第56話 おっさん、ゴミ捨て業を開始する
次の日の朝。
「
何かモンスターを退治するいい手はないかな。
そうだ臭いだ。
昨日犬は臭いで寄って来た。
逆に忌避する臭いがあるはず。
確か、モンスター避けの香があったはずだ。
これだ。
魔力80で一回分。
これでゴミ捨ての仕事が出来るかも知れない。
◆◆◆
ホームレスの同業に聞いてゴミの集積場に向う。
ゴミの集積場はトタンの塀で囲まれて異様な臭いが立ち込めていた。
ゴミの小山が幾つも出来ていた。
それと中央にある小さい焼却炉を見て、ここが胡散臭い処理場じゃないかとの疑念を持たせる。
アイテムボックスを使っていいんだろうか。
図書館の情報ではスキルが発現した者はいるし、スキルオーブの存在も確認されている。
ええいままよ。
「ひと山いくらですか」
「初めてかい。ひと山100円だよ」
「じゃ、10」
「何いっているんだ。手ぶらじゃないか」
「
ゴミをアイテムボックスに収納する。
「たまげたね。ホームレスでアイテムボックス持ちは初めてだ。ほいよ1000円だ」
ホームレスの羨望と嫉妬が混じった眼差しを受けて、俺は足早にその場を後にした。
この仕事は駄目な気がする。
だが現状で出来る仕事はない。
一攫千金なら心当たりがないまでもない。
だが、それは最終手段だ。
ダンジョンの受付で規定の金額を払う。
と言っても50円だが。
安いがこんな物だろう。
ゴミ捨てだからな。
俺が前に住んでいた所はゴミ袋10枚が50円だった。
それがゴミ処理の値段だった。
もちろん、地方自治体からも補助が出ているに違いない。
ダンジョンも地方自治体から補助が出ているはずだ。
俺はダンジョンに入るとモンスター避けの香を体に振り掛けた。
異世界ではありふれた品だ。
低レベルのモンスターが逃げて行く効果がある。
そして、ゴミの中から鉄パイプを取り出すと装備した。
メイスの代わりだ。
通路は他の人が討伐しているらしく、モンスターの影はない。
俺は適当な部屋に入った。
中には山猫ほどの大きさのモンスターがいる。
大猫というモンスターだろう。
たしか攻撃は物理のみだったと思う。
鉄パイプを握る手が汗で濡れる。
俺は香の効果を信じて部屋の中央に進んだ。
モンスターを俺を見てうろうろし始めた。
襲い掛かりたいが我慢している感じだ。
お香の臭いが薄れたら、との思いが頭をよぎる。
「
ゴミをアイテムボックスから放出。
俺は逃げるように現場を立ち去った。
◆◆◆
あの、パン屋に寄った。
「約束通り買いにきました」
「無理はしないでよ。うちの店の商品を買うために死んだなんて聞いたら、寝覚めが悪いから」
「ええ」
サンドイッチをチョイス。
久しぶりのまともな食事だ。
このサンドイッチの味は忘れないだろう。
もちろんパンの耳を買うのも忘れない。
いざという時のためアイテムボックスに蓄えておくのだ。
公園に戻る。
やはりあの雑種の犬がいた。
パンの耳をいくつか投げてやる。
俺が近づく素振りを見せると後退する。
きっと虐待された犬なんだろう。
人間への不信感で一杯なのだな。
無理はすまい。
「あー、わんちゃんだ」
小学生ぐらいの子供が犬に寄ってきた。
虐待された犬は噛みつく事もあるから、危険だと言おうとした。
子供は犬を既に撫でくりまわしていた。
あれ、虐待された犬ではないのか。
「その犬を世話しているのか」
「ううん、初めて会った」
異世界の匂いが染みついているのか。
いや、ゴミを捨てる時に使った香の臭いが残っているんだ。
あー、風呂に入りたい。
銭湯に毎日は無理だな。
一瞬ゴミをもっとダンジョンに運べばと思ったが、ホームレスにも生活がある。
俺が根こそぎ仕事を奪ってもいいとは思えない。
俺は速攻で銭湯に行き一風呂浴びた。
公園に帰ると犬はまだ俺を許してはくれなかった。
服だな。
服に臭いが染みついているのだな。
明日は安い衣類を手に入れて洗濯しよう。
着替えても洗濯しても犬は俺を許してはくれなかった。
何故だ。
異世界帰りの臭いがあるとでもいうのか。
そういえばあの犬は首輪をしていない。
人に飼われた事がないのか。
でも野犬は気が荒いともどこかで聞いた。
俺の投げたエサは疑いもせずに食っていたし。
謎だ。
そんな生活を1ヶ月続け。
そろそろホームレス卒業かなと思った
まだ犬と和解は出来ていない。
エサは食ってくれるのだが、距離感が縮まらない。
そうか、名前を付けてなかった。
「ポチ」
そう犬を呼んだが反応はない。
そして、考え付く限りの名前をつけたが駄目だった。
気が合わないと思う事にした。
人間にも馬が合わない者はいる。
動物だって同じさ。
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