エピローグ-2 永遠の、その証明
俺は自分でもどこに行くかよくわからないまま、電車に飛び乗った。
そして知らないうちに自分には全く縁のない駅で降りていて、駅から降りても無意識のうちにどこかへ向かっていた。
頭は全く分かってないけど、なんとなく行くべき場所が分かっている気がした。初めて感じる感覚に戸惑いながらも、でも俺は足を止めることもなかった。
気が付くと俺は、またまた自分には縁がないキレイなタワーマンションの下にいた。そして無意識のまま指が部屋番号を押して、なんの疑いもなくインターフォンを鳴らした。
無意識のまま行動しているけど、もしかして俺の頭が本当におかしくなっているだけで、知らないおじさんが出てきたらどうしよう。
チャイムの音を聞いてようやく冷静になってソワソワしていると、インターフォンからは澄んだ声で「はい」という返事が聞こえた。
「香澄さん、ですか?」
声だけでは確証が持てなくて、恐る恐るそう聞いた。するとインターフォンの向こうからは「え、つむ君?」と戸惑う声が聞こえてきた。
「どうしたの?
なんで家、知ってるの?」
戸惑った声のまま、香澄さんが言った。
そりゃそうだ。大学時代の後輩が家に、しかも夜遅くに唐突に訪ねてきたら、そりゃ驚くし戸惑う。
でも今の状況を自分でも説明できない俺は、香澄さんより戸惑ったまま「えっと」と言ってどもってしまった。
「えっと、まあ、いいや。
とりあえず、入って。」
まだまだ戸惑っていたけど、香澄さんはオートロックのドアを開けてくれた。
もしかして俺って、香澄さんのストーカーか何かだったりして…。
自分の中にもう一人人格がいたとして、そいつがストーカーだったとして、色んな人に、自分は香澄さんと付き合っていると、言いふらしていたとしたら…。
そう考えてみたら最近のおかしな出来事全てに説明がつく気がして、エレベーターの中で一人ゾッとした。でもやっぱり俺の足は止まらなくて、始めてくるはずなのに香澄さんの部屋の方に迷いなく進んで、インターフォンを押した。
「久しぶりだね。
どうぞ。」
インターフォンをならすとすぐに、香澄さんが家から出てきた。5年ぶりに見るのに香澄さんはあの頃と全く変わりなくて、むしろ大人になって色気が増しているようにすら見えた。
「警戒心なさ過ぎだって、
前も言ったはずですよ。」
あ、あれ…?
前もこんなことを言った気がした俺の頭は、そう発言していた。
「そう、だった…の?」
すると香澄さんもすごく戸惑った様子でそう答えた。
「ごめんなさい、急に。」
その顔を見て冷静な頭に戻った俺は、冷静な気持ちで謝った。すると香澄さんは視線を下に落としたまま「ううん」と言った。
「えっと。あの。」
何と言っていいか全くわからなかった。
心は香澄さんに会わなければと思っているのに、それがなんでなのか、そしてなんで香澄さんの家まで知っているのかも、全く分からなかった。
「香澄さん、俺…。」
でも訪ねてきたくせにいつまでも黙っているのもおかしい。
とりあえず何か言わなくてはと、なんとか言葉を絞り出した。
「長い夢を、見てるみたいなんです。」
本当にまるで、長い夢を見ているかのようだと思った。
いつからか分からないけど、自分の記憶に蓋がされていて、その時のことが、自分の行動すら思い出せない。
「その夢に、
香澄さんが、出てくるんです。」
思い出せないことだらけで夢の内容は全然わからないのに、そこに香澄さんがいたことだけは、はっきりわかる。
「香澄さんと俺が、
デートをしたり飲みに行ったり…。
それに、エロイこともたくさんしてるんです。」
自分でも気持ち悪いと思う。
でもその夢の全ての感覚がリアルで、まるで現実かのようだ。
「気持ち悪いですよね、
ほんと、急に、ごめんなさい。」
香澄さんはその間も、ずっと視線を落としたままだった。
もし大学時代の知り合いたちに言いふらされたら、友達を全員失うかもしれない。それでも聞いてほしくて、言わずにはいられなかった。
「本当に、長い長い、夢だったんです。」
それは長い夢だった。
俺が女神みたいな香澄さんと、セックスまでしているはずがなかった。
俺みたいな中途半端なやつが、香澄さんとどうにかなれるはずなんてないのに。
「でも、なんでなんですかね。
俺今、
香澄さんに会えて、
涙が出るほど嬉しいんです。」
なんでなんだろう。何度考えてみても全く分からない。
やっぱり別人格がいるんだろうか。そいつはストーカーなんだろうか。
もうなんでもいい。
なんでもいいけど、香澄さんがここに立っていてくれて、生きていてくれて、
――――本当に、嬉しい。
俺の目からは言葉通り、涙が流れてきた。なぜかその涙を自分でも止めることが出来なくて、本当に頭がおかしくなったのかと思った。
「変、ですよね。
でも聞いてほしいんです。」
それでも聞いてほしかった。伝えたかった。伝えなきゃいけないと思った。
訳は全く分からないけど俺の口は、勝手に動き続けていた。
「香澄さん、
俺香澄さんのことが本当に好きみたいです。
香澄さんのこと、
俺が守りたいんです。」
香澄さんのことは大学時代から好きだった。
でもその好きはなんていうか、アイドルで言う推しみたいなもので、愛情というより憧れに近かった。
「信じてもらえないかもしれないけど、
信じてほしいんです。
信じられるまでそばにいてほしいんです。」
でも今俺の心の中にあるこの気持ちは、どう考えても愛情だった。
姿を見ただけで愛おしくてたまらない。すべての悲しみから、守ってあげたい。
何よりずっとそばで、笑っていてほしい。
「永遠に愛してますなんて、
俺には言えません。」
永遠がどのくらい長いものなのか、それとも短いものなのか。まだ27年しか生きていない俺にはよくわからない。
永遠にこの気持ちが続くかだって、俺自身にもよくわからない。
「でも、証明します。
証明させてください。
永遠に続く愛も、あるってことを。」
それでも俺は香澄さんに証明したい。
香澄さんが否定した"永遠に続く愛"が、この世に存在するって俺が信じさせたい。
訳が分からないうちにこんな一世一代の愛の告白をしている自分が、信じられないほど恥ずかしかった。でもそれでも、伝えられて良かったと、どこか思っている自分がいた。
香澄さんは俺の言葉を聞いている間も、相変わらず下を向いてこぶしを握っていた。気持ち悪すぎて殴られても仕方ないと覚悟を決めて、少しでもそれが緩和されるように「ごめんなさい」と謝った。
「すみません、ほんと。
俺、何言ってるんですかね。」
やっぱり変だ、おかしい。
太一の言う通り精神病院にでも行って話を聞いてもらおう。
「ほんと、すみません。
お邪魔、しました。」
そう思って潔く帰ろうと振り返ると、香澄さんが俺の腕をつかんで「つむ君」と言った。
「あのね。
私も、夢を見たの。」
腕をつかんだまま、それでも下を見つめて香澄さんは言った。その声は透き通りすぎていて、空気に消えてしまいそうだった。
「つむ君の、手料理を食べたの。
手料理って、
あんなにあったかいんだね。」
香澄さんはまるで現実の出来事みたいに、そう語った。俺の頭の中にはさっき食べた唐揚げが浮かんでいた。
「裸で抱き合うだけで、
あんなに幸せだって、知らなかったの。」
俺と香澄さんが、裸で抱き合っているはずがない。でも何となく胸のあたりがあたたかい感覚が、どこからかよみがえってきた。
「キスがあんなに気持ちいいんだって、
知らなかったの。」
香澄さんの唇は柔らかくてあたたかくて、触れているだけで幸せだった。
「なんでだろう、私。」
そう言って香澄さんは、ようやく顔をあげてくれた。両目からは大粒の涙がたくさんあふれ出していたけど、泣きながら香澄さんは幸せそうに笑っていた。
「知らないうちに、
つむ君にたくさん初めてを、
奪われてた気がする。」
流れ続ける香澄さんの涙を、俺は右手で救った。香澄さんの頬に触れるのは、これが初めてではない気がした。
「不思議だね。
何も分からないの。」
本当に、そうだ。
なにも、なんにも分からない。
夢を見たはずなのに、それは絶対夢なんかじゃなくて、俺はこんなにも香澄さんのことを、愛している。
「でも誰かにずっと会いたかったの。
会って言いたかったの。」
香澄さんは泣きながら俺の目をしっかりと見た。そして天使のような笑顔で、にっこりと笑った。
「どうしようもなく大好きだって、
伝えたかったの。」
俺は我慢が出来なくなって、思わず香澄さんを抱きしめた。すると香澄さんも俺の背中に腕をギュっと回してきて、俺たちは訳も分からないまま、お互い泣きながら抱き合った。
「ごめん、私が間違ってた。」
「違う、俺のせいだ。」
何の話かはよく分からない。
でも俺は選択を間違えた気がする。
「離しちゃいけなかったんだ。
どんな理由があっても。」
どんなことがあっても、好きな人の手を、離してはいけなかったんだ。
「違うよ、私のせいだよ。
私が突き放したの。
つむ君が、離れたんじゃない。」
「そうじゃない、俺がっ」
「違う、私がっ。」
俺たちは同時に、吹きだすように笑った。そしてそれを合図にゆっくりと体を離して、俺は腰を下ろして香澄さんの目をしっかりと見た。
「香澄さん。」
「うん。」
「俺と、一生一緒にいてほしい。」
5年ぶりに会って、俺の口は勝手に香澄さんにプロポーズをしていた。でもこれが間違っていないって、誰かがずっと俺に言っていた。
「これからも私の初めて、
たくさんもらって、くれる?」
香澄さんも俺の目をしっかりと見つめて、泣きながら笑って言った。可愛すぎてどうにかなりそうだと思いながら、俺は香澄さんの唇に、そっと自分の唇を重ねた。
「な、なんでだろう。」
「初めてな、気がしない。」
唇を離して、俺たちは同時にそう言って笑った。香澄さんが笑うだけで飛び跳ねたいくらい嬉しくなって、俺はまた思わず香澄さんを抱きしめた。
「そんな顔して笑わないで。
地球が滅亡するから。」
「何それ。しないよ滅亡なんて。」
こんな会話も、ずっと前した気がする。
もしかして前世の記憶だったりするんだろうか。
だとしたらまた香澄さんと出会える今を作ってくれた前世の俺に、心から感謝したい。
「香澄さん、行こう。」
「どこに?」
それと俺にはもう一つ、しなくてはいけないことがある気がした。なんでそうしなくてはいけないかはやっぱり全然分からないけど、俺は香澄さんを連れて、とりあえずマンションの外に出た。
「香澄さんのお父さん、
どこにいる。」
「え?!」
なんとなく、香澄さんのお父さんに会わなければいけない気がした。その何となくに従ってそう言うと、香澄さんも拒否することなく「会社にいると思う」と答えた。
「行くよ。」
なんでかも分かってないくせに、俺はそのまま香澄さんをタクシーに乗せた。香澄さんもキョトンとしたままタクシーの運転手に行き先を伝えて、俺たちは二人とも放心状態でタクシーに乗っていた。
「よし。」
香澄さんのお父さんの会社は、俺の家のすぐそばにあった。何も知らないはずなのに俺は香澄さんのお父さんがそのビルに入っている会社の社長だという事をなぜか知っていて、そして俺たちが着くと同時くらいに、そのビルからは男の人が一人出てくるのが見えた。
「あれ、お父さん。」
香澄さんは小さい声で言った。
それを聞いた俺は、迷いなく香澄さんの手を握って、その男の人の方へ近づいて行った。
「あの、こんばんは。」
話しかける時も、全く迷いがなかった。俺は平凡な一社会人だったはずなのに、どう考えても社会人にはふさわしくない行動を起こしていた。
「香澄…?」
その男の人はいきなり話しかけてきた不審な男の後ろにいる、娘の姿を見つめた。俺はその間を割るようにして立ちなおして、「夜分にすみません」と一言言った。
「佐々木侑と申します。
香澄さんと、
お付き合いさせていただいてます。」
そうなの?と、心の中の俺が言っていた。
でもその言葉を、香澄さんは否定しなかった。
「いずれ、結婚したいと思ってます。」
え、え?そうなの?まじ?
何言っちゃってんの?
冷静な自分はまだ戸惑っていたけど、それでももう一人の俺は止まらなかった。
「明日から、
二人で住む場所を探し始めます。」
え?え?住むの?俺と香澄さんが?
「改めて挨拶に伺います。
よろしくお願い致します。」
俺以上に動揺したお父さんは、固まったまま動かなくなった。
いや、こんな男と結婚なんてさせる父親いるかい!
俺が俺にそうツッコんだ。
「お父さん、そういう事だから。
またお母さんにも連絡するね。」
香澄さんはおかしな俺の発言に、おかしなことを付け足して言った。
俺たちって結婚するの?
誰か教えて?
「本日はいきなり、失礼いたしました。」
最後はとても社会人らしく、丁寧に頭を下げた。
その間お父さんは一言も何も発しなくて、次会う時、どんな顔をしたらいいのか分からなくなった。
「ねぇ、香澄さん。」
「ん?」
お父さんの元を去って、俺たちは自然と俺の家の方に歩いて向かっていた。歩いたら20分くらいかかりそうだと思ったけど、距離はあまり気にならなかった。
「俺たち、結婚するのかな?」
誰も聞く人がいないから、香澄さんに聞いてみた。すると香澄さんはぷぅっと膨れた顔をして、こちらを見た。かわいい。
「したくないの?」
「よし、役所に行こう。」
それを聞いて香澄さんはクスクスと笑った。繋いでいる手がとても暖かくて、もう一生離したくないと思った。
「つむ君。」
「ん?」
「夢、だったのかな?」
夢だったんだろうか。もう本当に良く分からない。
「どっちでもいいよ。」
「そうだね。」
でもそんなことはどうでもいい。ただ俺は、香澄さんが大好き。それだけだ。
「つむ君、大好き。」
俺の心を読んだように、香澄さんがにっこり笑って言った。それが可愛すぎて、もうこの不思議な気持ちのことも蓋をされた記憶のことも、すべてどうでもよくなった。
しばらく俺たちは無難で幸せな話を続けて、そうしているうちに香澄さんもまるで来たことがあるかのように、俺たちは俺の部屋へとたどり着いた。
「ただいま~。」
部屋に入って、香澄さんが言った。誰のうちだよと、思わず笑ってしまった。
「とりあえず、なんか飲もっか。」
訳が分からないまま香澄さんのところに会いにいって、訳が分からないままプロポーズして、そしてお父さんのところまで行ってしまった。
なんだか気持ちがドッと疲れた気がしてそう言うと、香澄さんも小さく「うん」といった。
「おっと。」
するとよっぽど疲れていたのか、靴を脱ごうとするとよろけてしまった。倒れないようにしようと壁に手をつくと、気が付けば香澄さんに立派な壁ドンをしている自分がいた。
「香澄さん。」
香澄さんは高揚した瞳で、俺を見上げた。
その目が可愛くてエロくて、俺の本体が元気になり始めたのがわかった。
「つむ君。」
香澄さんはそのうるんだ瞳で俺を見つめて、名前を呼んだ。爆発しそうだからやめてほしいと思った。
「見つけてくれて、
本当にありがとう。」
目を見つめられてそんなことを言われて、俺の感情はついにビックバンを起こした。
俺は香澄さんが言葉を言い終わる前に左手で香澄さんのあごを持ち上げて、香澄さんを食べてしまうくらいに深い深いキスをした。
ふとその時に、左手腕に見慣れないスマートウォッチが付いているのが目に入った。いつの間に自分はこんなものを買ったんだと思った。
「はぁ…っ。」
俺がそんなことを考えているうちに、香澄さんはハァハァと息を切らしていた。唇をそっと離すと香澄さんの唇はぷっくりと光っていて、俺はもう一回その唇にかぶりついた。
俺はそのまま、香澄さんを壁に押し付けた。そして唇は離さないまま手を服の中に入れて、尊いふくらみをもんでみた。
「…はぁ。」
しつこいくらいに、俺はキスを続けた。でも香澄さんも俺にこたえるみたいにして舌を一生懸命絡めてくれて、もう一生こうしてようかなとも思った。でもさすがに俺も息が続かなくなりそうで唇を離すと、香澄さんの息は完全に上がっていた。
その顔が最高潮にエロかった。
なんでかはよくわからないけど、もっと丁寧にしなければいけない気がした。でも一度爆発して我慢が出来なくなった俺は、またキスをしながら、ついに右手を香澄さんのスカートの中へ侵入させた。
「香澄さん。」
「…ぁっ。」
パンツの上を指でなぞっただけで、香澄さんは大きく体を揺らした。
「指に何か、
垂れてきたよ。」
そして何回も触らないうちに、まだパンツをはいているのに香澄さんのソコからはキレイな液が垂れて、俺の指にエロく流れた。
「い、いわないで…っ。」
香澄さんは恥ずかしそうに両手で顔を隠した。それが可愛すぎたからもう今夜は絶対に寝かせないと覚悟を決めて、香澄さんをお姫様抱っこした。
「前もこんなこと、あったよね?」
「うん…、でもいつだろう。」
香澄さんをゆっくりと俺の古びたベッドの上におろして、俺たちは二人、お互い情けない顔を見て笑った。
「わからないね。」
「うん、全然分からない。」
何もかも分からないまま、俺は楽しそうに笑う香澄さんの唇に優しくキスをした。
「香澄さん。」
「うん。」
「本当に、大好き。」
自分でも知らないうちに、香澄さんのことが愛おしくてたまらない事だけはちゃんと理解できた。香澄さんの目を見てしっかりと告白をすると、香澄さんは耳まで真っ赤になった後、小さく「私も」と言った。
「ああ、もうっ。」
愛おしすぎて、壊してしまいたい。
気持ちがあふれて止まらなくなって、俺は両手で香澄さんの小さな顔を包み込んだ。
「つむ君。」
すると香澄さんはまた目をうるませて、俺の名前を呼んだ。
クッソ、なんだよこの生き物は。
俺は顔を香澄さんにグッと近づけて、世界で一番近くで、女神の顔を眺めた。
「つむ、君。」
すると香澄さんは、今度はなんだか恥ずかしそうにもじもじとして俺を呼んだ。
「どうしてほしいの?」
突然、俺のS心に火が付いた。気持ち悪くにやけながらそう言うと、香澄さんはまた顔を真っ赤に染めた。
「キス、してほしい。」
もうダメだ、丁寧になんて出来そうにない。
俺はそのセリフを境にサルみたいに盛って、香澄さんの体を愛で始めた。
その時見覚えのない左手のスマートウォッチが鳴った気がしたけど、そんなことはもう全く気にならなかった。
「キレイ。」
香澄さんの服を脱がすと、左肩から腕辺りに大きなやけどがあるのが見えた。でもそのやけどの跡すら輝いてみえて、俺はそっとそこに、キスを落とした。
俺は中途半端代表だ。
俺みたいなやつが、女神の全身を愛でるなんて本当は恐れ多い。
でもそれがどうした。
俺は香澄さんが大好きで、その大好きな香澄さんは、今ここで確かに、俺の愛を受け止めてくれている。
これは夢なんかじゃない、今確かにここにある、俺の現実だ。
「つむ君、だめ…っ。」
「だから香澄さんのダメは
気持ちのサインなんだよ。」
少し空いたカーテンの隙間からは、キレイな月明りが差し込んでいた。
その明かりに照らされてぼんやり浮かんで揺れる香澄さんの瞳は、どこまでもキレイに澄んでいて、もう何の影も映っていなかった。
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