case5-2 女神・有巣香澄


香澄さんがお風呂から出てくるまでの時間が、永遠みたいに思えた。

いつも見ているテレビをつけていたものの、全く集中できなくて、残っていたシャンパンを気が付けば全て飲み干していた。



「はぁ~、お待たせ~。」



そうしているうちに、香澄さんの声が後ろから聞こえた。

見なくてもかわいいことは十分に分かっていて、想像だけで気持ちが高まってきた。


かと言ってこのまま見ずにいるわけにもいかない。

俺は早くなっている鼓動を必死に抑えながら、出来るだけそっと、後ろを振り返った。



「あ~シャンパンなくなってる~!」



濡れた髪の毛を拭きながら、香澄さんは言った。

その可愛さとエロさは想像をはるかに超えていて、漫画みたいに鼻血が出てきてもおかしくないと思った。


シャンパンを飲み干してしまったことを「ごめん」をいう余裕もなく見つめていると、香澄さんが「どうした?」と聞いてきた。



「ごめん、かわいすぎて。」

「なにそれ。」



香澄さんは冗談と思っているのかもしれないけど、俺はめちゃくちゃ真面目に言ってる。見たら死んでしまうかもとすら思っていたけど、逆に目が離せなくなって、ジッと香澄さんのことを見つめ続けた。



「髪の毛乾かさなくちゃ~。」



するとそんな俺の気持ちを全く理解してくれない香澄さんは、めんどくさそうに言った。


――――ついに俺の出番が来た、と思った。



「俺、乾かしていい?」



めんどくさがっている香澄さんの代わりに、俺がしてあげよう。

というのはただの口実で、とにかく、触れたかった。


今までは自分からはるか遠くの位置にいると思っていた女神が手に触れられる距離にいるような気がして、俺は罪深くも、触れてみたい気持ちになっていた。


でも本当にそんなことしていいのか。どこかでそう言っている自分もいたから遠慮気味に言うと、香澄さんは照れた笑顔で「うん」と言った。


そして女神はそのままドライヤーをもってソファーまで来て、俺の前にちょこんと腰を下ろした。



「お願いします。」

「はい。」



香澄さんを担当している美容師は、女の人だろうか。

男の人だったとしたら、この髪に仕事として触れられることがうらやましくて仕方なかった。香澄さんの髪は濡れていてもわかるくらい細くて繊細で、俺はそれを壊さないように優しく乾かした。



たまに見えるうなじがエロ過ぎて今すぐにでも食べたかった。

襲ってしまいそうな衝動を何とかおさえてふと香澄さんの顔を見てみると、幸せそうな顔をして少し微笑んでいた。



ああ、もう。

いい加減に、してください。



「終わった、よ。」

「ありがとう。」



衝動に勝利して髪を乾かし終わると、香澄さんはそう言って、にっこり笑って俺の方を振り返った。



「せっかく…。」



せっかく勝利したはずなのにその顔が天使過ぎてついに我慢が出来なくなった俺は、そのまま香澄さんを襲うみたいにして、かぶりつくようなキスをしてしまった。



いや、発情期のサルか。



どこかで冷静な俺は、そう言っていた。

でも俺本体がもはやいう事を聞いてくれなくて、気が付けば俺の左手は香澄さんの後頭部をおさえたまま、覆いかぶさるようなキスを続けていた。



「んん…っ。」



香澄さんは両手で俺の胸をつかんで、必死にそれにこたえてくれていた。そのしぐさがまた可愛すぎて、もう壊してしまおうと決めた。



「つ…むくん。」



唇を離すと、香澄さんは少し息を切らして俺を見上げた。



「ごめん、香澄さん。」



冷静な頭は謝っていたけど、体を制御できなくなった俺は、香澄さんをお姫様抱っこして、そのまま寝室へと連れて行った。初めて入った寝室からは香澄さんのいい香りがふわっと香ってきて、それが余計に俺の興奮を高めた。



「ごめん、もう無理だ。」



もう、我慢できそうになかった。

香澄さんをベッドにおろした俺はそのまままたかぶりつくみたいなキスを続けた。

そしてサルになった俺の右手は香澄さんのふくらみをつかんでいて、冷静な頭が優しくやるようにと指示を出していた。



「…ぁっ。

つ、つむ君、ゆっくり。」

「ごめん、無理。」



犯すみたいにして、俺は事を進めていった。

香澄さんが俺の手や口に反応して体をくねらすのがエロくて、女神だった。俺はその美しさに、ついに語彙力まで失った。



「はぁ…っ。」



そしてそのまま香澄さんの体を隅々まで愛でながら、丁寧に着ている服を脱がそうとした。



「ドア、ちゃんと閉めてほしいの…。」



すると香澄さんは俺の手を始めて止めて、そう言った。寝室の電気は真っ暗で、中途半端に空いたドアから光が漏れている程度だったから、ほとんど何も見えていなかった。それでも恥ずかしいのか香澄さんは、顔を赤らめて服をおさえていた。可愛い。



「全部みたいんだけど。」

「ダメ!」


少し意地悪したくなってそう言うと、急に香澄さんが強い口調になった。その声で興奮しているのが少し冷静になった俺の頭は、反射的に「ごめん」と謝って、素直にドアを閉めた。



「こっち。」



真っ暗になった部屋では、香澄さんを見失いそうだった。

でも香澄さんはそれを見越して声を出してくれて、俺はそれを頼りにベッドに腰掛けてもう一度香澄さんにキスをした。



「…ん。」



そしてキスをしながら、手探りでパジャマのボタンを一つずつ外していった。パジャマを脱がされると、香澄さんは暗闇でほとんど何も見えないっていうのに、ブラジャーのあたりを手で隠した。



「大丈夫、何も見えてないよ。」

「はずか、しい…っ。」



体を隠している手をゆっくりと離して、俺はついにブラジャーのホックも外した。部屋は暗いはずなのに目が慣れてきたせいか、香澄さんのお胸は光を放っているようにすら見えて、俺は赤ちゃんみたいにそれに吸い付いた。



「はぁっ…。」



香澄さんから漏れる息が、俺の興奮をさらに高めた。それから丁寧にことを進めたつもりだけど、自分でも知らないうちに、右手がパンツへと、向かっていた。



「つ、むくん…っ。」

「恥ずかしい?」



香澄さんは顔を隠してうんうんとうなずいた。

でも恥ずかしがっても逆効果でしかない。俺はそんな香澄さんに「かわいい」とだけ言って、パンツの上から大事なソコをなぞった。



「あぁ…っ。」



香澄さんがあげる声で、イってしまいそうだと思った。

でも声のわりにそこはまだ湿っているように感じなくて、俺はしばらくパンツの上から指でソコを撫で続けた。



「あぁ…んっ。」



そろそろいいだろう。



まだ湿った感覚はしていなかったけど、香澄さんの声はどんどん快感に溺れていっているように聞こえた。もうそろそろ大丈夫だろうと判断した俺は、香澄さんの薄ピンクのパンツをそっと下した。



「み、みないで…っ。」

「やだ、見せて。」



恥ずかしがる香澄さんも可愛いなと思いながら右手の指をソコに添えて見ると、やっぱりそんなに濡れていなかった。



あ、あれ…?



俺も決して威張って言えるほど経験人数が多いわけじゃない。

でも感覚的にもうそこが入れてもいいくらい湿っていてもおかしくないはずなのに、あまり湿っていないことに驚いた。



「つむ君。」



すると香澄さんは、冷静な声でそう言って体を持ち上げた。

何をするかと思ったら、ベッドの棚からチューブ状のものを取り出した。



「え、えっとね。

私、濡れにくいの。」



香澄さんが恥ずかしそうに俺に渡したのはローションだった。

香澄さんの方からそんなものを渡されると思ってなかった俺は、正直驚いていた。



「だからね、使って。」



冷静な頭になって、俺はローションを受け取った。

そしてその時、あの時の潤奈のことを思い出した。



"初恋の人とのそれを思い出したら濡れなかった"



あれだけ濡れやすかったアイツが、そう言った。

確かに体質ってあるだろう。だからこれを使ってするのだって、悪くない。



でも、本当に体質なんだろうか。




やっと自分の中のサルがどこかへ行って、香澄さんの顔を見てみた。すると色っぽい雰囲気はもちろんあるんだけど、なぜだか少し、震えている気がした。



「香澄さん。」



俺は香澄さんの名前を呼んで、ベッドに座らせた。そして恥ずかしくないように、一旦布団をかけた。



「ちょっと、待ってて。」



そう言って俺はベッドの上に香澄さんを置き去りにして、自分の鞄からあるものを取り出した。

一人で待たせているのが気になったから、俺はパンツいっちょという情けない姿で、香澄さんの元へ走って戻った。



「お待たせ。」



香澄さんは言いつけ通り、布団を巻いてベッドにちょこんと座っていた。

なんてかわいいんだと思いながら、俺はゆっくり香澄さんの前に腰を下ろして、「目つぶって」と言った。



香澄さんはまた俺の言った通り、そっと目を閉じた。

言う通りにしてくれるのがすごくかわいくて、やっぱり犯したくなった。


でもその衝動をおさえて、俺は手に持っていたリップの蓋を開けた。そしてそっと、香澄さんのあごをもって、それを唇に塗った。



「ん…?」



キスをされると思っていたのか、香澄さんは驚いて目を開けた。驚いた顔もまた可愛くて、思わず笑ってしまうと、リップが少しはみ出してしまった。



「これ…。」

「店に寄ったらあったから、

買っといたんだ。」


はみ出したリップを指でぬぐいながら、リップを手渡した。

すると香澄さんはそれを見て、パアッと嬉しそうな顔をした。



「ありがとう…っ!」

「うん。」


俺はそう言って、裸のまま香澄さんを抱きしめた。肌から伝わってくる体温がすごく暖かくて、一生こうしていたかった。




「無理、しないで。」

「無理なんて…。」



していないと言おうとして、香澄さんはやめた。



「あったかいね。」

「うん。」



本当に暖かくて、幸せだった。さっきまでサルのように興奮していたのが嘘みたいに、セックスなんてしないでいいとさえ思った。



「こうやってるだけで、

幸せなんだ。」

「私は…。」

「ウソ、ほんとはしたい。」



どう考えても俺の本体が香澄さんに触れていて、ごまかしようがないと思った。すると香澄さんは「じゃあ」と言って、続けてもいいよと暗に伝えてくれた。



「ゆっくり、進んでいこ。」

「つむ君…。」

「ごめんね、襲っちゃって。」



香澄さんは俺の言葉に、ゆっくりと首を振った。俺はそんな香澄さんの可愛い唇に、今度は優しくキスをした。



「香澄さん、大好きです。」



しっかり目を見て言うと、香澄さんは照れて下を向いた。やっぱり香澄さんは好きとは言ってくれなかった。それにこれだけ濡れてないってことは、相沢の言う通り、俺のことなんて好きじゃないかもしれない。



「おいで。」



上半身裸のまま、両手を広げて香澄さんを待った。すると香澄さんは素直に俺の胸の中におさまってくれた。



香澄さんがどうして好きでもない俺なんかに抱きしめられに来てくれるのかは、全く分からない。


でもいい。これからゆっくり、俺がどれだけ香澄さんのことを好きか分かってもらえばいい。そしていつか、俺のことを好きになってもらえれば、いい。



「つむくん。」

「ん?」

「ほんとにいいの?」


胸の中で香澄さんは言った。俺はさらに腕の力を強めて香澄さんをギュっと抱きしめた。



「そんなにしたかったの?」

「もうっ。」



香澄さんはまた照れて怒っていた。それすらもかわいくて、やっぱりいつか壊してやろうと野蛮なことを考えた。



「好きすぎる~!」

「きゃぁっ。」



香澄さんを抱きしめたまま、俺はベッドに倒れた。すると倒れこんだベッドで二人ばっちり目が合って、なぜかお互いクスクスと笑い合った。



「つむ君、ありがとう。」

「え?」

「なんでもない。」


香澄さんはそう言って、またギュっと俺の胸で丸まった。この人に降りかかる試練とか悲しみを、全部振り払ってあげたいと思った。



「ほら、ねんねだよ。」



裸の香澄さんがずっと小さく見えて、俺は香澄さんを抱きしめたまま布団をかぶせた。



「なにそれ。」



香澄さんは天使のほほえみでクスクスと笑っていたけど、俺は子ども扱いをやめずに、今度は香澄さんの背中をトントンしはじめた。



「つむ君。」

「ん?」

「あったかい。」

「うん。」


そう言ってから5分もたたないうちに、胸の中で小さな寝息が聞こえ始めた。起こさないようにそっと顔を覗き込んでみると、寝顔まで天使の香澄さんが、そこにいた。



「ほんとに、俺の…。」



まだ状況を飲み込めてないみたいで、現実かどうか確かめるためにも、香澄さんの頬を触ってみた。



「ん…。」


すると香澄さんはくすぐったかったのか俺の胸にギュっとしがみついて、しばらくするとまた動きが停止した。



「可愛い。」



この世の可愛いが全て詰まったような、そんな光景だった。冷静に考えたらこんな状況で寝れるはずがなくて、俺はしばらく香澄さんの寝顔を眺めていた。



「どうしたもんか。」




"あの人には絶対何かある"



そう言い切った潤奈のセリフが、ここで現実味を帯びてきた。


それがなんなのか全く見当もつかないけど、たぶんそれのおかげで、俺は今香澄さんと裸で抱き合って寝れている気がする。



「絶対…。」



絶対に、俺がどうにかしてあげる。

小さい香澄さんを抱きしめて、そう思った。香澄さんは相変わらず小さく寝息を立てていて、俺は寒くないように布団をまたかけなおそうとした。



「あれ…?」



すると、カーテンの隙間から漏れている月明かりに照らされて、香澄さんの左肩から腕のあたりに、大きなやけどの跡があるのが見えた。

真っ暗にしてほしいって言ったのはもしかしてこれを見られたくなかったのかな。



俺はまったく気にしないけど、本人にとって何がコンプレックスになっているかなんてわからないものだ。俺はそのあとを隠すみたいに布団をちゃんとかけなおして、自分もそろそろ眠りにつくことにした。






朝、目が覚めると見慣れないベッドの上にいた。

ここまで来ても自覚がない俺の腕には確かにまだぬくもりがあって、そっと目をおろしてみると、いつ着たか分からないけどパジャマをちゃんと着て寝ている香澄さんが寝ていた。



「かっわい…。」



朝って、誰しも一番コンディションが悪くなる時じゃないか。

でも朝の香澄さんの寝顔も最強にかわいくて、やっぱり犯してしまいたくなった。



「ん…。」


しばらくすると、香澄さんはゆっくりと目を開けた。でもまだ寝ぼけてるみたいでボーっと俺の胸のあたりを見たまま静止していた。



「まだ寝てていいよ。」



無理やり起きようとしているように見えて、そう声をかけた。すると香澄さんは寝ぼけたままでこちらを見上げた。



「つ、むくん。」

「うん。」

「おはよぉ。」

「お、おはよ。」


目をこすりながら朝の挨拶をする香澄さんの破壊力も、爆弾級だった。寝てていいと言ったのに俺は香澄さんを強く抱きしめて、「可愛すぎる!」と叫んだ。



「ね、つ、つむ君。

あた、ってる。」

「ごめん、生理現象だから許して。」



朝っぱらから俺の本体は、元気に香澄さんに挨拶をしていた。

本当は寝込みを襲いたくなったけど、とりあえず触れるだけのキスをして、香澄さんを近くで見つめた。



「や、やめて。

朝だし…。」

「なんで?

よだれ垂れててもかわいいのに。」

「え?!たれてた?!」

「たれてない。」



急いで口の周りを拭いていた香澄さんは、ついに怒って俺の胸をグーでポンと叩いた。



「つむ君のバカ。」

「何してもかわいいだけだから

逆効果だよ。」

「何言ってんの。」



俺たちはお互いのぬくもりを布団で感じながら、クスクスと笑った。その時間が暖かくて幸せで、やっぱりセックスなんてなくてもいいと思った。いや、したいけど。



「あ~、このまま寝ちゃおうか。」



ずっと幸せをかみしめてたくて、俺はまた香澄さんを抱きしめた。すると香澄さんは「ダメ、買い物行くんだもん」と言っていたけど、かといって俺の手を振り払おうともしなかった。



「買い物、行くんじゃないの?」

「もうちょっとこのまま。」



さっきとは矛盾したことを言いながら、香澄さんはまた目をつぶった。最初は愛おしすぎて頭を撫でていた俺も、香澄さんのぬくもりを感じている間に、二度寝をしてしまった。





次に目を覚ましても、香澄さんはまだ俺の腕の中にいた。

まだまだ寝かせてあげたいけど、さすがにもう昼になってしまう。俺は自分の心を鬼にして布団から立ち上がって、とりあえずコーヒーでも淹れることにした。



「ん~寝ちゃったぁ~。」



コーヒーが出来上がるころ、香澄さんは背伸びをしながら起きてきた。寝ぐせすら天使だった。



「いい匂い。」

「コーヒー、飲むでしょ?」

「うん。」



香澄さんはニコニコと笑ってダイニングテーブルに座って、コーヒーをおいしそうにすすった。するとそのあとは素早く立ち上がって洗面所に行ったと思ったら、10分くらいすると完璧な姿で戻ってきた。



「はっや。」

「そう?」



すっぴんでも香澄さんは可愛いけど、化粧をしてさらに可愛くなるまでの時間が短すぎた。ポテンシャルが高い人はそんなに手をかけなくていいんだろうなと思いながらジッと準備を眺めていると、俺が着替える前に香澄さんは全部準備を終えそうになっていた。



「ねぇ、つむくんまだ?」

「あ、ごめんなさい。」



せかされるがままに、俺は軽く寝癖を整えて私服に着替えた。リビングに戻ると香澄さんは、手鏡をもって昨日プレゼントしたリップを塗っていた。



「かわいい。」



何を塗ってもかわいいんだけど、なんなら何も塗らなくてもかわいいんだけど、その色は香澄さんにピッタリだった。香澄さんもこちらを振り返ってにっこり笑って、「ほんと?」と言った。



「ほんと嬉しい。

ありがとね、つむ君。」

「い、いや。」



ごちそうさまです。

あんな数百円のリップ一つでそんな笑顔が見れるのなら、何本でも買っていきたいと思った。香澄さんは俺がドキドキしている間に大事そうにポーチにリップをしまってくれて、「じゃあいこっか」とまたにっこり笑った。



尊い、尊すぎる。




「まずどこから行く?」

「とりあえず、お腹すかない?」



もう時間がほとんどお昼になっていたから、買い物前にランチを食べることにした。エレベーターの中でスマホを取り出して、行きたいお店をみせてくる香澄さんの笑顔が可愛くて、もうお腹いっぱいだった。



「はい。」



エレベーターを降りて、香澄さんに腕を組むように促した。すると香澄さんは頭にはてなを浮かべたまま、首をかしげてこちらをみていた。



「もう。」



この人って、俺が思っている以上に純粋な人なのかもしれない。俺はまだはてなの香澄さんの手を取って、自分の腕に絡めた。



「離れないでね。」

「うん。」


嬉しそうに笑って、香澄さんは言った。

もう、ずっとずっと離れないでほしい。


プロポーズみたいなことを心の中で思っていることは一旦秘密にして、俺はいかにランチが楽しみかって話す香澄さんの笑顔を、気持ち悪いニヤケ顔で見つめ続けた。


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