第55話 おっさん、ゴミ捨て許可を取る

 朝になり、魔力が回復しているのを確認して、換金するための商材は何にしようか考えた。

 銅貨なんか十枚買ってもだめだ。

 百円の価値もない。


 魔石だな。

 銅貨十枚分の魔石を魔力通販で買う。


 人に尋ねてダンジョンの入り口を目指す。

 やっぱりあった魔石買取所。


「俺、ホームレスなんだが。魔石を拾ったんだ。換金してくれないか」


 そう言って魔石をカウンターの上に乗せた。


「クズ魔石ね。30円になるけど良い」

「ああ、問題ない」


 いや、問題大有りだ。

 こんなのじゃ一日暮らせない。

 危険だが、ポーターの仕事をやるか。


 ホームレスと思しき人がリヤカーを引いてダンジョンの入り口に来た。

 積んでいた粗大ゴミをダンジョンの中に運び始める。


 あー、ゴミ処理か。

 でも、異世界ではタブーだったんだよな。

 ゴミをダンジョンに捨てるとモンスターが強化されるらしい。

 その事実を知らないだけか。

 それとも法則が違うのかな。


「あの、ゴミをダンジョンに捨てているよな。問題ないのか」


 俺はそうホームレスに言った。


「ダンジョンにゴミを捨てるとモンスターのリポップが早まると言ってたな」

「そうか、ありがと。ついでに、教えて貰いたい。ゴミを捨てる仕事は誰にでも出来るのか」

「ああ、届けを市役所に出せばな。ただし捨てる部屋を確保するにはモンスターとやりあわないとな」

「命がけって訳か」


 そうだよな。

 通路にゴミを放置したら邪魔だものな。

 必然的に部屋のモンスターを退治してそこにゴミを捨てるとなる。


 ちくしょう。

 俺には無理だ。


 10円玉3枚を握り締め電話ボックスに入る。

 電話ボックスは利用者がほとんどいないらしく、ガムやタバコの焦げ跡が目立った。


 記憶をフル回転させて転移前の友達の電話番号を思い出す。


「駄目か。そりゃ何年もたっていれば電話番号も変わるよな」


 そして、やっとの思いで繋がったと思ったら切られた。

 いたずら電話だと思われたのかもしれない。

 今日はもう辞めよう。


 残金20円じゃ、どうにもならない。

 市役所に行くことにした。


 ええとダンジョン課。

 あったここだ。

 カウンター越しに受け付けの人に声を掛ける。


「ダンジョンでごみ捨てをしたい」

「ごみ捨て許可証ですね。この紙に記入して提出して下さい」


 俺は記入台で用紙を埋めた。

 ちらりと他の申請書類を見る。

 ポーター許可証なんてのがある。

 どれどれ。

 あちゃー、現住所の記載が必要だ。

 これは無理だな。


 それに講習を受ける必要がある。

 当然お金が掛かる。

 とりあえずはごみ捨て許可証だ。


「書けたよ」

「番号札を取って窓口の三番で呼ばれたら手続きをして下さい」


 俺は言われた通りに窓口の前のベンチに腰をかける。


「32番の方」

「はい」


 窓口に行く。


「じっとして」


 カメラで撮影された。

 そして手の指紋と静脈と目の網膜の記録を取られた。

 ついでにDNAもだ。


 犯罪者になった気分だ。

 これでGPS発信機をつけられたら政府の陰謀を疑う所だ。


「終わりました」


 差し出された許可証を手に取る。

 免許大のそれには端子がプリントされていて、そこから情報を読み取るようになっている。

 多分ダンジョンの入出の記録を取るんだろう。


 帰りにパン屋に寄る。

 中年の女性が店番をしていた。


「パンの耳、下さい」

「本当は困るんだよね。パンの耳だけ買ってもらっても。何か事情がありそうだから、詮索はしないけど」

「明日はパンの耳以外の物も買います。仕事も出来ました」


 俺は許可証を見せた。


「あんた、ホームレスかい。それなら、暖かい家って言う支援団体があるから行ってみな」


 コピーした白黒のチラシを渡された。

 ホームレス支援と書いてある。

 仕事と住居を紹介しますとも。


「気が向いたら行ってみるよ」


  ◆◆◆


 公園で食事をする事にする。

 パンの耳をかじって、公園の水道の水を飲む。

 情けない。

 凹んでいても仕方ないので、俺は魔力壁の訓練を始めた。


 コツは覚えているので、習得は早いだろう。


 訓練していると、柴犬の雑種と思われる犬がこちらの様子を窺っていた。

 物欲しそうに俺の方向を見ている。

 パンの耳の匂いが俺についているのかな。

 明日の朝食の分なんだけどな。


収納箱アイテムボックス


 俺はパンの耳を三つ犬に向かって投げた。


 犬は喜び勇んでパンの耳を食べた。

 俺が犬を撫でようとして近づくと、犬は飛びのき全速力で逃げて行った。

 何か犬の気に障る事をしただろうか。

 食事中だったのがいけなかったのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る