第2章 異世界帰還でざまぁ編

第54話 おっさん、勘当される

 裸だと風が堪える。

 冬でなくて良かった。

 まずは状況確認だ。


 アイテムボックスの中味が空なのは分かっている。

 頼むぞ、魔力通販。


魔力通販メールオーダー


 何だと買える物のラインナップが飛ばされた異世界の物だ。

 うわ、詰んだ。

 ええと銅貨十枚の物しか買えないな。

 衣類で買える物はない。

 ちくしょう、現代の物が買えるのなら百円ショップのトランクスが買えたのに。


 しょうがない、葉っぱで我慢するか。

 ひらひらと落ちる3メートルぐらいの葉っぱ。

 身にまとうとなんとなく原始人になった気分だ。


「きゃ、変質者よ。変な格好をした変質者よ」

「いやあ、コスプレなんですよ。お構いなく」

「違うわ。隙間から見えてるじゃない。下着を着てないわ」


 まいったな。

 逃げようかとも思ったが、防犯カメラのある時代だ。

 顔写真がばら撒かれるのは避けたい。


 痴漢で訴えられるとはな。

 願いを言う時には慎重にだ。

 それとも悪魔との契約だったんだろうか。

 程なくして駐在のお巡りさんらしき人が自転車に乗って現れた。


 ついてないな。


  ◆◆◆


 向かい合うように灰色の机を挟んで駐在所の中で座る。


「名前は?」

山田やまだ無二むにです」

「何で全裸同然であの場所に立っていた?」

「それが、記憶が一切無くて」


「ほう惚けるか。現住所は?」

山岱やまたい県栃石市○○○○です」

 尋ねる警官に実家の住所を告げる。


 警官の尋問は続き年齢、電話番号、職業など色々聞かれ、答えた。

 年齢はもちろん異世界転移した時の年齢だ。

 別の警官が古着を持ってきて、俺は文明人になれた。


 半日程が過ぎ実家から、親父がやって来た。


「この馬鹿野郎、心配かけやがって今までどこにいた!?」

「それが記憶がなくて」

「お前は勘当だ。俺が良いと言うまで家の敷居はまたぐな」


 俺が何したって言うんだ。

 異世界に転移して死ぬような思いしてやっと帰って来たんだぞ。


「頼んだって帰らないぜ」


 親父は身元引受人の書類を書くと去って行った。

 魔力通販が銅貨十枚までじゃあ、先行きは暗いな。


 俺は懲役刑を食らった人の話を思い出した。

 世間についていくのに時間が掛かると言っていたな。

 何がなくとも情報だ。


  ◆◆◆


 俺は図書館にお邪魔した。


「なにっ!?」

「ご利用はお静かにお願いします」

「すいません」


 新聞を見て驚いた。

 ダンジョンの情報が載っているじゃないか。


「ええと、ダンジョン関連の書籍を。入門書みたいな物を頼む」


 俺は司書らしき人に話しかけた。


「それでしたら、ダンジョンの誕生、ダンジョンの仕組みがお薦めです」

「ありがと」


 ええと四年前にダンジョンが生まれる。

 原因は不明。

 モンスターが地上でも生まれる。

 ただし、モンスターは野生動物が変異したものと思われるか。

 都市部にはモンスターは少ない。

 なるほどな。


 俺が転移してから、この世界にもダンジョンが現れるようになったのか。

 それともパラレルワールドか。

 なんにせよ生き延びなきゃならん。


 ダンジョンの仕組みは異世界と同じだ。

 作った者は同一存在なのだろう。


 日本に出るモンスターはネズミ、犬、猫、イノシシ、サル、鹿、馬、豚、牛、鳥、熊、タヌキ、キツネ、昆虫、植物と代表的なのはこんなところだな。


 海外だとワニなんかも出るらしい。

 ドラゴンはいないみたいだ。

 トカゲや蛇はいるな。

 カエルもいる。

 日本に住んでいた動植物が元になっているみたいだ。


 夢のない事だ。

 モンスターの表記が漢字なのはなんとなく日本らしくていい。

 炎を吐くトカゲは火炎蜥蜴か。

 サラマンダーとか言われても一般人にはピンとこないのだろうな。

 ファンタジーに染まったオタクだけではないからな。


 ギルドカードみたいな物があるらしい。

 探索免許証という名前だ。

 試験を受けて合格しないともらえない。

 なんと冒険者は銃火器の使用が認められている。

 それは法令を厳しくしないと運用できないだろうな。


 免許を取るのに近道は教習所に通う事らしい。

 金がいる。

 やはり、何をするにも金か。

 生活基盤をどうにかしないとな。


 ダンジョン関連の書籍を読み漁ってから、図書館を後にした。


 俺は今、全てがゼロの状況だ。

 寝泊りするホテル代なんか、望むべくもない。

 換金できる物は無い。

 俺は公園に足を向けた。

 しょうがない公園のベンチで寝るか。

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