第187話 おっさん、暗殺団の粗方を片付ける

「この書類を見てくれ。色んな街に居るリウ暗殺団が丸わかりだ。隙を見て襲撃を掛けよう」

「救世主様、仰せのままに」

「要塞化している拠点は無理に襲う必要はないぞ」

「ええ、分かっております。我らもそれほど無謀ではございません」

「さあ、出撃だ」

「スキルのお導きを」


 俺はほとんどやる事もなく黙って見ている。

 というのも名簿にあったのは戦闘員だけではなく、後方支援がほとんどだからだ。

 この街の戦闘員は殺したばかりだから補充されてないのだ。


 アイテムボックスの中に死体が増えていく。

 後でダンジョンの中に捨ててこよう。

 アイテムボックスのスキルを持っている人は皆無みたいで、門のところでもチェックは受けない。


 意外な事にリウ暗殺団のメンバーは偽名では暮らしていなかった。

 隣の家の人などに聞くと名簿の人間の特徴なども教えてくれたので、逃げ出した奴や拠点にいなかった奴の特徴も分かった。


 スラムのスキル原理主義者のアジトで一息つく。


「他の街もあぶり出せるといいな」

「はい、やりますとも。顔さえ割れていればやりようはいくらでもあります」


「必要な物はあるか」

「斬撃のスキルオーブが欲しいですね」

「ダンジョンコアが沢山あればなぁ」

「生贄を奉げている研究所から取って来たのがあります」

「そうか。じゃやるか」


 スキルオーブを生み出す魔力回路を作動させる。

 奉げたダンジョンコアは1個なのに8個ものスキルオーブが生み出された。

 そうか、生み出されるスキルの希少性によっても左右されるのか。

 じゃあ、次元斬撃はダンジョンコア1個では足らないな。


 まあ、あれを作り出すつもりはないが。

 ダンジョンコアが沢山集まったら試して見るのも良いだろう。


「素晴らしいですね。同胞の戦力がぐっと上がります。まだまだ、ダンジョンコアはあります」

「お前ら、いくつ研究所を襲ったんだよ」

「ほんの五つです」


 32個のスキルオーブが追加で生み出された。


「よし、これで終わりだな」


 その時、入口で戦闘音がした。


「よくも、暗殺団をやってくれたな」


 振り返ってみるとあの拠点の村にいた老人達だった。


「みなさん、斬撃スキルの試し斬りです」


 それから、魔法やらスキルが飛び交う乱戦になった。


「お前だけは許さん」


 血走った目で老人が俺を睨む。


「先に襲われたのは俺なんだがな」


 返事の代わりに棒手裏剣が飛んできた。

 魔力壁に当たって落ちる。


「効かんか。ならばデス


 おい、即死スキルは反則だろう。

 あれっ、何ともないな。


「くっ、力及ばすか……」


 老人は突然、電池が切れたように死んだ。

 初めから使わないという事は欠陥のあるスキルなんだろうな。

 ちょっと欲しいと思ったのはここだけの秘密だ。


「耐クロロホルム準備!!」


 俺の掛け声でスキル原理主義者が腰に装着している酸素缶を手に取った。

 俺はクロロホルムをぶちまけ充満させた。


 ばたばたと倒れる老人達。

 スキル原理主義者達はすかさず止めを刺した。

 俺は魔導で空気を入れ替える。


 酸素缶は窒息攻撃に対抗する為に配布してあった。


「酸素缶でしたでしょうか。救世主様、これは良いですね。激しい戦闘をしたのにもう息が整っている」

「それが本来の使い方だからな」


 酸素缶の在庫はまだある。

 足りなくなったらダンジョンを攻略すればいいだけだ。


「本拠地の老人達が来るのが早いな」

「疲労回復スキルを使ったのではないでしょうか」

「走って来たのか。ご苦労な事だ」


「喜んで下さい。スキルを与えられた者は一人も欠けておりません」

「犬死にはするなよ。もったいないから。それに命は大事だ。死んだら元も子もない」


 不思議そうな表情で俺を見つめるスキル原理主義者。

 何か間違った事を言ったか。


「何だ」

「死ねばスキルの源に召されるというのはどうなんでしょうか」


 おう、死ねば天国に行けるとかいう宗教独特の考え方ね。

 これを否定するとやばそうだな。


「さあな。死んだことはないから分からん」

「分からないのですね」


「そうだ。分からないから、生きている時に力を尽くす。どっちに転んでも良いようにな」

「我々の教義では生きているうちにどれだけ徳を積んだかで、死んでからが違います」

「そう信じているのなら、それで良い。無駄に命を捨てるのでなければな」

「どちらにせよ。精一杯生きるのが正しい道なのですね」

「そうだな」


 ふぃー、なんとかなった。

 宗教の問題にはタッチしたくない。


 ところで、この街の暗殺団は粗方片付いたはず。

 これから枕を高くして眠れるというものだ。

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