第3章 分解スキルでざまぁ編

第101話 おっさん、親切にされる

 新たな異世界はレンガづくりの家と石畳のヨーロッパの観光地にありがちな光景だった。


「ノラミミニソクニテチ」

「モニカイモニカイ。チミララカトナトチミ、クチシチノチシチツイ」


 参った。

 分かっていたが言葉が通じない。

 チンプンカンプンだ。


 大通りは露店が軒を連ねていた。

 色々とあるな。

 魔道具の類はどうなっているだろう。

 発展していないと良いんだが。

 発展していなけりゃ大儲けできる。


 どうやらここは機械がある世界らしい。

 置時計などを売っている露店もあった。

 魔道具の類はないな。

 魔道具を作ると目立つ事になる。

 作るのは流石に難しいか。


 大通りを歩いて行くと広場になっていて噴水があった。

 仕方ない。

 今日は魔力もないし、噴水で水飲んで寝るか。

 飲んでもお腹壊さないよな。

 でも、飲まないという選択肢はない。

 俺は手で水をすくい喉を潤した。


 今は一口だけにしておこう。

 二時間たって、体に異常がなかったら、腹一杯飲もう。


 行きかう人が俺を見て目を背ける。

 まあ、裸みたいな物だしな。

 衣服を観察する。

 布が機械で織ったように見える事から、日本だと明治時代ぐらいの文明度なのかも知れない。

 ファスナーが存在しない事から昭和まではいってないな。

 靴底は皮もあったが、ゴムと思われる物もあった。

 馬車の類も見た。

 一度きりの出来事だが、驚いた事にバイクが走ってた。

 なるほどね。

 そういう文明度か。


 よし、腹一杯飲んで寝るぞ。

 そして、俺は安全な寝床を探して路地裏をうろついた。

 馬小屋で寝かせてもらおうかと思ったが、追い払われた。

 家畜は一財産なのだろう。

 怪しい者は近づけさせないか。


 糞尿の臭いがしない事から下水道はあると思われる。

 考察はもういいから早く寝床を確保しないと。

 それにしても綺麗な街だ。

 ボロ布でもないかと探したがない。

 こういう時は廃屋を探す。

 だが見当たらない。

 もういいや。

 行き止まりがあったらそこで寝よう。


 袋小路は逃げ場がないので嫌なんだが、何ももってない俺を襲う馬鹿な奴はいないと思いたい。

 石畳の冷たさが身に染みる。

 明日からどうしよう。

 明日使えるのは100円ぽっち。

 よく考えないと。


  ◆◆◆


 ふぁー良く寝た。

 さてとどこに行こう。

 残飯漁りは最後の手段だ。

 まずは情報収集だな。


 俺は露店を冷やかして回った。

 大抵はしっしと手で追い払われた。

 そりゃパンツいっちょうだからな。

 客には見えないし。


 ある露店の職人の技に俺は目を奪われた。

 置時計が持ち込まれ、瞬く間に解体。

 そして油を注され磨かれる。

 今度は印もつけてないのに間違える事無く組み立て。

 見事な物だ。


 動力が分からないミシンも持ち込まれた。

 電動ミシンに見えるんだが、不思議だな。


 そこへ懐中時計が持ち込まれた。

 職人は道具箱を漁ると困ったように頬をかいた。


 どうしたんだろ。

 手の平になじむような大きさのドライバーを出して懐中時計の裏ブタを睨んで動かない。

 ああ、もしかして小さいネジを外すためのドライバーがないのか。

 俺を追い払いもしない職人になぜか親近感を感じた。

 この人を助けてもいいよな。


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 ぽとりと落ちる100均の精密ドライバー。

 俺はそれを職人に差し出した。


 職人は頷いて受け取り、懐中時計をばらし始める。

 俺の考えていたのが、正解だった。

 空振りだったら、精密ドライバーを持ってわらしべ長者をしなきゃならないところだ。


 懐中時計の修理が終わると職人は露店を畳んで俺について来いと手招きした。


「お世話になります」

「シラナニカチトニモチトニカイ」


 意味は分からないが助かったよとでも言っているのだろう。

 俺は男についていって工房にお邪魔した。

 差し出される古着と引っ込められる精密ドライバー。

 ゼスチャーは精密ドライバーと交換だと言っている。

 俺は頷いた。

 衣服を身につけ人心地がついた俺は色々な道具を指さして名詞を覚え始めた。

 辺りはすっかり暗くなったが、職人は帰れとは言わない。

 パンとシチューをご馳走になった。

 空腹だったので物凄く美味い。


 魔力が回復していたので、職人に何か贈り物をしたくなった。


魔力通販メールオーダー


 ぽとりと落ちる100均のノギス。

 ノギスは物を計る時に便利な道具だ。

 円柱の直系を計るにはこれがないと。


 差し出されたノギスを見て、首をかしげる職人。

 俺はボルトを一つ手にとると実際に計ってみせた。


 職人は俺の肩をばんばん叩くと、ノギスを受け取った。

 嬉しがっているのだよな。

 布団を持ってくる職人。

 工房の床に布団を敷いてお世話になる事になった。

 寝床をゲットしたぜ。

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