第142話 おっさん、策を練る

 フェビル子爵領の領都に着いた。

 街に入ると俺達はお面屋に化けた。

 これならどこに居ても問題ないからな。

 二人してお面を被って子爵邸が見える位置に店を広げた。


 粘る事数時間。

 遂にダガードが護衛を連れて現れた。

 ここで暴れて殺すのは訳ない。

 しかし、そうなったらパティは完全にお尋ね者だ。

 殺し屋を差し向けられるかも知れない。

 俺もこの世界に来た時に追われる身になるのは真っ平ごめんだ。


 ダガード達が歩き始めたので、店を畳み関係ない振りを装って後をつけた。

 しばらく歩いてダガード達は酒場に入っていった。


 酒場の前で店を広げる。


「中々出てこないな」

「きっと飲んだくれているのでしょうね」

「酒を買うふりをして少し様子を見てくる」

「気をつけてね」


 酒場に入るとダガードは女の子を侍らして酒を飲んでいた。

 護衛は立って油断なく辺りを見回している。

 覆面して襲う事も考えたが、街から出る前に門を封鎖されると厄介だ。

 分解スキルで城壁を分解して脱出するのは最後の手段だな。


 俺はカウンターでバーテンに話し掛けた。


「エールを水筒に入れてくれ」

「あいよ」


 狙うのは街の外に出た時だ。

 護衛は可哀そうだが皆殺しにしたい。

 目撃者なし。

 そういう機会を演出しないとな。


 俺は水筒を受け取って酒場を出た。

 ゴザの上にどっかり座り、お面をずらしてエールで口を湿らせた。


「ここでは人が多すぎる。何か考えないと」

「理想は一人きりになった瞬間を狙いたいわね」

「あの護衛ではまず無理だな」


「酒場の雰囲気はどうだった」

「女の子を侍らしていたな」

「じゃあ、その女の子を買収すれば」

「女の子の名前で呼び出して殺せば、女の子が疑われる。そこから足がつくのは考えられる」

「うーん、中々に難題ね」


「力技でやるなら、どうにでもなるんだけどな」

「目撃者が出ると足がつくわね」

「そうだよな。ここが考えどころだ」


 ダガードは馬に目が無かったな。

 名馬を仕入れて来て。

 いや駄目だ。

 時間が掛かり過ぎる。

 おや、酒場を出て来たぞ。


 跡をつけるとまっすぐ邸宅に帰っていった。

 うん、隙がないな。


 ちらりと毒殺という言葉が頭をよぎった。

 毒殺は誰かを買収しないとな。

 金はあるので買収はできるが、たぶん足がつくだろう。

 口封じに殺す非情さがあれば良いが、修羅になったらいかんという組長の顔が浮かんだ。


 そうだ、迷惑が掛からない人間なら良いだろう。

 死人だ。

 死人の名前を使おう。

 ブライムに生き返ってもらおう。

 さて、口実はどうするかな。


 こんなのはどうだ。

 金属板をブライムが見た事にして、それをある部族に相談。

 言い伝えをヒントにブライムは謎を解いた事にして、答えを買って欲しいと持ち掛ける。


 説得力が要るな。

 俺は近場の遺跡のエレベーターを動かそうと考えた。

 それを動かして証拠にすればおびき出せるかも。


「パティ、考えがまとまった」


 俺はパティに計画を打ち明けた。


「いいアイデアね。きっと上手く行くわ」


 よし、やってみよう。


「この遺跡でいいだろう」

「中にモンスターが巣くっているけど良いの」

「ああ、問題ない」


 蝙蝠のモンスターがいたのでメイスで叩いて退治した。

 エレベーターのゴンドラの位置を確認して中に乗り込んだ。

 通話ボタンを押して俺は話し掛ける。


「ロック解除」

「管理者パスワードをどうぞ」

「2645751311」

「ロック解除します」


 よし、次はブライムの名前で手紙を出そう。

 文面は『ちらりと見た金属板の事が頭を離れなくて俺なりに考えてみた。ある部族の人間に相談した所、言い伝えがあると言った。その言い伝えをヒントに俺は謎を解いた。この答えを買って欲しい。謎を解いた証拠に遺跡の昇降機を使えるようにした。その遺跡で三日後の13日に取引だ。金貨1000枚を用意しろ。護衛を連れて来ればこの話は無かった事にする』こうだな。


 手紙に遺跡の地図を同封して、子爵邸の門の所に夜間になって置いた。

 手紙を信じれば一人で取引に現れるはず。

 信じるかな。

 信じなければ別の手を考えるまでだ。

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