第5話
機を織っているのは、髪の長いほっそりとした女の人でした。長い髪を後ろで束ねて、ちょっと小首をかしげるようにして、一心に機を織っています。じゃまをするのはためらわれたのですが、とにかく他に聞く人もいません。僕はおずおずと言いました。
「あの、すみません。」
彼女は、ビクッとして、とてもおどろいたように僕を見上げました。
「あの、おどろかすつもりはなかったんですけれど・・・」
彼女は、しどろもどろに弁解する僕をさえぎると言いました。
「あなたはどこから来たのですか。ここは、あなたのような人間の来る場所ではないのですよ。」
その口調があまり厳しいので、僕はおどろきました。
「いや、その、気が付いたらここにいたんです。それにしても、いったいここはどこなんですか。なんでこんなに何もかも凍りついたようにさびしいんですか。」
彼女はしばらく僕をじっとみつめていましたが、不意にうなずくと、肩に羽織っていた薄いケープを僕にさしだしました。
「わかりました。これを羽織ってごらんなさい。」
僕はそのとおりにしてみました。
するとどうでしょう。あたりの景色が一変したではありませんか。まわりは一面のお花畑です。明るい空の下には、蝶や小鳥が飛びかっていて、あの森でさえ初夏の清々しい緑に変わっているのです。僕はぼうぜんとしてしばらくその景色にみとれていました。それからハッと気が付いて、そのケープをとってみたのです。すると、またあたりは荒涼とした冬の景色にもどってしまいました。あわててもう一回ケープを羽織って、僕はふりかえりました。
その時、ふしぎなことに気が付きました。彼女だけはケープを羽織っても変わらないのです。相変わらず出会った時と同じ、髪の長い清楚な姿で、そして・・・」
Mは苦しそうに言い淀みました。
「そして、今までに会った誰よりも魅力的にみえたのです。単に外見じゃなく、彼女の内面のなにかが僕をひきつけてやまないようでした。
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