第143話 おっさん、仇討ちを終える
来た来た来たぜ。
遺跡の窓から外を見ると護衛の一団を引き連れたダガードの野郎が見える。
やっとか。
短い様で長かった。
遂にこの旅も終わりか。
さて、ここでしくじったら、目も当たられない
その時を今か今かと待つ。
遠くでエレベーターが到着した合図の音がする。
足音が段々と近づいて来て、遂に俺達の居る部屋に入った。
「ブライム、どこだ」
「ここだ」
俺はパーテーション越しに声を掛けた。
パーテーションの設置は手間だったが、近づくまで警戒させない為の策だ。
「なんの冗談だ」
「壁があれば互いに攻撃できない」
「知恵が回るな。お前らしくないぞ」
「世間の風に当たって学習しただけさ」
「そういう事もあるか」
「顔を合わせずに取引と行こう。金貨の袋を床に置け。そうしたらパスワードを教えてやる」
金属のこすれる音がして、袋が置かれたのが分かった。
今だ。
「
俺はパテーションを分解した。
壁があると安心しきったダガードが見える。
ダガードの顔は事態を悟ると驚愕に縁どられた。
「お前はムニ。死んだはずじゃ」
「死ぬのはお前だ、ダガード」
その時通風孔の覆いが外れ、蝙蝠のモンスターがなだれ込んで来た。
俺の注意が逸れた一瞬、ダガードは背中を向けて走り出す。
「私も居るのよ。死になさい、ダガード」
パティがクロスボウを撃つ、矢はダガードの背中に当たった。
ダガードの動きが一瞬止まる。
護衛達が異変を察して部屋に入って来た。
くそう、このままだと逃げられる。
だが、俺には魔力通販がある。
こんな事もあろうかとラジコンと手榴弾でトラップを作っておいた。
手榴弾はヴィスが使っていた物を取って置いた。
俺がラジコンのスイッチを入れるとサーボモーターが作動して手榴弾のピンが抜かれた。
部屋の出口に差し掛かったダガードが振り返り、勝ち誇った顔をした。
俺の表情を見て不信に思ったのだろう。
ダガードはトラップが作動した音を聞いて地に伏した。
手榴弾が炸裂して部屋の出入り口が滅茶苦茶に壊れる。
パティを見ると蝙蝠のモンスター達にクロスボウを撃ちまくっていた。
クロスボウを沢山用意しておいて良かったな。
ダガードの護衛は手榴弾を食らって負傷して呻いている。
「ダガード、手間を掛けさせるなよ」
「俺が悪かった。頼む、殺さないでくれ」
俺は地に伏したダガードの髪の毛を掴むと体を起こした。
「ちょっと待って。子息を殺した理由を聞きたいわ」
「お前はパトリシア。そうか、そういう事か。俺が奴を殺したのは馬鹿にされたからだ」
「酔った上での喧嘩か。ありがちな理由だな」
「もう良いわ。聞きたい事は聞いたわ」
メイスを握り、頭に向かって一発。
事は終わった。
護衛達に止めを刺して、一息つく。
ああ、終わったな。
「早く逃げましょ」
「そうだな。行くか」
ビッグスクーターを夕日に向かって走らせる。
「これからどうするんだ」
「ダガードを始末した事を報告したらお役御免ね。その後はまたどこかの貴族の護衛かしら」
俺の所で働かないかと尋ねそうになった。
でも辞めた。
ダガードの両親は俺が殺した事を突き止めるとも限らない。
なぜなら、ダガードを殺す動機があるのは子息の関係者か俺だからだ。
パティが傍にいるととばっちりを受けるかも知れない。
子息の方だと思ったら貴族同士の争いになるのだろう。
その場合はパティに害が及ぶ確率は低いと思われる。
命令したのは子息の家族だからだ。
野営地に着くと乗り合い馬車が居て、乗客がテントを張り焚火の用意をしてた。
俺達も焚火にあたる。
パチパチと薪がはぜる。
焚火の灯りが二人の顔を照らす。
「ここでお別れね」
「さっさと行けよ。別れが辛くなる」
「変な気分。恋人との別れとも違うし。家族との別れとも違う。戦友との別れが近いかしら」
「そうだな。俺達は戦友だ。一緒に戦った仲間だ。じゃあな、達者でな」
「ええ、あなたもね」
「もしもの時はギルドに俺宛ての伝言を寄越せ。どこにいても駆けつける」
「頼りにさせてもらうわ」
俺は涙をこらえて夜の街道をビッグスクーターで走らせる。
空には丸い月が浮かんでいた。
なぜか俺はアルマ達が無性に恋しくなった。
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