case5-5 女神・有巣香澄
平日は遅くなることも多くて、ご飯を買ってきて食べるってのがだいたい定番化していた。今日は香澄さんが色々と用意してくれていたからササッとご飯を食べて、いつも通りお風呂をすませた。
「香澄さん、さあ飲んで。」
「ええ?」
お風呂から上がってきた香澄さんに、とりあえずビールを差し出した。すると香澄さんは疑問符を頭にかかげつつもそのビールの缶を開けて、気持ちいい勢いで飲み始めた。
「どうしたの、急に。」
「ん?酔わせたくて。」
素直にそう言うと、香澄さんは「なにそれ」と言って笑った。でも喉が渇いていたみたいで、やっぱりさっきみたいにビールを勢いよく飲んで、すぐに一つ空になった。
「さあ、まだ飲めるでしょ。」
「なにそれ、ほんとに酔っちゃうよ?」
「酔っちゃってくれ。」
一人で飲ませるわけにもいかなくて、俺も一緒にちびちびと飲んだ。香澄さんはしばらく戸惑っていたけど、お酒がはいりだしたらどんどんペースが上がっていった。
そしてしばらくテレビを見ながら盛り上がっているうちに、だいぶ出来上がり始めた。
「つ~むくんっ。」
「ちょ。」
香澄さんはうつろな目で、俺を勢いよく抱きしめた。
その目がどうみても酔っぱらっていて、このまま寝てしまってもおかしくないと思った。
ちょっとやりすぎたなと思っていると、香澄さんは俺の胸におさまったまま、上目づかいでこちらを見た。
「酔っちゃったじゃあん。」
「やめろっ!
地球が滅亡するっ!」
本当に地球が滅亡するくらい可愛かったから、香澄さんの顔を手で押さえた。すると香澄さんはその手を無理やり避けて、「滅亡しな~い」と言った。
「するんだよ、ほんとに。」
酔っているせいでうるんだ瞳をこちらに向ける香澄さんに、我慢できなくなってキスをした。すると香澄さんはいつもより積極的に、口の中に舌を入れて答えてくれた。
「失敗だ。」
作戦は、完全に失敗した。
というより、成功し過ぎて俺への効果がてきめんになってしまった。こんな失敗の形てあるんだと思いながら、俺は香澄さんをお姫様抱っこした。
「香澄さん、
今日も元気に練習だよ。
覚悟してね。」
まるで部活でも始めるかのように、ベッドにおろした香澄さんに言った。香澄さんは酔って意識がうつろになっても恥ずかしそうな顔をして、小さく「うん」と返事をした。
その言葉を合図に、俺はいつもよりももっと丁寧に、香澄さんの全身を丁寧に愛撫した。
「だ、だめぇ…っ。」
「香澄さんのそれは
気持ちいいのサインだけど。」
潤奈が言う通り、香澄さんの感度はめちゃくちゃに高まっている感じがした。興奮している姿をみると自分まで興奮が高まってきて、俺のソコも今までで一番元気に反応していた。
もうすぐにでも入れたかったけど、それをぐっとこらえてしばらく聖域を触ることなく愛撫を続けた後、いよいよパンツに手を伸ばしてみた。
「あ、あれ…。」
湿ってる、気がする。
高まる気持ちをおさえながら、俺はいつも通りパンツの上からソコを丁寧に何度もなぞった。
「あぁ…っ。」
香澄さんの声は明らかにいつもより大きくて、体が跳ねる反応も大きかった。ついに興奮をおさえきれなくなったおれは、勢いよく最後の布を香澄さんからはがした。
「香澄さん。」
「な、なにぃ。」
「濡れてる、よ?」
そこは明らかに、今までと違って湿っていた。
パンツがべたべたになるとまではいかなかったけど、ローションがなくても指が入りそうなくらいには濡れていて、俺のソコはもう破裂しかけるくらいに膨張した。
「い、いわないで…。」
それを聞いた香澄さんは、恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
そのしぐさが可愛くて、もっといじめたくなってしまう男心を、香澄さんは知っているだろうか。
ついに我慢ができなくなった俺は自分の持てるすべての技術を駆使して、今日はとことん香澄さんを愛しつくすと決めた。
☆
結局それから、俺は初めて香澄さんの奥までそれを入れることに成功した。でも20数年間の経験を経て、ここで動いたら多分痛いんだろうと分かっていたから、今日は入れるだけにとどめて、香澄さんの全身を満足いくまで愛しつくした。
「大丈夫?」
「ん。」
今までは出来なかったけど、今日は明らかに香澄さんが絶頂に達してくれたのがわかった。そしてもう何度か分からないくらいイってぐったりした後、香澄さんは意識を失うみたいに寝てしまった。力が抜けてしまった俺もベッドに横たわると、ベッド全体が湿っているように思えた。
「なんだよこれ、最高かよ。」
腕の中にはすやすやと眠る天使がいる。寝顔が愛おしくてたまらなくなってまつ毛を指で一回なぞると、香澄さんは「ん」と声を出して俺の胸の方にグッと近づいてきた。
"私だってつむ君にしてあげたい!"
顔を見ていたら、今日の行為が頭の中に再生され始めた。
俺は入れるだけで満足だと言ったのに、酔っぱらった香澄さんは抵抗する俺を言いくるめて、手と口で奉仕をしてくれた。そのエロさと可愛さを思い出しただけでまたソコが元気になりそうになったのを感じて、俺は思わず声を出して「フッ」っと笑った。
「ほんと、中学生かよ。」
香澄さんが好きで好きでたまらなくて、セックスなんて出来なくても、一緒にさえいられればそれで満足だと思っていた。でもやっぱり体は正直で、どこまでも香澄さんを求めていた。
「好きすぎるな…。」
香澄さんと俺との関係が、また一歩前に進んだ気がした。
難攻不落の山を一つ登り切った達成感があって、もう俺たちはこれで大丈夫だと、そう言える自信もついてきた。
でも、やっぱり、何かまだ引っかかる。
そう思ってしまうのは、プログラムをここまで進行してきた弊害だろうか。
そう言えば最近相沢にも会っていないなと考えたくらいには、俺の意識もだんだん遠のいていった。
☆
「おはよ。」
目を覚ますと、布団から目だけだして、香澄さんがこちらを見ていた。
また犯してやろうかと調子に乗ったことを考えながら、香澄さんの体を自分の方に抱き寄せた。
「は~、好き。」
「もう…っ。」
おはようの代わりにまた愛を伝えたのに、はぐらかされてしまった。まあ何をしてもかわいいから許されるんだけど、かわいいので意地悪をしたくなる。
「そんなこと言ってると、
また昨日みたいに犯すよ。」
「昨日、
どんなんだっけ…。」
うっそだろ…。
もしかして飲ませすぎて記憶をなくしてしまうという失敗を犯したかと思って、香澄さんの顔を覗き込んだ。するとその顔は明らかに真っ赤に染まっていて、それが昨日のことを"覚えている"って伝えているみたいだった。
「わかった。
じゃあ再現してあげる。」
「うそ、うそ、ごめんなさい。
恥ずかしいからもうやめて…っ。」
この世に舞い降りた奇跡なのか…。
はたまたやっぱり女神なのか、
「いや、むしろ天災?」
「え…?」
とにかくもう、日本語の中では今の香澄さんの尊さを表す言葉がないように思えた。もし世界のどこかにそんな言葉があるとしたら、俺に今すぐ教えてほしい。
「お腹減っちゃった。」
「なんか食べにいこっか。」
昨日何時までああしていたのか全く覚えてないけど、もう時間は昼になっていた。俺たちは昨日あんなに乱れていたことが嘘みたいにちゃきちゃきと準備をして、ランチを食べに出かけた。
――――幸せだ、って思った。
☆
「お久しぶりです。」
俺がそんな幸せな日々を送っていたある日、また荷物を取りに家に帰ったら、そのころ合いを見計らったみたいに相沢が訪問してきた。
なんだか本当に久しぶりだ。
もはや懐かしく思いながら、いつも通り相沢を部屋の中に通した。
「本当に、
うまく行っていますね。」
「ですよね。」
最近家に帰ってきていないから、ロクな飲み物がなかった。
さっき買ってきた麦茶をとりあえずコップに注いで出したと同時に、相沢はそう言った。
「佐々木様の中途半端は、
もうほとんど矯正されています。」
「ほとんど、ね…。」
たぶんそれが"ほとんど"だってことに、気が付かない俺ではなかった。
気が付いているのにあと一歩踏み出せないのが、俺の中途半端が完全に矯正されていない証拠だ。
「有巣様の気持ちも、
ほとんど佐々木様に傾いています。
それは自分自身
一番感じている事ではないでしょうか。」
「そうだよなぁ。」
正直、挿入を達成したあの日、香澄さんの気持ちが自分に動いていることをしっかりと感じていた。だからこそ本当に幸せだって感じられたし、もうこれでいいのではないかとすら思う。
「今でも十分うまく行ってるし、
このままでも…。」
付き合っているからと言って、すべてに踏み込む必要はない。それに俺の中途半端だって、矯正されたとしても俺が完璧な人間に変わるわけではない。
思っている通りに伝えると、相沢は「そうですね」と言った。
「確かにその通りです。
佐々木様はここまで、
女性の気持ちを察して動けるよう、
どんどん成長されました。
その結果有巣様の気持ちを
自分の方に向ける事にも成功していますし、
プログラムは達成した、
と言っても過言ではありません。」
「じゃあ…。」
「でも。」
「いいじゃん」と言おうとしたのと同時に、相沢は言葉をかぶせた。
「でもいいんですか?
佐々木様はこれで。」
「いいのかって…。」
出来ればその答えを俺に教えてほしい。
俺はどこまでもおせっかい代表選手みたいで、香澄さんがまだ何か抱えている気がすることが、気にならないわけではない。
「いいと言われるのであれば、
終了という事で手続きさせていただきます。
手続きも十分通ると思いますので。」
「はあ。」
「もし終了でいいということでしたら
私まで連絡ください。
いつでも大丈夫です。」
また意味ありげな言い方で、相沢は言った。
コイツはいつだって答えを教えてくれない。最初はアシストするなんて言っていたのに、そんなの嘘じゃないか。
むしろ混乱させられてるとしか思えない状況に、俺は今までで一番動揺していた。でも相沢は相変わらず淡々と帰る準備をすすめて、「では」と言って立ち上がった。
「あのさ。」
帰ろうとする相沢を、最後の望みをかけて呼び止めた。相沢は無表情のまま振り返って「なんでしょう」と言った。
「どうしたらいいと思う?」
明確な答えが帰って来るとは思えなかったけど、思わず俺はそう聞いた。すると相沢は「そうですね」と言って、珍しくしばらく悩んでいた。
「もったいないと思います。」
「え?」
悩んだ末に、そんな言葉が出てきたのに驚いた。
すると相沢は不愛想な顔をやっと崩して、にっこり笑った。
「佐々木様は本当に頑張られました。
もちろん、
もう目的は達成していますが、
ここで歩みを止めてしまうのは
もったいないと思います。」
俺はプログラムをやめたって、香澄さんとの歩みを止めるわけではない。
でも多分やめてしまえば、これ以上踏み込むことも、同時にやめてしまうのかもしれない。
「まだ、出来ることがある…。」
「はい。そうです。」
相沢はまたニコッと笑って言った。
意外とこいつにも今まで励まされてきたんだなと、そこで初めて自覚した。
「初心に、かえってみてください。
そうすれば見えてくるものがあるはずです。」
またまた意味深な言葉を残して、相沢は颯爽と去って行った。
さっきまで幸せ前回だったはずの俺は、今度は頭を抱えてソファの定位置に腰を下ろした。
「初心に帰る、ねえ。」
そう言われても、何をどう帰ればいいのかよくわからなかった。
それに俺は、香澄さんと接するときは、いつだって初心を忘れていないつもりだ。
「わけわかんねぇ。」
もう何をどうしていいのか訳が分からなくなって、とりあえず背もたれにもたれた。するとその時、部屋の角に置いてあるカラーボックスが目に入った。
「初心初心。」
独り言を言いながら、カラーボックスの奥に隠した香澄さんの履歴書を取り出した。もうこれを見なくても香澄さんのことは気持ちいい場所まで語れると思ったけど、初めて相沢がここに来た日のことを思い出すためにも、履歴書をもう一回見てみる事にした。
「有巣、香澄ねぇ…。」
相変わらず女神みたいな名前だ。
佐々木侑なんて平凡な名前をしている俺とはやっぱり釣り合わない。
初心に帰るはずが、名前を見ただけでもはや自信を無くしそうだった。
それでも一度取り出したんだからじっくり見てみよう。
そう思って遍歴のところまで視線を落とすと、香澄さんの名字が、2回変わっていることに気が付いた。
「そう言えば…。」
そう言えば、今住んでいるのはお父さんのマンションだって言ってたな。
履歴書を見る限り、香澄さんの言う"お父さん"は、きっとお母さんが再婚した"お父さん"なのだろう。
そんなことよくある話だろうけど、なんとなくそこが気になり始めた。
「はぁ…。」
かと言って、どうすることも出来ない。気になったとしても、何の確証もない。
とりあえず今は家で香澄さんが待っているはずだから、香澄さんの家に行かなければ。
モヤモヤした気持ちを抱えながら、俺はテキトーに着替えをまとめて、香澄さんの家に向かった。
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