第186話 おっさん、本拠地を強襲する

「やあ、こんにちは」

「こんにちは、行商の方かね」


 にこやかに挨拶をしている村人が暗殺団の一員とはとても思えない。

 みた感じ普通の村だ。

 だが、一つ違和感を感じた。

 働き盛りの男女がいない。

 居るのは老人と子供だけだ。


「ええ、村々を回っていて、気体魔導士会とは懇意にさせてもらってるよ」

「ほう、ゴブリンを率先して退治してくれるというあの」

「そうなんだ。縁があってね」


「売り物は何かな」

「陶器の食器を売って歩いている」

「ほほう、見せて貰っても」

「どうぞどうぞ」


 俺は魔力通販で買った100均のコーヒーカップを出した。

 これは本拠地を双眼鏡で遠くから偵察したしたところ、余りにも平和な村に見えたので、一計を案じたという訳だ。


「見事な品だ。だが、書いてある文字が読めない。ひょっとして異国の品かね」

「そうなんだ。大枚叩いて仕入れたのはいいけれど、人気がなくて売れ残ったんだよ。やっぱり読めない文字ってのがいけないのかな。異国情緒溢れる品だと思うんだが」

「うーん、わしなら気にしないが」

「そうかい。じゃどれも銀貨1枚だ。一つ買ってくれよ」

「いいだろう」


 老人は財布から銀貨一枚を取り出した。

 おかしい、いくら見事な品だからと言って村人が、銀貨1枚でコーヒーカップを買う訳はない。

 村の経済では銅貨が中心だ。

 銀貨をためらいもなく出すはずがない。


「ところで、この辺りには野営地がないもので、この村で野営したいのだが。歩き通しでくたくたなんだ。この村が見えた時、躍り上がって喜んだよ」

「そうさな。この近くには村がない。泊まっていきなされ」


「そうかいありがとよ。広場の片隅を貸してくれればいい。村から少し離れた所に野営道具を置いてある」

「また何でそんな事を」

「ポツンと離れた村が実は盗賊村だったなんて話があるので、用心の為さ」

「その疑いは解けたのかい」


「ああ、盗賊村には子供がいない。若い大人ばかりだ。ここはその反対で安心さ。若い者は出稼ぎに出ているんだろう」

「そうだな若い衆は出稼ぎに出てる」


 俺が盗賊村と言った時に、老人の目に殺気が宿ったのを俺は見逃さなかった。

 やはり、ここが本拠地で間違いがないようだ。


「村長の家はどこかな。俺の食器は少し値が張るんで、村長に大量購入して貰いたい」

「それなら、あのオレンジの屋根の大きい家だ」

「ありがとよ」


 俺は村長宅を目指した。

 すれ違う子供の目に殺気が宿る。

 子供はまだ訓練が途中だから殺気を隠せないのだな。

 俺も殺気を隠すのは不得意だ。

 だから村に入ってから、妻達との逢瀬を思い浮かべていた。

 上手く隠せたと良いが。


「こんちは、村長に会いたい」

「ええ、奥にいますよ。あなたお客さんですよ」


 人の好さそうな老婆に案内されて家に入る。

 村長はこれまた人の好さそうな爺さんだった。


「食器を売って歩いているんだが、異国の品で値段が張る。村長さんなら買って貰えると思ったんだ」

「どれ見せて貰えるか」


 村長がコーヒーカップを見ている間に俺は何気ない風を装って切り出した。


「スキルオーブを集めているんだが、ないかな。村の宝とかでさ」

「ありませんな」


 スキルオーブと言った時に村長の目にやはり殺気がこもった。

 やはりな間違いない。


 先手必勝。

 おれはアイテムボックスからメイスを取り出すと村長の頭を殴り、背後の老婆を見ると。

 老婆は暗器を構えていた。

 やっぱりな。



 俺は鉄アレイで作ったボーラを取り出すとヌンチャクの要領で殴りに掛かった。

 暗器でロープを切断する老婆。


 そして突然、崩れ落ちる老婆。

 コーヒーカップを見せている時にこそっと『属性魔導アトリビュートマジック、炭よ空気中の酸素と結合して二酸化炭素になれ』と唱えて、二酸化炭素を充満させておいたのだ。

 その効果が今出たという訳だ。

 炭はどこにあったかだって、それはもちろん背負い袋に詰めてあったのだ。

 俺は空気タンクを魔導で作っておいてから、村長宅に入った。


 老婆に止めを刺し、家探しを始める。

 トラップがいくつも仕掛けられている隠し金庫を見つける。

 分解スキルを駆使して、中身を取り出す。

 依頼書の他にはスキルオーブが沢山と、暗殺団の団員の名簿があった。

 どの街のどこにいるかまで記されている。


 よし、脱出だ。

 俺は野営道具を取りに行くふりをして村を出た。

 しめしめ、誰も追いかけて来ない。

 名簿とスキルオーブはスキル原理主義者に進呈しよう。

 スクーターに乗りながら時間との勝負だなと思った。

 連絡が行く前に暗殺団を壊滅できれば俺の勝ちだ。

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