕まえる

「オーダー様、秘密結社の人間が二人やられました」


 オーダーとは俺の事だ。


「捕まった奴はいないだろうな」

「ええ、いません」


 やられた手口はナイフによる刺殺。

 そこで、防刃グローブ、防刃ベスト、防刃ズボンの三点セットを配備する事にした。

 刃に毒がぬってあると事だから、解毒ポーションもつける。

 これで被害が減ってくれれば良いが。


 俺もビラ貼りに同行する。

 夜の街に俺達の足音だけが響く。


 ゴミが動いたと思ったら、ナイフを腹に当てられていた。

 魔力壁があるから刺さらないが気分の良いものじゃない。


 拳を振り上げ、刺客の背中に叩き下ろした。

 ゴギっと音がして刺客はピクリとも動かない。

 背骨が折れたんだろう。

 念のため口を開けて舌を見るとトカゲのマークがあった。

 こいつら、リウ暗殺団の残党だな。

 やけに背が低いと思ったらまだ顔が幼い。


 やな奴を殺しちまった。

 子供はなるべく殺さないようにしてたのに。


 もう一度出て来たら、無傷で捕らえる事も可能だが、洗脳は解けないだろうな。

 扇動ポーションが効けば良いが、あれは低レベル限定だからな。

 暗殺者の卵が低レベルなんて有り得ない。


「暗殺者は出来るだけ無傷で捕らえて連れて来い」

「かしこまりました。皆に伝えておきます」


 ビラ貼りを続行する。

 ある地点に差し掛かったところ、地面がめくれて地下から子供が飛び出した。

 俺はトイレのすっぽんを出して身構える。

 子供はナイフの刃に液体を垂らした。


 毒を使うのは想定内だ。


貫通ペネレイト


 むっ、貫通スキルか。

 魔力壁で対抗できるかな。

 俺はわざとナイフを腹で受けた。

 チクリと痛みが走った。


 トイレのすっぽんで子供をぶちのめしてから、解毒ポーションを呷る。

 魔力壁も貫通するとは、貫通スキル侮れないな。

 傷の方は大した事が無いので有効打とまでは言えないが。


「武器を持ってないか隅々まで調べろよ」

「血も涙もない一言ですな。この子供のトラウマにならないか心配です」

「なら、気絶しているうちにやるんだな」

「手が汚れないようになる物とかないですかね」

「なんに使うんだ。ゴム手袋を支給してやる。ちゃんと探れよ」

「はいはい」


 しばらくして。


「筒があり小さい刃物を隠していました」


 筒か。

 体のどこに隠してしたかは聞かないでおこう。


「そうか」

「それと胃袋にも武器がありました。口の中に紐があったので引っ張ったら出てきました」

「まじか。密輸業者がやるとは聞いてはいたが、ドン引きだな。もしかして、髪の毛の中に何か隠してないか探せ」


 髪の毛で武器を偽装する忍者の話があったな。


「ありました。髪の毛の色と同じ武器が」


 こいつらを生かして連れて行くのはどうなんだろうか。

 だが、子供は殺したくない。

 偏った価値観だとは分かっているが、譲れない。

 人間なんて物はどっかで線引きしている物だ。

 子供は生かして、大人は殺す。

 嫌な線引きだ。


「さあ、引き上げよう」


 今夜だけで5人の子供が捕まって俺の元に連れてこられた。


「お前達を殺すつもりはない」

「俺は裏切り者にはならない。里の仇を討つんだ」

「やりたくはないが、うらむなよ。といっても無理か」

「何をするんだ。その魔法陣は何だ」


 俺は無言で魔力回路を作動させて、良心の呵責を覚える呪いを付加した。


「こんな、それをあっちにやってお願い」

「来るな」

「悪かった」

「来ないで」

「うわー」


 子供に呪いを掛けるなんて、嫌な仕事だ。


「さすが、オーダー様です。血も涙もない」

「悪い事をしなけりゃ良いんだ。ところで、防刃セットは役に立ったか」

「ええ、子供達に腹を刺されても何ともなかったですよ」

「それは何よりだ」


「この子供達はどうしましょう」

「そうだな。農村にでも連れていくか。子供のない夫婦なんてのもいるだろうから」


 子供の数は最終的には30人を超えた。

 だが、呪いを掛けられて改心しなかった子供は一人もいない。

 俺は子供を預ける為に農村を回る事にした。

 気体魔導士の伝手を使うとしようか。

 彼らが仲介すれば村人も安心して子供を引き取るに違いない。

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