第102話 おっさん、分解スキルを得る

 朝になり快適な目覚めをした。

 俺はこの職人を親方と呼ぶ事にした。


 この世界、どうやって直径を計っているのかと言うと定規を当てて計っている。

 原始的な事だ。

 ノギスはオーバーテクノロジーなのか。

 よく時計が作れるな。

 まあ、江戸時代にも時計があったのだから、作れるか。

 それに、この職人には金がないのだろう。

 工房には碌な工具がない。

 ドライバーがいくつかと、ペンチの類がいくつかと、やすり。

 それに、金槌などの大工道具。

 よくやっていけるものだ。


 だが、観察していて理由が分かった。

 親方が鉄の棒から、スキルを使いネジを作った。

 スキルがあると科学文明は発展しないよな。

 親方は分解と組み立ては凄いが、スキルの腕はあまり良くない。

 精密ドライバーを使うようなネジを作ろうとして何度も失敗していた。

 細かい物をスキルで作るのが苦手なんだな。

 露店で分解修理をやるのも頷ける。


 工房の中であまり大きくない魔石を見つけたので、小さいネジはホームセンターで売っている物と同じになった。

 日本のネジは安いもんな。

 千円を超えるものはほぼない。


 ネジが日本のだとネジ穴に上手くはまらない。

 そこで、親方はスキルを使いネジ穴を変形させて、無理やりネジに合わせていた。

 変形スキル便利だな。

 俺も欲しくなった。


 親方の下で部品を提供する事一年。

 俺は言葉を覚えた。

 日常会話なら問題ない。


「しかし、おめぇ。初めて会った時は驚いたぜ。遺跡の幽霊かと思っちまった」

「足もあるのにか」

「幽霊に足がないってどこの言葉だ」

「ニホンって所だよ」

「まあいいや。今日も分解と組み立てを頼むぜ、相棒」

「がってんだ、親方」


 現在、俺は親方の助手になってた。

 親方は相棒なんて呼ぶが、まだ修理は出来ない。

 出来るのは分解と組み立てだ。


 それと、この世界の文明度だが、江戸時代という事が判明した。

 来た時に街で出会ったバイク、ミシン、懐中時計は発掘品だ。

 今の時代に生きている職人が作ったものではないらしい。

 想像するに一度文明が崩壊している。

 地球もスタンピードが抑えられなかったら、こんな感じになっていたかもしれない。


 ドアのベルがチリンと鳴る。


「いらっしゃい」


 入って来たのは鎧を着けた男性だった。

 肩に自動小銃をかけている。

 これも発掘品だ。


「頼んでた。弾薬は出来ているかい」

「ええ」


 俺は奥の貴重品保管箱から弾薬を取り出した。


「前のはジャムっちまったけど、今回は大丈夫だろうな」

「何分、スキルで作ってるんで」

「しょうがねぇか。古代人はどうやって作ってたんだろうね」


 たぶん、工作機械だよ。

 俺は心の中で答えた。

 客から金を受け取り、俺は自分の仕事に戻った。


 俺の仕事を紹介しよう。

 ネジ回し片手に分解しないんだなこれが。


分解ディサセムブル。ほいよ、一丁上がり」


 俺が新たに覚えたスキル分解。

 文字通り分解するスキルで、制約は持っている道具に左右されるって事だ。

 ネジ回しを持っていればネジを回せる。

 ペンチを持っていれば多少強引にカバーなんかが外せる。

 手でやるのをスキルが代わりにやってくれるという訳だ。


 これを覚えたのは理由がある。

 魔力通販で部品を出すだけだと暇でしょうがない。

 暇だが言葉は片言しか通じない。

 となるとガラクタを分解するしかないって訳だ。

 一年で何十万と分解してスキルに目覚めた。


 部品を親方に渡すと、親方が修理。

 俺が元通りに組み立て。

 組み立ての時はスキルが使えないが、手順は頭に入っているから、順番はほとんど間違えない。

 分解の時に手順をイメージしないと出来ないからだ。

 まあ、当たり前か。

 スキルを使うのは俺だからな。

 だから、組み立ての手順も分かる。


 おや、また客だ。


「いらっしゃい」

「これなんだがよ」


 目の前にどすんと置かれたのは手提げ金庫だ。

 まあ、ありふれた発掘品だ。


「壊さずに開けるんだよな」

「もちろん」


 俺は針金を手に持ってイメージする。


分解ディサセムブル。はい、開いたよ」

「おお、サンキュ。お宝は古銭かよ。親方に合鍵を作ってもらい金庫を売っぱらっても、今回の遠征はとんとんだな」

「オケラでなかっただけましだと思うぞ」


「ところで例の件、考えてくれたか」

「遺跡に一緒に行って分解作業ねぇ」

「そうすりゃこの手提げ金庫も重たい思いしなくて済んだんだ。それによ、でかい金庫なんかだと運べない」

「でかいの開けるのは流石に無理だと思うぞ」

「そういう判断が俺達には出来ない。無理か、そうでないか分からないと、もやもやするんだよ」

「分かるけどな。お宝があるのに手に入れられるのか無理なのか知りたいって事だろ。よし、まずはお試しだな」


 帰る事を諦めた訳じゃない。

 そろそろ、なんか動き出さないと。

 そう思ってこの仕事を受けた。


「親方、お世話になりました」

「達者でな。無理をするなよ」

「ちょくちょく顔を見せにきます」


 親方との別れも済み、準備は整った。

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