第4話
「あなたはさっき、絵の中の世界の方が現実にみえることがあると言いましたね。それが、あの絵で起こったんです。もう一ヶ月ぐらい前のことです。
何気なく行ったある展覧会で、僕はあの絵に出会いました。その絵に描かれた暗欝な風景と「夢繊り人の館」というタイトルが、あまりにそぐわないような気がして、つい、立ち止まってしまいました。みればみるほど異様な雰囲気がして、どうにも立ち去り難く、いつものように少しずつ後ろに下がりながら眺めだしました。
その時です。不意に目の前が暗くなったと思ったら、僕は見知らぬ森の中を歩いていました。それは、うす暗い凍りついたような森でした。木々の葉は黒々としていて、小鳥の声も聞こえなければ、風さえも吹きません。まるで全ての動きが止まってしまったかのような、おそろしいほどさびしい異様な世界でした。
僕は、登っていけばとにかくここがどこかわかるだろうと、木々の間を縫って歩き出しました。どれくらい歩いたでしょうか。ふと我に帰ると、どこか遠くの方で、かすかにカタン、カタンという音がしています。僕は夢中で、音のする方ヘ歩き出しました。
すると、不意に森が切れて、目の前に広いなだらかな草原がひらけていました。ずっと上の方に、大きな灰色の館がみえています。それにしても、なんというさびしい風景だったでしょう。空は一面灰色の厚い雲でおおわれて、冬枯れの草原には、なにひとつ動いているものはないようにみえました。
すると、その時です。また、カタン、カタンという音が聞こえてきました。音のする方をみると、丘の中腹で、誰かが機(はた)を織っているのが目に入りました。僕は夢中で走っていきました。
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