こんな安宿でも団体客が入ることがあるらしい。そのあおりを受け、四人は普段スナックとして使われている部屋で夕食をとっている。

 部屋は照明が明るいせいか間が抜けているように思えた。

「どうしてお酒飲まないの」

「風呂上がりに飲みたいし」

「また入るの」

「何回でも」

 彼女はあきれた顔をして彼を見ている。

「飲みたいなら飲んでもいいんだよ」

 男はあたりを見渡してこの部屋に酒が用意されていないことに気づく。

「お酒は良いからと言われましたので」

 お茶を運んできた仲居がそそくさと後ずさりをして部屋を出ていく。

「誰がそんなこと言ったのかしらね」女が冷めた口調で言った。

 男は鋭い目で女を睨み、二人は顔を見合わせる。

「熱いお茶が出てきてしまったら仕方ありませんね」

 彼はそう言うと少しうれしそうな顔で熱いお茶をすする。

 そこに女将が入ってきて深々と頭を下げた。

 どうやらこの部屋は元のスナックに戻り、団体客の二次会の場所になるらしい。

「その代わり、十分にサービスをさせていただきます」

 女将の上辺だけの言葉に四人はしかたなく部屋を出ていく。四人が部屋に帰るとテーブルの上に温泉まんじゅうが置いてあった。

「布団はいつ敷いてくれるのかしら」

 女は不機嫌そうにまんじゅうを口に入れる。


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